召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
27 / 117
第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>

3-6:褒めてもらうの、大好き!

しおりを挟む
 アレックスの家に住むようになって数日。前の主が残した魔術書で魔法について学んだ。最初は難しいものだと思っていたが、頭の中でイメージしたものが具現化でき、面白かった。
 魔法の勉強に疲れた時は、家の前にある小さな畑を耕した。幸いにも台所の棚に色々な種があり、試しに植えてみた。前に居た世界では仕事に追われ、精神的に病む寸前だったが、今は何もとらわれず、自分の好きな事が出来て、清々しい気分だ。それとアレックスと言う大きな犬みたいな狼がいて、雫にとって癒しの一つになっていた。


「主、今日、魚捕まえる!」
「魚? あー、確かに魚食べてないなぁ。肉もだけど……」
「あっちに川がある。そこで魚捕まえる。主、早く行く」
「ちょ、ちょっと! 分かったから、準備させろ」
「早く早く!」


 まるで子供のようにはしゃぐアレックスにもだいぶ慣れた。しかし、あまりきつく言うと、耳を垂らして、悲しそうな鳴き声をするので、そこだけは慣れないというか、罪悪感を感じる。雫は魚を入れる容器を探した。しかし、それらしきものが見つからないと思い、諦めて、アレックスの方を振り向いた。振り向くと、既に竹製魚籠を口に咥えて、尻尾を振って、待っていた。


「持ってるんだったら、言えよ……」
「主、アレックス役に立った? 偉い? 褒める?」
「……お前、わざとやってるだろ?」
「それで、褒める? 偉い子?」
「はいはい、偉い偉い。アレックスはすっごい偉い狼だね……」


 最近、アレックスは褒められたいがゆえに、わざとこういう事をしてくる。雫は少し呆れながら、言葉で褒めて、頭を撫でる。頭を撫でると、パァッと顔を明るくさせ、尻尾をブンブンと振る。狼の姿でこういう事を強請ってくるのは別に構わないが、人の姿に化けた時に強請られると、飛びかかってきて、顔を舐め回すのだ。
 人の姿のアレックスは切れ長の目で顔も整っており、普通にカッコいい。腰布付きヘンプのモンパンツに、細マッチョの上半身を露わにした格好だからこそ、人の姿でそういう事をされると、少しムラッとしてしまう。正直、身が持たない。


「それじゃ、行こう。あんまり遠くに行くなよ。俺がはぐれる」
「分かった! 主、迷子! 足遅い!」
「……はぁ」


 雫はアレックスの道案内で、森の中を進んだ。木漏れ日が差し込み、野鳥のさえずりが聞こえる。空気も新鮮で思わず深呼吸したくなる。そして、道が開け、小川にやって来た。昔、林間学校で来たような静かで落ち着いた場所だった。小さな滝があり、清らかな水の流れを感じられ、野鳥のさえずりと相まって、心が洗われるようだった。


「主、魚捕まえる!」
「捕まえるって……。釣り竿持ってないのに、どうやって?」


 じゃばじゃばと音を立てながら、狼の姿になったアレックスは小川に入った。そして、急にピタッと動きを止めた。雫は岩に腰掛け、見守った。川の中をジッと見つめ、魚を探しているようだ。数秒後、アレックスはバシャッと素早い動きで口を川の中へ突っ込んだ。水面から顔を上げたと思うと、その口には大きな魚が捕らえられていた。アレックスは雫の元へ来て、竹籠の中に獲った魚を入れた。見事な捕まえっぷりに、雫は拍手した。


「アレックス、魚捕まえた! 偉い?」
「これぞ野生というか……。流石に俺には難しいな、生け捕り」
「主、見てて! アレックス、沢山捕まえる! それで、褒めてもらう!」
「…………あーっ、そういう事か。いいけど、沢山は要らないよ! 食べきれないし、保存に困っちゃう」


 結局、魚を捕まえに来たというよりかは、アレックスを褒めるために来た気がした。でも、川の中で楽しそうに魚を捕まえて、毎回、自分に見せてくる無邪気なアレックスが愛くるしくて堪らなかった。こんな可愛らしい彼氏が欲しいなと思いつつ、雫はアレックスの頭を優しく撫でた。


「えへへっ、主のなでなで気持ち良い」
「それはどうも。これ以上はもう要らないから、そろそろ帰ろうか。来る途中にリンゴみたいなのがなってたし、それを取りつつ、帰ろうか」
「うん! 帰って、魚食べる!」


 アレックスの生け捕りのお陰で、竹籠は魚でいっぱいになった。アレックスは体をブルブルと震わせ、水気を払った。今日は魚取りしか出来なかったが、たまにはこの小川で一緒に遊ぶのも悪くないと雫は思った。
 竹籠を担ぎ、二人は来た道を戻る。来る時に見つけたリンゴらしき木の下へやって来た。雫が背伸びして、手を伸ばしたが、実がなっている場所が思ったよりも高かった。アレックスは人の姿になると、凄い跳躍力で木の上に登った。そして、果実をもぎ取ると、下にいる雫へ投げた。アレックスは楽しそうに次から次へともぎ取るせいで、あっという間に両手で抱える位の量になってしまった。


「流石に取り過ぎな気がするけど……。こんなに持って帰れないよ」
「主、葉っぱで包む」


 アレックスは木から下りると、近場にあった両手を広げた位に大きな葉を何枚か取ると、雫が持っていた果実を取り、地べたにしゃがみ、上手に包んだ。アレックスは森で生きてきただけあって、凄いと思い、雫は自然とアレックスの頭に手が伸びて、撫でていた。アレックスはニカッと笑いながら、気持ち良さそうにしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...