召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
33 / 117
第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>

4-2:楽しい休日

しおりを挟む
 いつもより早く目が覚めた。希空はベッドから下りると、ふらつかないか確認した。昨日よりかはマシだ。試しにその場でくるんと一回りしたが、問題無かった。エミュが朝食を持って、やって来た。あまり食は進まないが、念願の外出のために全部食べた。エミュからも合格点を貰い、希空は上機嫌で出掛ける支度をした。
 希空はいつも着ている白のノースリーブワンピースで出掛けると思っていたが、エミュがフード付きケープとバレエシューズを用意してくれていた。ケープはコットンレース生地で出来ており、金色の糸で草花の刺繍を施されており、綺麗だった。バレエシューズはいつも同じものを履いていたが、外出のために新しく用意したそうだ。


「エミュ、これ位、自分で出来るから」
「いえ、今日は希空様が初めて外出される日です。きちんとお支度をさせてください」
「わ、分かったよ」


 エミュはいつも以上に希空の身だしなみを整えた。そして、ケープのサテンリボンを縛ると、再びおかしくないかを遠目からチェックした。そして、最後に、頭の上から香水を振りまいた。霧状になった香りが全身を包み込む。ラベンダーの華やかで優しい香りの後に、サンダルウッドの落ち着いた香りが漂ってくる。


「そんな洒落た香水つけても、どうせ屋台のニオイで意味ないけどな」
「フィディス!」


 フィディスはいつものようにノックもせずに部屋へ入って来た。エミュが希空に香水をつけている様子を見て。噴き出すように笑った。エミュは怒った顔をして、ズカズカとフィディスの前に行くと、「聖女様が外出する時は――」と説教し始めた。フィディスは頭を掻きながら、適当に相槌を打った。
 エミュは礼節を重んじるタイプで、適当なフィディスと真逆だ。エミュが怒るのも分からなくはないが、希空はそれよりも早く街へ行きたかった。希空がウズウズしていると、フィディスが希空の腕を取り、エミュから逃げるように部屋を出た。希空は引っ張られるように廊下を走った。そんな中、後ろを振り返ると、地団駄を踏むエミュの姿が見えた。


「……ちょ、ちょっと待って。……はぁはぁ、流石に病み上がりだから、ちょっと休ませて」
「なんだ、もう疲れたのか?」


 フィディスは希空の腕を引っ張って、部屋から教会の通行門手前までずっと走り続けたのだ。病み上がりじゃなくても、希空にとってはフィディスの走る速度は速過ぎる。街へ行くのもおろか、通行門手前でまた倒れて、部屋へ逆戻りかと思う位、息が上がった。希空は息を切らしながら、フィディスに止まるように言った。


「フィディス様は何とも無いかもしれないけど、ちょっとは僕に合わせてよ……」
「なんだよ、早く行かねぇとモディのとこの鳥とキノコの串焼き食えねぇぞ。あと、俺に敬称は不要だ。フィディス様とか呼ばれるのはむず痒い」
「はぁ……? それって自分が食べたいだけでしょ?」
「ほら、早くしろよ。歩けねぇのなら、ほら、背負ってやるよ。ほら、早く」
「この年になって、おんぶって……」


 フィディスは希空の体力の無さに呆れ、希空の前に来ると、背中を向けて、しゃがんで、おんぶの体勢になって、希空を急かした。希空は周りを見渡すと、じっと見つめる通行門の門番と目がバチッと合った。希空はおんぶしてもらうのを躊躇ったが、フィディスが人目を気にせずに急かしてくるので、希空はやけになって、フィディスの大きな背中に身を預けた。フィディスが希空をおんぶして立ち上がると、希空は視線の高さに驚いた。


「なんだ、お前は軽いな。子供をあやしてるみたいだ」
「はぁ? フィディスが図体デカいだけでしょ!」
「おい、暴れるな! 落ちるぞ! それよりさっさと通行証を門番に見せろ」


 一言多いフィディスに希空は怒り、背中の上で子供のように暴れた。そんな姿を見て、門番は笑いを堪えながら、通行証を提示するように声を掛けてきた。希空は急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしながら、無言で通行証を見せた。そして、希空は穴があったら入りたい気持ちになり、咄嗟にフィディスの首筋に顔を埋めた。


「あははははっ! お前って面白いよな」
「うるさいなぁ!」
「――いだだだだっ! 髪を引っ張るな!」
「禿げてしまえ! ――ひゃぁ! 急に走らないでよ! 落ちちゃう!」


 フィディスは自分の髪の毛を引っ張る希空の手の力が緩んだタイミングで、急に走り出した。希空は驚き、思わずおかしな声が出た。そして、落ちそうになり、必死にフィディスにしがみついた。フィディスは笑いながら、希空をおんぶしたまま、街まで向かった。
 希空は深く被ったフードとフィディスの体の合間から、街の様子を窺った。下を見ると、少し凸凹した石畳の道に、多くの人々が行き来していた。左右を見ると、レンガ造りの家や商店が立ち並び、ショーウィンドウには剣や杖などの装備品だったり、ガラス細工の飾りが飾られていた。壁に這うツタに、花壇に色とりどりだ。そして、見上げると、軒下にぶら下がるアンティーク調の看板に、雲一つない青空が広がっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...