29 / 117
第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>
3-8:大聖女オメルとアレックスの過去
しおりを挟む
どうやらルイス王子は森奥にあるクズリハ地下大迷宮で自己鍛錬の為に、お忍びで来ていたそうだ。しかし、自分の力不足で強敵にやられ、命辛々逃げてきて、あそこで力尽きたそうだ。
「クズリハ……。どっかで聞いた事があるような名前」
「君もクズリハを知っているのか? あそこはトラップもあって、強敵が数多く住む地下迷宮なんだ」
「あー、そんな場所だったような気がします」
雫は目を泳がし、愛想笑いした。こんな所で「ゲームでよく潜ってました」なんて言えないし、また変な事を言ったら、ややこしくなりそうと思ったので、発言には気を付けるように肝に銘じた。
「それより、君の名前を聞いてもいいかい?」
「はい、雫と言います。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「……それより、さっき言っていたオメルって人は以前、ここに住んでらっしゃったんですか?」
雫がオメルの名を言った瞬間、アレックスの耳がピンと立った。しかし、頑なにこちらを向く事は無かった。ルイス王子はアレックスの様子を見て、言うべきか躊躇したが、雫の為にも話す事にした。
「聖女伝説という書物に基づいたお話しか出来ませんが……。ここに住んでいた前の方は聖女だったんです。君みたいにとても綺麗な黒髪で、王国の貧しい者や治療が必要な者を癒しの力で治していった。しかし、ある時、国王は聖樹の調査任務を聖女に命じ、人狼を家に残し、旅へ出ていった」
「人狼は絶滅危惧種だからでしたっけ?」
「少しはご存知なのですね。人狼は元々条約で保護される生物と扱われ、保護区及び指定区域外から持ち出すのは禁じられています」
「なるほど……」
「そして、数年後、エルフの国であるリードルフで吟遊詩人と聖女は恋に落ち、吟遊詩人との間に子供を授かりました。聖女は任務をこなしながら、子供を育てました。そして、アーデルハイト王国へ帰還しました。しかし、聖女が子供を授かる事は我が国では固く禁じており、重い処罰が課せられます。聖女はそのような法律をご存知ではありませんでした。その事実を知った時、子供だけでもと思い、神聖セルベン王国の孤児院へ子供を預けました」
雫は色々と厳しい法律があるのだなと思った。そもそも聖女が子供を授かる事はそんなにもいけない事なのかと疑問に思っていた。しかし、次の言葉で衝撃が走った。
「聖女は子供を授かると、ある一定もしくは、その殆どの力を子供へ託す能力があるそうです。そのため、アーデルハイト王国へ戻って来た聖女は簡単な治療しか出来なくなりました。簡単な治療と言っても、重傷者二十人を一度に治療できる程度のもので、決して簡単ではないですし、普通の聖女では到底出来ません。それでも、当時の国王は子供を授かった事などにとてもお怒りになりまして、聖女とその夫を…………皆の前で処刑しました」
「えっ……、そんな酷い」
「それから長い年月が経つ今でも、我が国では聖女狩りが横行しておりまして……。私は反対派なのですが、第三王子という身分上、見ている事しか出来ず」
「聖女狩り…………」
雫は顎に手を当て、今までの話を頭の中で整理した。自分はかなり不味い事をしてしまったんじゃないかと思った。一般人ならまだしも、よりによって第三王子であるルイス王子を治療してしまった。今になって、事の重大さが分かり、雫は慌てふためいた。
「ルイス王子を治療したってバレたら、俺も処罰を受けるって事ですか?」
「君は聖女と言っても、男だし……。その様子だと、そもそも聖女と認定されていない様子だし……。現国王がどうお考えになるか次第だね。私を治療した事については内密にしておくから、安心して」
「じゃ、これからどうすれば……」
「とりあえず聖女の身分を保証してくれる隣の神聖セルベン王国に行くといい。最近、男の聖女が召喚されたという噂を耳にしたが……」
聖女という言葉を聞いて、ハッとした。希空の事だから、聖女にでもなったかもしれないと雫は少し期待した。ルイス王子からその聖女の名を聞こうとしたが、首を横に振り、「名までは分からない」と言い返された。そっぽ向いていたアレックスが深いため息をついて、ルイス王子を冷たい目で睨んだ。
「傷が治ったんなら、さっさと出ていけ!」
「……そうですね。雫君も騎士団に見つからないうちに、セルベンに逃げるか、彼の里へ行った方が良い。彼の里なら歓迎してくれるだろう。それじゃ、私はこの辺で失礼するよ」
「はい、分かりました。お大事にして下さい」
「ああ、分かった」
ルイス王子は雫に爽やかな笑みで握手した。そして、アレックスにも深々と頭を下げた。勿論、アレックスは無視を貫いた。ルイス王子が家から出ていくと、アレックスは無言で雫に抱きついた。
「なんかごめんね。嫌だったよね?」
「大丈夫。過去は変えられないし、事実だ。だから、主は謝るな」
怒りに身を震わせているアレックスを安心させるために、雫は抱き締め、アレックスの頭を何度も優しく撫でた。
「……ご飯、食べよ」
雫はそう言うと、アレックスに笑顔を向けた。そして、台所に立ち、川魚の下処理を始めた。鮎に似ているし、雫は串焼きと保存がきく干物にする事にした。下処理をしている間に、アレックスに庭で焚火の準備をするように伝えた。
「クズリハ……。どっかで聞いた事があるような名前」
「君もクズリハを知っているのか? あそこはトラップもあって、強敵が数多く住む地下迷宮なんだ」
「あー、そんな場所だったような気がします」
雫は目を泳がし、愛想笑いした。こんな所で「ゲームでよく潜ってました」なんて言えないし、また変な事を言ったら、ややこしくなりそうと思ったので、発言には気を付けるように肝に銘じた。
「それより、君の名前を聞いてもいいかい?」
「はい、雫と言います。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「……それより、さっき言っていたオメルって人は以前、ここに住んでらっしゃったんですか?」
雫がオメルの名を言った瞬間、アレックスの耳がピンと立った。しかし、頑なにこちらを向く事は無かった。ルイス王子はアレックスの様子を見て、言うべきか躊躇したが、雫の為にも話す事にした。
「聖女伝説という書物に基づいたお話しか出来ませんが……。ここに住んでいた前の方は聖女だったんです。君みたいにとても綺麗な黒髪で、王国の貧しい者や治療が必要な者を癒しの力で治していった。しかし、ある時、国王は聖樹の調査任務を聖女に命じ、人狼を家に残し、旅へ出ていった」
「人狼は絶滅危惧種だからでしたっけ?」
「少しはご存知なのですね。人狼は元々条約で保護される生物と扱われ、保護区及び指定区域外から持ち出すのは禁じられています」
「なるほど……」
「そして、数年後、エルフの国であるリードルフで吟遊詩人と聖女は恋に落ち、吟遊詩人との間に子供を授かりました。聖女は任務をこなしながら、子供を育てました。そして、アーデルハイト王国へ帰還しました。しかし、聖女が子供を授かる事は我が国では固く禁じており、重い処罰が課せられます。聖女はそのような法律をご存知ではありませんでした。その事実を知った時、子供だけでもと思い、神聖セルベン王国の孤児院へ子供を預けました」
雫は色々と厳しい法律があるのだなと思った。そもそも聖女が子供を授かる事はそんなにもいけない事なのかと疑問に思っていた。しかし、次の言葉で衝撃が走った。
「聖女は子供を授かると、ある一定もしくは、その殆どの力を子供へ託す能力があるそうです。そのため、アーデルハイト王国へ戻って来た聖女は簡単な治療しか出来なくなりました。簡単な治療と言っても、重傷者二十人を一度に治療できる程度のもので、決して簡単ではないですし、普通の聖女では到底出来ません。それでも、当時の国王は子供を授かった事などにとてもお怒りになりまして、聖女とその夫を…………皆の前で処刑しました」
「えっ……、そんな酷い」
「それから長い年月が経つ今でも、我が国では聖女狩りが横行しておりまして……。私は反対派なのですが、第三王子という身分上、見ている事しか出来ず」
「聖女狩り…………」
雫は顎に手を当て、今までの話を頭の中で整理した。自分はかなり不味い事をしてしまったんじゃないかと思った。一般人ならまだしも、よりによって第三王子であるルイス王子を治療してしまった。今になって、事の重大さが分かり、雫は慌てふためいた。
「ルイス王子を治療したってバレたら、俺も処罰を受けるって事ですか?」
「君は聖女と言っても、男だし……。その様子だと、そもそも聖女と認定されていない様子だし……。現国王がどうお考えになるか次第だね。私を治療した事については内密にしておくから、安心して」
「じゃ、これからどうすれば……」
「とりあえず聖女の身分を保証してくれる隣の神聖セルベン王国に行くといい。最近、男の聖女が召喚されたという噂を耳にしたが……」
聖女という言葉を聞いて、ハッとした。希空の事だから、聖女にでもなったかもしれないと雫は少し期待した。ルイス王子からその聖女の名を聞こうとしたが、首を横に振り、「名までは分からない」と言い返された。そっぽ向いていたアレックスが深いため息をついて、ルイス王子を冷たい目で睨んだ。
「傷が治ったんなら、さっさと出ていけ!」
「……そうですね。雫君も騎士団に見つからないうちに、セルベンに逃げるか、彼の里へ行った方が良い。彼の里なら歓迎してくれるだろう。それじゃ、私はこの辺で失礼するよ」
「はい、分かりました。お大事にして下さい」
「ああ、分かった」
ルイス王子は雫に爽やかな笑みで握手した。そして、アレックスにも深々と頭を下げた。勿論、アレックスは無視を貫いた。ルイス王子が家から出ていくと、アレックスは無言で雫に抱きついた。
「なんかごめんね。嫌だったよね?」
「大丈夫。過去は変えられないし、事実だ。だから、主は謝るな」
怒りに身を震わせているアレックスを安心させるために、雫は抱き締め、アレックスの頭を何度も優しく撫でた。
「……ご飯、食べよ」
雫はそう言うと、アレックスに笑顔を向けた。そして、台所に立ち、川魚の下処理を始めた。鮎に似ているし、雫は串焼きと保存がきく干物にする事にした。下処理をしている間に、アレックスに庭で焚火の準備をするように伝えた。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。
七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】
──────────
身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。
力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。
※シリアス
溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。
表紙:七賀
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる