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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>
4-5:夕暮れの風は思っていたより冷たい
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フィディスは食堂の椅子に座り、残りの子供達の面倒を見た。しかし、台所で子供達と一緒にお菓子作りをする希空についつい目がいってしまう。アランは察したかのように、フィディスの膝の上にいる子供を抱き上げると、自分の膝に座らせた。
「お前は相変わらず剣術を磨いているんじゃろ? そろそろ剣ではなく、人に目を向けてみてはどうだ?」
「――な、なんでこのタイミングでそんな事を言うんだ。冗談はよしてくれ」
「ふぉふぉ。何も隠さなくてもいい。先程の希空様の『聖女の舞』、……お前の母親の姿に似ていたのだろう?」
「た、たまたまだ! それに、もう何年も前だ。覚えていない」
頬を赤くし、不貞腐れるフィディスを見て、アランは多くを語らず、膝に座らせた子をフィディスに託し、お茶の準備をしに行った。台所では子供達が一生懸命お菓子作りに励んでいた。希空と子供達の歓声が上がったとともに、台所から甘く香ばしい香りが漂ってきた。希空はお菓子をバスケットに乗せると、子供達と一緒にフィディス達の元へやってきた。
「ほう、クッキーですか。素晴らしい焼き色と良い香りです」
「へぇ、お前、本当にお菓子作れんだな。で、お味の方は――」
「あっ! ちょっと! 子供達がいる前で行儀悪い!」
子供達が席に着いて、お祈りを捧げる前に、フィディスは希空が持って来たクッキーをひょいと一枚取り、口の中に放り込んだ。それを見た希空は席から立ち上がると、フィディスの頭にチョップした。更に、それを見た子供達はフィディスを指差し、声を出して、笑った。
「ふぉふぉ、フィディスと希空様はとても仲がよろしいんですね」
「「――あり得ない!」」
お茶の時間はとても楽しく、子供達の夢や日常生活について聞いた。純粋な目をして、一生懸命伝えようとする子供達の姿が可愛くて堪らなかった。
「希空お兄ちゃんは、なんで聖女になったの?」
「えっ……」
希空は唐突な質問に言葉を詰まらせた。崇められるような存在になりたいなんて言えないし、そもそも自分が聖女の素質があるかどうかも不明確だ。
「え、えっと、気付いてたら、なってたぁ……みたいな? ……あっ、クッキー無くなりそうだぁ」
希空は笑って誤魔化した。そして、残り少なくなったクッキーを指差し、子供達の注意を逸らした。子供達の関心がクッキーへ向いたのを見て、胸を撫で下ろした。それを察したのか、フィディスは突然立ち上がり、帰りの支度をし始めた。
「さてと、俺らはこの辺で失礼する。食材を買いに行かないと、日が暮れてしまう」
「えーっ、フィディスお兄ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「帰んねぇと怒られんだよ。お前達も門限破ったら、アラン様に怒られるだろう? おい、お前もまったりお茶飲んでないで、買い出し行くぞ。店閉まっても知らねぇぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! アラン様、ご馳走様でした。お茶とっても美味しかったです」
希空は急いで、フード付きケープを付け直すと、アランに深々と礼をし、子供達に手を振った。アランと子供達は門の前まで見送ってくれた。希空は先へ先へ行くフィディスの大きな背中を追いかけた。
「はぁはぁ……。だから、ゆっくり歩いてよ」
「お前は覚悟が出来ているのか?」
「へ? なんて?」
希空は息を整えながら、フィディスの後ろをついていったが、フィディスが急に立ち止まり、振り返った。希空は思わずぶつかりそうになった。希空が見上げると、フィディスが真剣な顔でこちらを見ていた。
「だから、聖女に対する覚悟は出来ているのか? と聞いてるんだ。聖女はお前が思っている以上に過酷だぞ。最悪、命を落とすかもしれないんだぞ? それでも、聖女をやるのか?」
「…………それは分からない。そもそも聖女の素質もないのに、そんな事言われても……困る」
「ふん、その程度か。……だったら、『聖女の舞』の真似事なんか二度とするな。分かったな」
「だから、あれはたまたま踊っただけであって――」
フィディスは苛立った表情をして、冷たい声で希空に言うと、再び街の方へ向かって、ゆっくりと歩き出した。希空は怖くて、声が震えた。自分はただ曲に合わせて踊っただけなのに、なんでそんなに怒られないといけないのかが希空には分からなかった。
希空は黙って、フィディスの後ろを歩いた。先程の商店が立ち並ぶ広場に着いても、フィディスは黙り込んだままだった。希空はお目当ての材料を見つけ、フィディスの服を二回引っ張って、ついて来てもらって、材料を買う。フィディスは店主とは会話する癖に、希空には目もくれず、必要最低限の会話以外はひたすら沈黙を貫いた。行きはあんなに楽しいと思っていた街の視察も、帰りにはこれっぽっちも楽しさを感じなかった。
「……必要なものは全部買いました」
「ああ……」
楽しそうに話す親子や家路を急ぐ子供達の笑い声が沈黙で歩く二人の横を通り過ぎていく。希空が隣を歩き、荷物を持ってくれているフィディスを見上げるも、フィディスは希空と目を合わせず、ずっと前を向いていた。希空は胸がギュッと締め付けられるような感じがした。そして、希空はなるべくフィディスが視界に入らないように、フードを深く被り直した。
「お前は相変わらず剣術を磨いているんじゃろ? そろそろ剣ではなく、人に目を向けてみてはどうだ?」
「――な、なんでこのタイミングでそんな事を言うんだ。冗談はよしてくれ」
「ふぉふぉ。何も隠さなくてもいい。先程の希空様の『聖女の舞』、……お前の母親の姿に似ていたのだろう?」
「た、たまたまだ! それに、もう何年も前だ。覚えていない」
頬を赤くし、不貞腐れるフィディスを見て、アランは多くを語らず、膝に座らせた子をフィディスに託し、お茶の準備をしに行った。台所では子供達が一生懸命お菓子作りに励んでいた。希空と子供達の歓声が上がったとともに、台所から甘く香ばしい香りが漂ってきた。希空はお菓子をバスケットに乗せると、子供達と一緒にフィディス達の元へやってきた。
「ほう、クッキーですか。素晴らしい焼き色と良い香りです」
「へぇ、お前、本当にお菓子作れんだな。で、お味の方は――」
「あっ! ちょっと! 子供達がいる前で行儀悪い!」
子供達が席に着いて、お祈りを捧げる前に、フィディスは希空が持って来たクッキーをひょいと一枚取り、口の中に放り込んだ。それを見た希空は席から立ち上がると、フィディスの頭にチョップした。更に、それを見た子供達はフィディスを指差し、声を出して、笑った。
「ふぉふぉ、フィディスと希空様はとても仲がよろしいんですね」
「「――あり得ない!」」
お茶の時間はとても楽しく、子供達の夢や日常生活について聞いた。純粋な目をして、一生懸命伝えようとする子供達の姿が可愛くて堪らなかった。
「希空お兄ちゃんは、なんで聖女になったの?」
「えっ……」
希空は唐突な質問に言葉を詰まらせた。崇められるような存在になりたいなんて言えないし、そもそも自分が聖女の素質があるかどうかも不明確だ。
「え、えっと、気付いてたら、なってたぁ……みたいな? ……あっ、クッキー無くなりそうだぁ」
希空は笑って誤魔化した。そして、残り少なくなったクッキーを指差し、子供達の注意を逸らした。子供達の関心がクッキーへ向いたのを見て、胸を撫で下ろした。それを察したのか、フィディスは突然立ち上がり、帰りの支度をし始めた。
「さてと、俺らはこの辺で失礼する。食材を買いに行かないと、日が暮れてしまう」
「えーっ、フィディスお兄ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「帰んねぇと怒られんだよ。お前達も門限破ったら、アラン様に怒られるだろう? おい、お前もまったりお茶飲んでないで、買い出し行くぞ。店閉まっても知らねぇぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! アラン様、ご馳走様でした。お茶とっても美味しかったです」
希空は急いで、フード付きケープを付け直すと、アランに深々と礼をし、子供達に手を振った。アランと子供達は門の前まで見送ってくれた。希空は先へ先へ行くフィディスの大きな背中を追いかけた。
「はぁはぁ……。だから、ゆっくり歩いてよ」
「お前は覚悟が出来ているのか?」
「へ? なんて?」
希空は息を整えながら、フィディスの後ろをついていったが、フィディスが急に立ち止まり、振り返った。希空は思わずぶつかりそうになった。希空が見上げると、フィディスが真剣な顔でこちらを見ていた。
「だから、聖女に対する覚悟は出来ているのか? と聞いてるんだ。聖女はお前が思っている以上に過酷だぞ。最悪、命を落とすかもしれないんだぞ? それでも、聖女をやるのか?」
「…………それは分からない。そもそも聖女の素質もないのに、そんな事言われても……困る」
「ふん、その程度か。……だったら、『聖女の舞』の真似事なんか二度とするな。分かったな」
「だから、あれはたまたま踊っただけであって――」
フィディスは苛立った表情をして、冷たい声で希空に言うと、再び街の方へ向かって、ゆっくりと歩き出した。希空は怖くて、声が震えた。自分はただ曲に合わせて踊っただけなのに、なんでそんなに怒られないといけないのかが希空には分からなかった。
希空は黙って、フィディスの後ろを歩いた。先程の商店が立ち並ぶ広場に着いても、フィディスは黙り込んだままだった。希空はお目当ての材料を見つけ、フィディスの服を二回引っ張って、ついて来てもらって、材料を買う。フィディスは店主とは会話する癖に、希空には目もくれず、必要最低限の会話以外はひたすら沈黙を貫いた。行きはあんなに楽しいと思っていた街の視察も、帰りにはこれっぽっちも楽しさを感じなかった。
「……必要なものは全部買いました」
「ああ……」
楽しそうに話す親子や家路を急ぐ子供達の笑い声が沈黙で歩く二人の横を通り過ぎていく。希空が隣を歩き、荷物を持ってくれているフィディスを見上げるも、フィディスは希空と目を合わせず、ずっと前を向いていた。希空は胸がギュッと締め付けられるような感じがした。そして、希空はなるべくフィディスが視界に入らないように、フードを深く被り直した。
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