召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>

4-4:ライアーと聖女の舞

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 男性は広場が見渡せる場所にある三人程度が座れそうな腰掛石に座った。希空も男性について行き、男性の隣に座った。


「私はこの孤児院を管理しているアランと申します。エミュは教会で頑張ってますか?」
「はい。今は僕の世話をして下さっています」
「ほう。あの子が聖女様のお世話係とは……。頑張っているのですね」
「僕の事は希空って呼んで下さい。それより、アラン様はエミュの事知っているんですか?」
「ええ、知ってますよ」


 アランはにこやかな顔をしながら、フィディスと遊ぶ子供達を見た。希空はそこから先の話を聞いてみたかったが、場の空気を悪くすると思って、黙って、アランと同じように子供達を見た。


「ねぇ! フィディスお兄ちゃん! またライアー弾いてよ!」
「はぁ? セトが弾けばいいだろ」
「お兄ちゃんみたいに上手く弾けないもん。今、ライアー取って来るね!」


 セトという少年は嬉しそうに走って、孤児院の中へ入っていった。そして、数分後、ライアーを持って、フィディスに押し付けるように渡した。フィディスは仕方なくライアーを弾く事にした。子供達と歩きながら、弾く曲を決めているフィディスは希空に近付き、そこを退くように手で払った。アランと希空が腰掛石から立ち上がると、フィディスは腰掛石に座り、ライアーを構えた。子供達はワクワクした表情で、周りに集まり、地面に座った。


「幼い頃に父親から教わったそうで、見た目に反して、上手なんですよ」
「はぁ…………」


 フィディスは深呼吸をし、演奏を始めた。アランの話を半信半疑で聞いていた希空は驚いた。優しく体を包み込むような、とても透き通った音色が響き渡る。街から離れている事もあり、よりはっきりと綺麗に聞こえる。日差しが少し強い時間帯だが、穏やかな風が吹き、その風と共に音色が自分の元へ届いてくる。暑さを忘れさせるような、癒しの音色だ。こんな図体と態度だけデカいフィディスがこんな綺麗な演奏をするとは思っていなかった。


(なんか悔しい。どうせ演奏が終わったら、「お前はライアー弾けないだろ」とか馬鹿にしてきそう。……それにしても、聴いていると、体がウズウズしてくる)


 希空は居ても立っても居られず、広場の真ん中へ行くと、胸に手を当て、深呼吸した。そして、腕を構えて、ゆっくりと音色に合わせて、踊り始めた。指先は真っ直ぐに伸び、しなやかな体の動きに、ワンピースのスカート部分がふわりと優しく広がる。子供達も希空の踊りに興味を示し、次第に希空の方を見る。それに気付いたフィディスも希空をチラ見する。
 皆が見ている事を忘れて、希空は踊った。フィディスの演奏が終わると同時に、ポーズを決めると、風でフードが靡き、希空の顔が露わになる。頬を伝う汗などが太陽の光によって、輝き、その垂れる汗さえも綺麗に見えた。フィディスは希空の美しい姿にすっかり釘付けだった。


「お姉さん、凄い! 初めて見た! 素敵!」
「いや、僕、お姉さんじゃなくて、お兄さんなんだけど……」


 女の子達は希空に駆け寄り、目を輝かせながら、希空に興味津々だった。アランも拍手し、希空に近付いた。


「大変素晴らしい『聖女の舞』でした。希空様、大変失礼なのですが、その『聖女の舞』は希空様のものですか?」
「『聖女の舞』って今のですか? 僕はただ曲に合わせて、適当に踊っただけなんですけど……」
「そうなのですね。でも、おかしいですね……」


 アランは蓄えた白髭を触りながら、不思議そうに希空の事をまじまじと見た。希空が気まずそうにしていると、先程のセトがアランに近付き、アランの服を引っ張った。


「アラン様、そろそろお茶の時間です。折角だから、フィディスお兄ちゃんにも、あと、このお姉ちゃんにもお茶を出しましょう」
「――ああ、そうですね。すっかり忘れていました。……あ、私とした事が。子供達のおやつを準備するのを忘れていました」
「えぇ! おやつ抜きかよぉ!」
「……あ、だったら、僕が作りますよ。簡単なお菓子なら作れますよ。台所を案内していただければ――」


 希空はガッカリする子供達を見て、お菓子作り役を名乗り出た。子供達はパァッと顔を明るくし、話の途中にも関わらず、希空の手を引っ張って、孤児院の台所に案内した。フィディスとアランはその様子を見て、やれやれといった感じで孤児院の中へ入った。
 孤児院の内部は逆L字型になっており、教会と孤児院が一体化したものだった。入って左側に廊下が伸びており、ドアがいくつも並んでいた。ドアには名前が書かれたプレートがぶら下がっており、どうやら子供達の部屋のようだ。そして、突き当たりに小さな食堂と台所があった。よく見ると、自分の部屋にある台所とは違い、火を燃やすために必要な薪や不要な紙などが準備され、自分達で火をおこすタイプだった。パントリーも覗いてみると、常温保存が出来る食品や、乾物、飲み物が並べられていた。


「お手伝いしてくれる人?」
「はーい!」


 希空が子供達に聞くと、数人手を上げた。小さい子達はアランとフィディスに預けた。希空はフード付きケープを脱ぐと、フィディスに手渡した。そして、手伝いをしてくれる子供達に声を掛けながら、一緒に手を洗い、台所に立った。
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