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第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>
3-7:負傷騎士に遭遇(やっと異世界っぽい)
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二人は今日の献立を考えながら、沢山収穫したものを携えて、家へ向かった。しかし、森を抜けようとした瞬間、アレックスが急に行く手を遮り、威嚇するような唸り声を出した。雫がその先を見ると、赤色の軍服を着た金髪の青年が傷だらけで仰向けで倒れていた。雫が駆け寄ろうと思ったが、アレックスは頑なに首を横に振った。しかし、放っておく訳にもいかず、雫は持っていたものをアレックスに押し付け、その青年の元へ駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか? それにしても、凄い傷だらけ。血も出てる……」
「……せ、聖女……さ、ま……?」
雫が声を掛けると、その青年はうっすらと目を開け、自分の事を聖女と呼び、気を失った。雫は慌ててアレックスを呼んだ。アレックスは眉間に皺を寄せ、なかなか近付いてきてくれなかった。
「アレックス、どうしたんだよ。俺じゃ担げないから、手伝ってくれよ」
「アレックス嫌い。この服嫌い。主を殺した悪い奴ら」
「もしかして、……アーデルハイト王国の騎士? それでも、流石に放っておけないよ。お願いだから、家まで運んであげようよ。俺はまだ回復魔法は本を見ないと分からないよ」
「…………分かった。主が言うなら、連れて行く」
アレックスは不機嫌そうな顔で、青年を横に抱くと、無言で歩き始めた。雫は地面に置いてあった竹籠と果実を抱えると、アレックスの後を追いかけた。いつもならアレックスから色々と話しかけてくるのに、今だけは無言であり、怒りのオーラに満ちているような気がした。
家に着くと、アレックスは青年をベッドへ寝かせた。しかし、布団を掛けたりなどそれ以上はしなかった。狼の姿になったアレックスは家を出て、何処かへ行ってしまった。雫は急いで収穫物を簡易冷蔵庫に入れ、回復魔法について調べた。打撲や切り傷などの軽症なら、手をかざして、念じれば治療する事は可能であるが、青年の容態からして、それなりの魔力と集中力を要すると感じた。
「魔力が込められた杖や原典などの法具を用いて、回復量を上げる事が出来る……か。何処かに杖があったような」
雫はクローゼットの奥に杖があった事を思い出し、服をかき分けながら、クローゼットの奥を漁った。そして、そこには古びた杖が眠るように立て掛けられていた。その杖は、支柱が金色で中環リングには漆黒の羽根で飾られていた。そして、杖の先端には三日月の金細工が施され、その空いた空間に拳大位の禍々しい魔石が空中に浮いている代物だった。雫はどこかで見た事があるような気がした。雫が支柱に彫られた文字を見て、ハッとした。
「テネブリスの杖って書いてある。これって闇の杖だけど、良いのかな? でも、苦しそうにしてるし、試すしかない!」
雫はテネブリスの杖を持ち、青年が寝ているベッドの横に立った。深呼吸をし、先程読んだ回復魔法の呪文をボソボソと言い、合っているかを確かめた。そして、雫は自分の前に杖を突き、杖に額を着け、魔力が流れるイメージをするために、目を閉じた。そして、もう一度深呼吸すると、回復魔法の呪文を唱えた。
「希望の西風は私達を優しく包み込み、雨は時に人をも潤す。慰めの言の葉を捧げん。――コンフォート」
雫は目を開けると、青年を取り巻くように、緑と青の二色の小さな粒子が漂っていた。無数にもあった傷が少しずつ塞がり、出血も止まった。青年のか細い呼吸も、今は楽そうに息をしていた。その姿を見て、雫はホッとした。
雫が台所で果物を食べやすいように切り分け、コップに水を汲んで、準備している間に、その青年は目を覚ました。雫は青年の元へ行き、トレイに乗せた果実と水をベッドサイドの小さな棚の上に置いた。
「大丈夫ですか? まだあまり動かれない方がいいですよ。果物とお水を用意しました」
「ああ、すまない。助けてくれて、ありがとう。感謝する」
青年は雫から水を受け取ると、青年はゴクゴクと喉を鳴らしながら、飲んだ。きっと喉が渇いていたのであろうと雫は思った。しかし、青年は雫がしているネックレスに目が行くと、目を見開き、急にコップを置き、ネックレスと雫の顔、そして、立て掛けられた杖を何度も見た。雫はそんな驚くような事なのかと思い、首を傾げた。
「……すまない。私はアーデルハイト王国の第三王子であるルイス=アーデルハイトだ。その首から下げている金色の刻印のネックレスに、回復魔法をかけたという事は……君は聖女なのか?」
「いえ、私は別のせか……じゃなくて、最近ここに来た旅の者です」
「しかし、この家はあのオメル様が住まれてた――」
「人間! 主の名前を軽々しく名乗るな!」
ドアが突然勢いよく、大きな音をたてて開いた。そこには、青年を睨み付ける人の姿をしたアレックスだった。アレックスはずかずかと青年の前に来ると、胸倉を掴んだため、雫は慌てて間に入って止めた。アレックスは鼻であしらうと、不機嫌そうに窓辺の椅子に座り、そっぽを向いた。雫は無礼を詫びたが、「大丈夫だ」とルイス王子は答えた。
「だ、大丈夫ですか? それにしても、凄い傷だらけ。血も出てる……」
「……せ、聖女……さ、ま……?」
雫が声を掛けると、その青年はうっすらと目を開け、自分の事を聖女と呼び、気を失った。雫は慌ててアレックスを呼んだ。アレックスは眉間に皺を寄せ、なかなか近付いてきてくれなかった。
「アレックス、どうしたんだよ。俺じゃ担げないから、手伝ってくれよ」
「アレックス嫌い。この服嫌い。主を殺した悪い奴ら」
「もしかして、……アーデルハイト王国の騎士? それでも、流石に放っておけないよ。お願いだから、家まで運んであげようよ。俺はまだ回復魔法は本を見ないと分からないよ」
「…………分かった。主が言うなら、連れて行く」
アレックスは不機嫌そうな顔で、青年を横に抱くと、無言で歩き始めた。雫は地面に置いてあった竹籠と果実を抱えると、アレックスの後を追いかけた。いつもならアレックスから色々と話しかけてくるのに、今だけは無言であり、怒りのオーラに満ちているような気がした。
家に着くと、アレックスは青年をベッドへ寝かせた。しかし、布団を掛けたりなどそれ以上はしなかった。狼の姿になったアレックスは家を出て、何処かへ行ってしまった。雫は急いで収穫物を簡易冷蔵庫に入れ、回復魔法について調べた。打撲や切り傷などの軽症なら、手をかざして、念じれば治療する事は可能であるが、青年の容態からして、それなりの魔力と集中力を要すると感じた。
「魔力が込められた杖や原典などの法具を用いて、回復量を上げる事が出来る……か。何処かに杖があったような」
雫はクローゼットの奥に杖があった事を思い出し、服をかき分けながら、クローゼットの奥を漁った。そして、そこには古びた杖が眠るように立て掛けられていた。その杖は、支柱が金色で中環リングには漆黒の羽根で飾られていた。そして、杖の先端には三日月の金細工が施され、その空いた空間に拳大位の禍々しい魔石が空中に浮いている代物だった。雫はどこかで見た事があるような気がした。雫が支柱に彫られた文字を見て、ハッとした。
「テネブリスの杖って書いてある。これって闇の杖だけど、良いのかな? でも、苦しそうにしてるし、試すしかない!」
雫はテネブリスの杖を持ち、青年が寝ているベッドの横に立った。深呼吸をし、先程読んだ回復魔法の呪文をボソボソと言い、合っているかを確かめた。そして、雫は自分の前に杖を突き、杖に額を着け、魔力が流れるイメージをするために、目を閉じた。そして、もう一度深呼吸すると、回復魔法の呪文を唱えた。
「希望の西風は私達を優しく包み込み、雨は時に人をも潤す。慰めの言の葉を捧げん。――コンフォート」
雫は目を開けると、青年を取り巻くように、緑と青の二色の小さな粒子が漂っていた。無数にもあった傷が少しずつ塞がり、出血も止まった。青年のか細い呼吸も、今は楽そうに息をしていた。その姿を見て、雫はホッとした。
雫が台所で果物を食べやすいように切り分け、コップに水を汲んで、準備している間に、その青年は目を覚ました。雫は青年の元へ行き、トレイに乗せた果実と水をベッドサイドの小さな棚の上に置いた。
「大丈夫ですか? まだあまり動かれない方がいいですよ。果物とお水を用意しました」
「ああ、すまない。助けてくれて、ありがとう。感謝する」
青年は雫から水を受け取ると、青年はゴクゴクと喉を鳴らしながら、飲んだ。きっと喉が渇いていたのであろうと雫は思った。しかし、青年は雫がしているネックレスに目が行くと、目を見開き、急にコップを置き、ネックレスと雫の顔、そして、立て掛けられた杖を何度も見た。雫はそんな驚くような事なのかと思い、首を傾げた。
「……すまない。私はアーデルハイト王国の第三王子であるルイス=アーデルハイトだ。その首から下げている金色の刻印のネックレスに、回復魔法をかけたという事は……君は聖女なのか?」
「いえ、私は別のせか……じゃなくて、最近ここに来た旅の者です」
「しかし、この家はあのオメル様が住まれてた――」
「人間! 主の名前を軽々しく名乗るな!」
ドアが突然勢いよく、大きな音をたてて開いた。そこには、青年を睨み付ける人の姿をしたアレックスだった。アレックスはずかずかと青年の前に来ると、胸倉を掴んだため、雫は慌てて間に入って止めた。アレックスは鼻であしらうと、不機嫌そうに窓辺の椅子に座り、そっぽを向いた。雫は無礼を詫びたが、「大丈夫だ」とルイス王子は答えた。
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