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第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>
3-8:大聖女オメルとアレックスの過去
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どうやらルイス王子は森奥にあるクズリハ地下大迷宮で自己鍛錬の為に、お忍びで来ていたそうだ。しかし、自分の力不足で強敵にやられ、命辛々逃げてきて、あそこで力尽きたそうだ。
「クズリハ……。どっかで聞いた事があるような名前」
「君もクズリハを知っているのか? あそこはトラップもあって、強敵が数多く住む地下迷宮なんだ」
「あー、そんな場所だったような気がします」
雫は目を泳がし、愛想笑いした。こんな所で「ゲームでよく潜ってました」なんて言えないし、また変な事を言ったら、ややこしくなりそうと思ったので、発言には気を付けるように肝に銘じた。
「それより、君の名前を聞いてもいいかい?」
「はい、雫と言います。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「……それより、さっき言っていたオメルって人は以前、ここに住んでらっしゃったんですか?」
雫がオメルの名を言った瞬間、アレックスの耳がピンと立った。しかし、頑なにこちらを向く事は無かった。ルイス王子はアレックスの様子を見て、言うべきか躊躇したが、雫の為にも話す事にした。
「聖女伝説という書物に基づいたお話しか出来ませんが……。ここに住んでいた前の方は聖女だったんです。君みたいにとても綺麗な黒髪で、王国の貧しい者や治療が必要な者を癒しの力で治していった。しかし、ある時、国王は聖樹の調査任務を聖女に命じ、人狼を家に残し、旅へ出ていった」
「人狼は絶滅危惧種だからでしたっけ?」
「少しはご存知なのですね。人狼は元々条約で保護される生物と扱われ、保護区及び指定区域外から持ち出すのは禁じられています」
「なるほど……」
「そして、数年後、エルフの国であるリードルフで吟遊詩人と聖女は恋に落ち、吟遊詩人との間に子供を授かりました。聖女は任務をこなしながら、子供を育てました。そして、アーデルハイト王国へ帰還しました。しかし、聖女が子供を授かる事は我が国では固く禁じており、重い処罰が課せられます。聖女はそのような法律をご存知ではありませんでした。その事実を知った時、子供だけでもと思い、神聖セルベン王国の孤児院へ子供を預けました」
雫は色々と厳しい法律があるのだなと思った。そもそも聖女が子供を授かる事はそんなにもいけない事なのかと疑問に思っていた。しかし、次の言葉で衝撃が走った。
「聖女は子供を授かると、ある一定もしくは、その殆どの力を子供へ託す能力があるそうです。そのため、アーデルハイト王国へ戻って来た聖女は簡単な治療しか出来なくなりました。簡単な治療と言っても、重傷者二十人を一度に治療できる程度のもので、決して簡単ではないですし、普通の聖女では到底出来ません。それでも、当時の国王は子供を授かった事などにとてもお怒りになりまして、聖女とその夫を…………皆の前で処刑しました」
「えっ……、そんな酷い」
「それから長い年月が経つ今でも、我が国では聖女狩りが横行しておりまして……。私は反対派なのですが、第三王子という身分上、見ている事しか出来ず」
「聖女狩り…………」
雫は顎に手を当て、今までの話を頭の中で整理した。自分はかなり不味い事をしてしまったんじゃないかと思った。一般人ならまだしも、よりによって第三王子であるルイス王子を治療してしまった。今になって、事の重大さが分かり、雫は慌てふためいた。
「ルイス王子を治療したってバレたら、俺も処罰を受けるって事ですか?」
「君は聖女と言っても、男だし……。その様子だと、そもそも聖女と認定されていない様子だし……。現国王がどうお考えになるか次第だね。私を治療した事については内密にしておくから、安心して」
「じゃ、これからどうすれば……」
「とりあえず聖女の身分を保証してくれる隣の神聖セルベン王国に行くといい。最近、男の聖女が召喚されたという噂を耳にしたが……」
聖女という言葉を聞いて、ハッとした。希空の事だから、聖女にでもなったかもしれないと雫は少し期待した。ルイス王子からその聖女の名を聞こうとしたが、首を横に振り、「名までは分からない」と言い返された。そっぽ向いていたアレックスが深いため息をついて、ルイス王子を冷たい目で睨んだ。
「傷が治ったんなら、さっさと出ていけ!」
「……そうですね。雫君も騎士団に見つからないうちに、セルベンに逃げるか、彼の里へ行った方が良い。彼の里なら歓迎してくれるだろう。それじゃ、私はこの辺で失礼するよ」
「はい、分かりました。お大事にして下さい」
「ああ、分かった」
ルイス王子は雫に爽やかな笑みで握手した。そして、アレックスにも深々と頭を下げた。勿論、アレックスは無視を貫いた。ルイス王子が家から出ていくと、アレックスは無言で雫に抱きついた。
「なんかごめんね。嫌だったよね?」
「大丈夫。過去は変えられないし、事実だ。だから、主は謝るな」
怒りに身を震わせているアレックスを安心させるために、雫は抱き締め、アレックスの頭を何度も優しく撫でた。
「……ご飯、食べよ」
雫はそう言うと、アレックスに笑顔を向けた。そして、台所に立ち、川魚の下処理を始めた。鮎に似ているし、雫は串焼きと保存がきく干物にする事にした。下処理をしている間に、アレックスに庭で焚火の準備をするように伝えた。
「クズリハ……。どっかで聞いた事があるような名前」
「君もクズリハを知っているのか? あそこはトラップもあって、強敵が数多く住む地下迷宮なんだ」
「あー、そんな場所だったような気がします」
雫は目を泳がし、愛想笑いした。こんな所で「ゲームでよく潜ってました」なんて言えないし、また変な事を言ったら、ややこしくなりそうと思ったので、発言には気を付けるように肝に銘じた。
「それより、君の名前を聞いてもいいかい?」
「はい、雫と言います。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「……それより、さっき言っていたオメルって人は以前、ここに住んでらっしゃったんですか?」
雫がオメルの名を言った瞬間、アレックスの耳がピンと立った。しかし、頑なにこちらを向く事は無かった。ルイス王子はアレックスの様子を見て、言うべきか躊躇したが、雫の為にも話す事にした。
「聖女伝説という書物に基づいたお話しか出来ませんが……。ここに住んでいた前の方は聖女だったんです。君みたいにとても綺麗な黒髪で、王国の貧しい者や治療が必要な者を癒しの力で治していった。しかし、ある時、国王は聖樹の調査任務を聖女に命じ、人狼を家に残し、旅へ出ていった」
「人狼は絶滅危惧種だからでしたっけ?」
「少しはご存知なのですね。人狼は元々条約で保護される生物と扱われ、保護区及び指定区域外から持ち出すのは禁じられています」
「なるほど……」
「そして、数年後、エルフの国であるリードルフで吟遊詩人と聖女は恋に落ち、吟遊詩人との間に子供を授かりました。聖女は任務をこなしながら、子供を育てました。そして、アーデルハイト王国へ帰還しました。しかし、聖女が子供を授かる事は我が国では固く禁じており、重い処罰が課せられます。聖女はそのような法律をご存知ではありませんでした。その事実を知った時、子供だけでもと思い、神聖セルベン王国の孤児院へ子供を預けました」
雫は色々と厳しい法律があるのだなと思った。そもそも聖女が子供を授かる事はそんなにもいけない事なのかと疑問に思っていた。しかし、次の言葉で衝撃が走った。
「聖女は子供を授かると、ある一定もしくは、その殆どの力を子供へ託す能力があるそうです。そのため、アーデルハイト王国へ戻って来た聖女は簡単な治療しか出来なくなりました。簡単な治療と言っても、重傷者二十人を一度に治療できる程度のもので、決して簡単ではないですし、普通の聖女では到底出来ません。それでも、当時の国王は子供を授かった事などにとてもお怒りになりまして、聖女とその夫を…………皆の前で処刑しました」
「えっ……、そんな酷い」
「それから長い年月が経つ今でも、我が国では聖女狩りが横行しておりまして……。私は反対派なのですが、第三王子という身分上、見ている事しか出来ず」
「聖女狩り…………」
雫は顎に手を当て、今までの話を頭の中で整理した。自分はかなり不味い事をしてしまったんじゃないかと思った。一般人ならまだしも、よりによって第三王子であるルイス王子を治療してしまった。今になって、事の重大さが分かり、雫は慌てふためいた。
「ルイス王子を治療したってバレたら、俺も処罰を受けるって事ですか?」
「君は聖女と言っても、男だし……。その様子だと、そもそも聖女と認定されていない様子だし……。現国王がどうお考えになるか次第だね。私を治療した事については内密にしておくから、安心して」
「じゃ、これからどうすれば……」
「とりあえず聖女の身分を保証してくれる隣の神聖セルベン王国に行くといい。最近、男の聖女が召喚されたという噂を耳にしたが……」
聖女という言葉を聞いて、ハッとした。希空の事だから、聖女にでもなったかもしれないと雫は少し期待した。ルイス王子からその聖女の名を聞こうとしたが、首を横に振り、「名までは分からない」と言い返された。そっぽ向いていたアレックスが深いため息をついて、ルイス王子を冷たい目で睨んだ。
「傷が治ったんなら、さっさと出ていけ!」
「……そうですね。雫君も騎士団に見つからないうちに、セルベンに逃げるか、彼の里へ行った方が良い。彼の里なら歓迎してくれるだろう。それじゃ、私はこの辺で失礼するよ」
「はい、分かりました。お大事にして下さい」
「ああ、分かった」
ルイス王子は雫に爽やかな笑みで握手した。そして、アレックスにも深々と頭を下げた。勿論、アレックスは無視を貫いた。ルイス王子が家から出ていくと、アレックスは無言で雫に抱きついた。
「なんかごめんね。嫌だったよね?」
「大丈夫。過去は変えられないし、事実だ。だから、主は謝るな」
怒りに身を震わせているアレックスを安心させるために、雫は抱き締め、アレックスの頭を何度も優しく撫でた。
「……ご飯、食べよ」
雫はそう言うと、アレックスに笑顔を向けた。そして、台所に立ち、川魚の下処理を始めた。鮎に似ているし、雫は串焼きと保存がきく干物にする事にした。下処理をしている間に、アレックスに庭で焚火の準備をするように伝えた。
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