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第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>
3-4:ブラッシングから始まる異世界生活?
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雫は果物を食べている最中、アレックスはずっと雫の事を見ていた。食事中にこんなにも凝視された事が無いため、雫は気まずかった。何か話題はないか考えたが、まずはここが何処だか知る必要があると思った。
「アレックス、ここは何処なんだ? 俺はちゃんと異世界に来れたのか……」
「主、何言ってる? ここはアーデルハイト王国から少し離れたい場所だ。主は記憶喪失なのか?」
「アーデルハイト王国か……。やっぱり、異世界に来たんだ。来たのはいいけど、本当に希空がいる世界なのか……」
「主、やっぱり、おかしい」
「だから、そもそもアレックスの主の生まれ変わりじゃないって。俺は雫って言うんだ」
「主、違う。でも、主のニオイする。雫は主の生まれ変わり。主が大事にしていた月のネックレスしてる」
「いや、だから……」
雫が何度も否定するが、アレックスは聞く耳を持たなかった。雫は諦めて、アレックスにアーデルハイト王国の事について質問した。そして、本棚に目を向けると、一冊の手帳に目がいった。雫は立ち上がり、本棚からその手帳を取り出して、適当に読みながら、アレックスの話を聞いた。
「ここはアーデルハイト王国から少し離れた場所だ。高台から見えたのは王都。主は聖女だった。怪我人の治療をしていた。ある日、森で怪我をして、歩けなくなった俺を助けてくれた。優しかった。だから、主と暮らす事にした」
「へぇ、優しい主だったんだな」
「当分の間、主と二人暮らししてた。ある日、聖樹の調査任務の依頼を受けて、主は一人で旅に出た」
「なんでアレックスを置いていったの?」
「アレックス、人狼。人狼は保護区から無断で出る事出来ない。あと、主から家を守って欲しいと言われた」
「なるほど。そんな条約みたいなのがあるのか……」
「主、旅の途中で出会った吟遊詩人と仲良くなった。ここへ帰って来た時には子供がいた。主が幸せそうで、アレックス嬉しかった。でも、国王裏切った」
「えっ、裏切ったって?」
「聖女狩り……。子供産んだ聖女は使い物にならない。家族もろとも処刑する。おかしい言い伝え」
「聖女狩りって、しかも、家族までも巻き込んじゃうの? 幼い子供まで? ……あまりにも残酷過ぎる」
雫は話の全貌がイマイチ分からないが、魔女狩りに似たようなものだと思った。でも、そんな理由で殺されてしまうこの世界に嫌悪感を示した。聖女は恐らく都合の良いものとしか思われていなくて、立場的には弱いのだろうと思った。
手帳を読むと、綺麗な字でアレックスを助けた日の事や吟遊詩人との出会い、手放す我が子を思う気持ちなどが書かれていた。
「我が子を神聖セルベン王国へ……? あれ、子供は生きてるの?」
「……主に言われた通り、誰にも見つからないように、隣国に預けてきた。その後は知らない」
「そうなんだ。でも、アレックスも主の家族な訳だから、狙われたりしないの?」
「人狼は絶滅危惧種。殺すのは保護条約違反。世界の決まり」
「そうなんだ……。あ、あのさ。魔法って存在するの? アレックスは魔法使えるの? 俺、魔法とか分からないんだけど」
「主、魔法使える。アレックス、魔法使えない。主は魔法のニオイがする。魔法使えないのか?」
「そもそも魔法なんて使った事無いし、前にいた世界では魔法無かったから……」
「それだったら、主が読んでいた本を読むといい」
アレックスは立ち上がり、雫の隣へやって来た。そして、本棚から数冊取り出すと、雫へ渡した。どれも分厚く、渡された瞬間、ずっしりとした重みを感じた。これを読むのかと雫は顔を引き攣らせた。
「主、勉強家。主も勉強家」
「ちょ、ちょっと待って。主、主って。どっちの事を言ってるか分からないから、雫って呼んでよ」
「断る。主は主」
「はぁ……」
雫はアレックスから渡された本をテーブルに置くと、適当に一冊手に取り、本を開いた。難しい言葉が並んでおり、ザ・専門書という感じがしたが、読めなくはなかった。雫はハッとし、ここに来てからの事を思い出す。
「そう言えば、文字や言葉が分かる。なんでだろ? 異世界に召喚された特典的な?」
「主、疲れてる。ベッドで少し休め」
「だ、大丈夫だよ。――って、えっ!」
雫が遠慮していると、アレックスは雫をひょいと持ち上げ、ベッドへ寝かせた。そして、狼の姿になり、雫の隣に丸まって寝ようとした。それにしても、毛の手入れが出来ていないのか、抜けた毛が雫の鼻をくすぐり、思わずくしゃみが出た。雫のくしゃみでアレックスはビクッと飛び上がるように驚いた。
「は、鼻が痒い……。それにしても、毛の手入れしてないのか? 抜け毛が凄いぞ」
「ぬ、抜け毛! 主、酷い。いつもブラッシングしてくれるのに」
「……それは、俺にブラッシングをしろって事か?」
「っ! 主、ブラッシング!」
アレックスは雫の隣で尻尾を大きく振りながら、駆け回る。グルグルと回る度に、抜け毛が落ち、ベッド周りは抜けた毛が散乱していた。すっかり喜んでいるアレックスを見て、雫はブラシを取って来るように言おうとしたが、既に口に咥え、雫の元へ持って来ていた。アレックスは今か今かと目を輝かせながら、待っていた。
「分かったよ。やるよ。犬のブラッシングなんてやった事ないんだけどなぁ」
「主、犬じゃない。狼」
「はいはい、分かりました。……じゃ、お手!」
「ワンッ!」
「…………犬じゃん」
雫はベッドサイドに座ると、膝の上をポンポンと叩き、アレックスに膝の上へ寝るように合図した。アレックスは嬉しそうに寝そべった。とりあえず優しくブラッシングを始めた。
「痛かったりしたら、言えよ」
「主、気持ち良い。もっとやれ」
雫はアレックスにブラッシングして欲しい場所を聞きながら、アレックスが満足するまで優しくブラッシングした。だいぶ長い間やっていなかったのか、抜ける毛が尋常じゃなかった。次は体も洗ってやらないといけないなと思った。
(俺は異世界に来てまで、なんで犬……いや、狼のブラッシングなんかしてんだ? ま、犬は好きだから、いいけどさ。それよりも、早く希空の手がかりを見つけないと。希空がいなかったら、俺はコイツのブラッシングで余生を過ごすのか……)
「アレックス、ここは何処なんだ? 俺はちゃんと異世界に来れたのか……」
「主、何言ってる? ここはアーデルハイト王国から少し離れたい場所だ。主は記憶喪失なのか?」
「アーデルハイト王国か……。やっぱり、異世界に来たんだ。来たのはいいけど、本当に希空がいる世界なのか……」
「主、やっぱり、おかしい」
「だから、そもそもアレックスの主の生まれ変わりじゃないって。俺は雫って言うんだ」
「主、違う。でも、主のニオイする。雫は主の生まれ変わり。主が大事にしていた月のネックレスしてる」
「いや、だから……」
雫が何度も否定するが、アレックスは聞く耳を持たなかった。雫は諦めて、アレックスにアーデルハイト王国の事について質問した。そして、本棚に目を向けると、一冊の手帳に目がいった。雫は立ち上がり、本棚からその手帳を取り出して、適当に読みながら、アレックスの話を聞いた。
「ここはアーデルハイト王国から少し離れた場所だ。高台から見えたのは王都。主は聖女だった。怪我人の治療をしていた。ある日、森で怪我をして、歩けなくなった俺を助けてくれた。優しかった。だから、主と暮らす事にした」
「へぇ、優しい主だったんだな」
「当分の間、主と二人暮らししてた。ある日、聖樹の調査任務の依頼を受けて、主は一人で旅に出た」
「なんでアレックスを置いていったの?」
「アレックス、人狼。人狼は保護区から無断で出る事出来ない。あと、主から家を守って欲しいと言われた」
「なるほど。そんな条約みたいなのがあるのか……」
「主、旅の途中で出会った吟遊詩人と仲良くなった。ここへ帰って来た時には子供がいた。主が幸せそうで、アレックス嬉しかった。でも、国王裏切った」
「えっ、裏切ったって?」
「聖女狩り……。子供産んだ聖女は使い物にならない。家族もろとも処刑する。おかしい言い伝え」
「聖女狩りって、しかも、家族までも巻き込んじゃうの? 幼い子供まで? ……あまりにも残酷過ぎる」
雫は話の全貌がイマイチ分からないが、魔女狩りに似たようなものだと思った。でも、そんな理由で殺されてしまうこの世界に嫌悪感を示した。聖女は恐らく都合の良いものとしか思われていなくて、立場的には弱いのだろうと思った。
手帳を読むと、綺麗な字でアレックスを助けた日の事や吟遊詩人との出会い、手放す我が子を思う気持ちなどが書かれていた。
「我が子を神聖セルベン王国へ……? あれ、子供は生きてるの?」
「……主に言われた通り、誰にも見つからないように、隣国に預けてきた。その後は知らない」
「そうなんだ。でも、アレックスも主の家族な訳だから、狙われたりしないの?」
「人狼は絶滅危惧種。殺すのは保護条約違反。世界の決まり」
「そうなんだ……。あ、あのさ。魔法って存在するの? アレックスは魔法使えるの? 俺、魔法とか分からないんだけど」
「主、魔法使える。アレックス、魔法使えない。主は魔法のニオイがする。魔法使えないのか?」
「そもそも魔法なんて使った事無いし、前にいた世界では魔法無かったから……」
「それだったら、主が読んでいた本を読むといい」
アレックスは立ち上がり、雫の隣へやって来た。そして、本棚から数冊取り出すと、雫へ渡した。どれも分厚く、渡された瞬間、ずっしりとした重みを感じた。これを読むのかと雫は顔を引き攣らせた。
「主、勉強家。主も勉強家」
「ちょ、ちょっと待って。主、主って。どっちの事を言ってるか分からないから、雫って呼んでよ」
「断る。主は主」
「はぁ……」
雫はアレックスから渡された本をテーブルに置くと、適当に一冊手に取り、本を開いた。難しい言葉が並んでおり、ザ・専門書という感じがしたが、読めなくはなかった。雫はハッとし、ここに来てからの事を思い出す。
「そう言えば、文字や言葉が分かる。なんでだろ? 異世界に召喚された特典的な?」
「主、疲れてる。ベッドで少し休め」
「だ、大丈夫だよ。――って、えっ!」
雫が遠慮していると、アレックスは雫をひょいと持ち上げ、ベッドへ寝かせた。そして、狼の姿になり、雫の隣に丸まって寝ようとした。それにしても、毛の手入れが出来ていないのか、抜けた毛が雫の鼻をくすぐり、思わずくしゃみが出た。雫のくしゃみでアレックスはビクッと飛び上がるように驚いた。
「は、鼻が痒い……。それにしても、毛の手入れしてないのか? 抜け毛が凄いぞ」
「ぬ、抜け毛! 主、酷い。いつもブラッシングしてくれるのに」
「……それは、俺にブラッシングをしろって事か?」
「っ! 主、ブラッシング!」
アレックスは雫の隣で尻尾を大きく振りながら、駆け回る。グルグルと回る度に、抜け毛が落ち、ベッド周りは抜けた毛が散乱していた。すっかり喜んでいるアレックスを見て、雫はブラシを取って来るように言おうとしたが、既に口に咥え、雫の元へ持って来ていた。アレックスは今か今かと目を輝かせながら、待っていた。
「分かったよ。やるよ。犬のブラッシングなんてやった事ないんだけどなぁ」
「主、犬じゃない。狼」
「はいはい、分かりました。……じゃ、お手!」
「ワンッ!」
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雫はベッドサイドに座ると、膝の上をポンポンと叩き、アレックスに膝の上へ寝るように合図した。アレックスは嬉しそうに寝そべった。とりあえず優しくブラッシングを始めた。
「痛かったりしたら、言えよ」
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雫はアレックスにブラッシングして欲しい場所を聞きながら、アレックスが満足するまで優しくブラッシングした。だいぶ長い間やっていなかったのか、抜ける毛が尋常じゃなかった。次は体も洗ってやらないといけないなと思った。
(俺は異世界に来てまで、なんで犬……いや、狼のブラッシングなんかしてんだ? ま、犬は好きだから、いいけどさ。それよりも、早く希空の手がかりを見つけないと。希空がいなかったら、俺はコイツのブラッシングで余生を過ごすのか……)
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