召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>

4-3:鳥とキノコの串焼き

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「そろそろ下りてくんねぇか? 俺も流石に恥ずかしくなってきた」
「…………うぅっ」


 希空がフィディスの背中に隠れながら、街を偵察していると、広場中央の噴水前までやって来た。確かに言われてみると、すれ違う人達の視線とクスクスと笑う声がしたような気がした。希空は恥ずかしくなり、フードを改めて深く被り、無言でフィディスの背中から下りた。そして、フィディスの背中を拳で一発殴った。
 フィディスには希空の鉄拳は全く効かず、例の串焼き屋を指差すと、進み始めた。フィディスは歩く速度も速いため、どんどん先へ行ってしまう。人の往来が多い広場で、希空は他の人達より頭一つ二つ出たフィディスの頭を目印に、必死に人の間を通り抜け、店の前に着いた。屋台のようなお店で、香ばしい香りと煙が漂っていた。


「モディのおっちゃん! 鳥とキノコの串焼き二本くれ!」
「おぉ、フィディスか! だいぶ久し振りだな。おっ、隣にいるのは恋人か?」
「ちげぇよ。こんな子供みたいなの、俺の好みじゃねぇ」
「希空と申します。よろしくお願いします」


 心底腹が立つというか、癪に障るフィディスの発言に、希空はフィディスの脇腹に思い切りチョップで突いた。フィディスは体をくねらせ、くすぐったそうにしていた。希空はやってやったと思っていたが、すぐにフィディスのチョップが自分の頭の上に落ちてきた。そんなやり取りを見て、店主は声を出して、笑っていた。そして、フィディスは店主から串焼きを二本受け取ると、エミュから受け取った金袋を取り出し、代金を払った。


「あっちの橋で食うぞ」


 フィディスは串焼きを持つと、また歩き始めた。希空は逸れないように、フィディスの軍服の裾を掴んだ。フィディスは軍服を掴まれたのが分かると、少し歩く速度を遅めた。広場から少し離れた所に小さな川があった。その小川に架かる古い石橋を半分進んだ所で、フィディスは立ち止まり、石橋の欄干に凭れ、串焼きを食べ始めた。希空も欄干に凭れかかり、フィディスから串焼きを受け取った。改めて近くで見ると、大きい。前居た世界での焼き鳥をイメージしていたが、これは完全にバーベキューサイズの串焼きだ。タレではなく、塩コショウで味付けされ、炭火焼ならぬ赤炎石焼なので、外はカリッと、中はジューシーで、キノコはエリンギに近い味と食感だった。


「確かに美味しいんだけど、これ全部食べられるかな……。これ本当に一人前?」
「なんだ、食わねぇのかよ」
「えっ! もう食べたの? 良く噛んだ? 飲み物じゃないんだよ……」
「で、お前はもう食わねぇの?」
「…………フィディスが食べたいだけでしょ? はい、あげる」


 希空にとって、半分位でお腹いっぱいだ。残りを差し出すと、フィディスは今まで見た事が無い位にとても嬉しそうな顔をし、希空から串焼きを受け取ると、美味しそうに食べ始めた。


(美味しそうに食べる男の人は確かに好きだけど、フィディスは……なんか違うというか)
「あーっ! 食った食った! やっぱ、モディの串焼きはうめぇな! にひひっ」
「言っておくけど、帰りにまた買うのは無しだよ。無駄遣いしたら、エミュに怒られるよ」
「チッ、先を読まれたか。まぁ、でも、エミュにバレなきゃいいんだよ」


 希空はフィディスの悪い笑みに呆れた。希空は石橋の欄干から覗くように川を見た。透き通った川の中で小さな魚達が自由気ままに泳いでいる。見ているだけで癒され、ずっと見ていられる。希空が泳ぐ魚を眺めていると、石橋の向こうで鐘の音が聞こえた。音がする方を向くと、古びた小さな教会みたいな建物が見えた。


「あそこも教会? 随分古そうだけど……」
「あそこは教会というより、孤児院だ」
「孤児院?」
「ああ。そんな事より他の場所を見て回ろう。お前は食材を買うんだろう?」
「そうだけど、あそこ行こうよ」


 希空は孤児院を指しながら、フィディスの腕を何度も引っ張った。頑なに動こうとしないフィディスに愛想を尽かし、希空は一人でそこへ向かった。フィディスは額に手を当て、ため息をつき、仕方なく希空の後を追った。孤児院が近くなるにつれ、民家は少なくなり、先程までの賑わいが遠くに聞こえた。孤児院の門から中の様子を窺うと、子供達が広場で無邪気に遊んでいた。子供達はフィディスの存在に気付くと、嬉しそうに駆け寄って来た。


「フィディスお兄ちゃん! 遊びに来てくれたの? 今日はエミュお兄ちゃんはいないの?」
「お前達、元気にしてたか? 今日はたまたま来ただけだ。エミュは教会で仕事だ」


 フィディスは子供達に両腕を引っ張られ、孤児院の中へ入っていった。希空が勝手に入って良いのか迷っていると、孤児院から白髪白髭の顔が整った男性が出てきて、微笑みながら、希空に近付いてきた。


「初めまして、聖女様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっ! 僕は、せ、聖女じゃないです……。フィディスの付き添いで」
「ふぉふぉ、聖女様は嘘をつくのがお上手ではないのですね。私から見れば、立派な聖女様ですぞ。ここで立ち話もなんですから、どうぞ中へお入りください」


 希空は男性にお辞儀をすると、男性の後をついていった。フィディスは子供達に肩車をしたり、腕に掴まった子供達を持ち上げたりして、遊び戯れていた。
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