召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>

3-5:アレックスの高速手のひら返し

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 大体、ブラッシングが終わり、周りを見ると、アレックスの抜け毛で絨毯が出来そうな位にこんもりと積もっていた。雫は部屋にあった竹ぼうきで掃除をした。アレックスは呑気にベッドの上で尻尾を振り、雫がベッドに入ってくるのを待っていた。


「アレックス、あと汚いから、風呂にも入るぞ!」
「っ! お風呂嫌だ! アレックス嫌い!」
「ダメ! 俺は汚い奴とは一緒に寝ない!」
「嫌だ! お風呂嫌だ! でも、主と寝たい!」


 鳴き叫びながら、部屋中を駆け回るアレックスをよそに、雫は浴室へ行き、浴槽の蛇口を捻ろうとした。しかし、いくら力いっぱいに捻っても、お湯は愚か水さえも出なかった。アレックスに聞こうと思い、部屋を覗いたが、床に伏せ、前足で目を塞いでいた。これは無理だろうと思った雫は困り果てた。部屋を見渡し、台所に薪などが無いのに気付いた。雫はもしやと思い、テーブルに置きっぱなしの本を見た。
 本にはどうやら石に魔力をこめて、熱を起こしたり、水を出したりする家事魔法と言うのがあるらしい。しかし、蛇口を見るも、そんな石なんて無かった。


「なぁ、アレックス。どうやって水を出したり、火を出したりするんだ? 石なんてどこにも無いけど」
「主、手をかざして出してた。石なんて高いから、買う位なら自分で魔法でやった方が早いって言ってた」
「……なるほど。そういうのを想像して、出すって感じなのかな? とりあえずやってみよう」


 雫は浴室に戻ると、浴槽に両手をかざし、目を瞑りながら、浴槽にお湯を溜めるのを想像した。正直、こんな事出来るはずがないと思った雫は恐る恐る目を開けた。
 雫が手をかざした先に、球体状になった水が浮かんでいた。雫はビックリし、かざしていた手を思わず引っ込めた。そうすると、球体状になった水はビシャっと音を立て、浴槽内へ落ちた。雫は浴槽に入った水を触った。


「ま、マジかよ。お湯だわ……。なんとなくいつもお風呂に入る温度をイメージしたけど、マジでそのものだった。もっと具体的にイメージしないといけないんだろうな。浴槽の大きさとか……。よし、練習だと思ってやってみよう!」


 雫は子供からの永遠の憧れである魔法が使えるのに、心を躍らせた。少しずつではあるが、魔法でお湯を作り、浴槽を満たしていった。見事にやる事が出来、雫はご満悦だった。しかし、これからアレックスを洗うと考えると、まずは自分より大きい狼をどういう風に風呂場まで移動させるかが問題となった。


「ご褒美に何かあげたいけど、何があるか分からないし……。そもそも狼は何食べるんだ? 犬と一緒か? とりあえずアレックスに聞いてみるか……」
「お風呂嫌い! 主嫌い。でも、好き!」
「もう支離滅裂な事しか言ってない。……お風呂入った子にはご褒美をあげようかなぁ? 何が良いかなぁ?」
「っ! ご褒美! 主、ご褒美あるのか?」
「ご褒美はアレックスが決めていいけど、ちゃんとお風呂で大人しく綺麗になってくれるかなぁ? やっぱり、お風呂嫌いなアレックスには難しいかぁ。残念だなぁ」
「アレックス、頑張る! お風呂入る!」


 アレックスは顔をパァッと明るくし、全力疾走で浴室にいる雫へ飛びついた。勿論、アレックスを支える事も出来ず、二人は浴槽に飛び込む形となった。水しぶきをあげ、折角溜めたお湯が半分程度無くなった。雫は溺れそうになり、必死にもがきながら、浴槽の縁を持ち、顔を上げた。


「ゴホッ、ゴホン。はぁ……、死ぬかと思った」
「主、ご褒美! ご褒美!」
「分かったから、体洗うぞ。固形石鹸はあるのか。これを泡立てて、洗えばいいか」


 雫はびしょ濡れになった服を全て脱ぎ、ボクサートランクス一枚になった。そして、石鹸を取ると、浴槽に戻り、アレックスの体を優しく洗い始めた。嫌と言ってた割には静かになってくれて、一安心した。それにしても、この石鹸はハンドメイドなのだろうか。泡立てるとラベンダー、ローズマリー、カモミールなどのハーブの落ち着いた香りが優しく香る。この香りでアレックスは大人しくなったのだろうと雫は思った。


「主のニオイ! アレックス、幸せ! 主と入るお風呂大好き!」
「さっきまであんだけ拒否してたのに……。手のひら返しし過ぎだろ。はい、お湯ですすぐよ」


 雫はさっきのように魔法を唱え、お湯を出し、アレックスの体を丁寧にすすいだ。アレックスは体をブルブルと大きく振り、水気を切った。その後は雫が体を拭き、すっかり綺麗になったアレックスは嬉しそうに変なスキップをしながら、部屋へ戻った。
 浴室を見ると、飛び散った泡や抜けた毛、水浸しの床で、これを今から掃除しないといけないと思うと、自然と深いため息が出る。雫は重い腰をあげ、浴室の掃除をした。
 雫は掃除を終えると、ずぶ濡れになった服を取った。その時、ポケットから希空と一緒に買ったバッグチャームがポロっと出てきた。雫はバッグチャームを拾うと、先程の革紐のネックレスに着けた。また、クローゼットに入っていたチュニックを着た。


「良かった。サイズがギリギリ合って……。前の人には申し訳ないけど、有り難く使わせて頂きます」
「アレックス、好きな服! 主、似合ってる。主のニオイする!」


 アレックスは人の姿になると、尻尾を振りながら、後ろから雫を抱き締め、首元に顔を埋め、スンスンと嗅ぎ始めた。腕を回され、雫は完全に捕らえられたようだった。主が死んでから、ずっと一人で寂しく暮らしていたのだから、これ位は許してあげないと可哀想だなと雫は思い、アレックスが満足するまで嗅がせてあげた。
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