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第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>
3-3:開幕から狼がいるのはクソ笑える
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久々に夢を見た。暗闇の中を漂っている夢。雫は疲れているのだろうと思った。そして、床なのか、地面なのか分からないが、暗闇の底に降り立った。
「やっぱり、迷信だったのかな? ……ん? なんか風を感じる。心地よい風。あと、草と土の香りがする。……それにしても、ワンワンうるせぇな」
雫は目をゆっくり開けた。きっといつもの部屋の天井だと思っていたが、目に飛び込んできたのは澄みきった青空だった。雫はポカンとして、手をついて起き上がった。手には草と土の感触がし、周りを見渡すと、城が一望出来る高台の草むらにいた。そして、自分の身長よりも大きい大型犬が尻尾を振りながら、雫に飛びかかってきた。
「主! 主!」
「うわっ! 重い、重い! あと、顔舐めるな!」
興奮する犬の顔を手で押し退けて、雫は立ち上がり、服についた土埃を手で払った。
改めて周囲を見渡し、本当に異世界へ来てしまったと実感した。それより、犬がうるさい。そして、吠えているのではなく、喋っているのに驚いた。
「主! 生まれ変わり! アレックス、嬉しい!」
「うわ、犬が喋ってる」
「主、アレックス、犬じゃない。狼」
アレックスと名乗る白狼は琥珀色の目をキラキラさせていた。そして、その場に宙返りしたかと思えば、二メートル位ありそうな褐色肌のスラリとした青年に変身した。銀色の髪が靡き、日の光でキラキラと輝いていた。
雫は驚きの余り、腰を抜かした。アレックスは満面の笑みで雫に近付き、軽々と持ち上げ、横に抱いて、何処かへ連れて行こうとした。
「――ちょ、ちょっとどこに連れてくの!」
「主とアレックスの家」
「ってか、主って誰だよ! 俺はお前の主になった覚えは無いぞ」
「主は主。主、頭おかしい。家で休む」
雫はアレックスから下りようとしたが、ガッシリと掴まれ、動けなかった。アレックスは嬉しそうに耳をぴょこぴょこと動かし、ブンブンと尻尾を振っていた。
今までお姫様抱っこなんてされた事が無かった雫は少し恥ずかしかった。雫が見上げると、アレックスと目があった。アレックスはニカッと笑い、白い歯を見せた。
(カッコイイというか、可愛いというか……。って、それよりコイツは何処へ連れてく気なんだ!?)
「主、着いた。俺達の家」
「あー、うん。……ありがとう」
雫が連れてこられたのは、近くの小さなログハウスだった。家の中に入ると、アレックスは雫を下ろした。周りを見渡すと、掃除は行き届いており、微かに木の香りがした。大きな本棚には本がずらりと並べられ、収まりきらなかった本が山積みになっていた。そして、一人暮らしにしては少し大きい気がした。
アレックスは急に雫の首元に顔を近付け、スンスンと嗅ぎ始めた。そして、嗅ぎながら、雫の胸元にあるネックレスをまじまじと見た。
「主と同じニオイ。主と同じネックレス。主のニオイ、懐かしい」
「く、くすぐったいから。それより、ネックレスなんて俺はしてないぞ」
「何言っている。主、疲れている」
雫は自分のの匂いを堪能するアレックスを引き剥がした。アレックスは残念そうに耳を垂らしていた。雫は胸元に手をやると、アレックスが言っていた通り、ネックレスをしていた。三日月がモチーフの小さな金色のネックレスだった。そして、それとは別にこげ茶色の革紐に五百円玉サイズの金属製のプレートも首に掛けられていた。いつの間にこんなものを身に着けたのか、雫は分からなかった。
「主、そこに座る。今、お茶淹れる」
「あ、うん。……ありがとう」
雫はアレックスが指差した椅子へ座り、アレックスの様子を窺った。アレックスは台所へ行き、籠から果物を取り出すと、木製のカップの上で握り潰し始めた。鈍い音に、飛び散る果汁に驚き、雫は慌ててアレックスの手を止めた。
「わわわわわっ! 絞りたてじゃなくて、握り潰したてになってるから!」
「主、いつもこれ好きって言ってた。なんだ、好きじゃないのか?」
「いや、好きとかじゃなくて、……飲み物じゃなくて、果物で頂戴」
「分かった」
雫がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、アレックスは包丁を使わず、手刀打ちで果物を真っ二つにしようとしたため、再び慌てて止めた。アレックスはポカンとした顔をし、首を傾げた。雫は包丁の場所を聞き、アレックスと交代し、果物を切り、皿に盛り付けた。そして、皿に盛り付けると、テーブルに座った。アレックスは耳を垂らしたまま、少しションボリとした顔で、雫と対面になるように座った。
果物に手を付けたい気持ちは凄くあったが、目の前で明らかに悲しそうな顔をするアレックスを見て、どう声を掛ければいいか迷ったが、ここは後輩指導の経験を活かし、とりあえず褒める作戦でいこうと思った。
「……あー、ア、アレックスは力が凄いんだね! 力があって、憧れるなぁ! 果物も軽々と潰せて、俺の為に飲み物まで入れてくれようとする気の利いた優秀な狼なんだなぁ!」
「っ! 俺、優秀? 主の役に立った?」
アレックスは顔をパァッと明るくさせ、尻尾をブンブンと振り、目を輝かせていた。どうやら喜んでいるらしい。雫は少し苦笑いしながら、首を縦に振った。
(……よ、喜んでる。どうしよう。なんかピュア過ぎて、申し訳ない気持ちになる)
「やっぱり、迷信だったのかな? ……ん? なんか風を感じる。心地よい風。あと、草と土の香りがする。……それにしても、ワンワンうるせぇな」
雫は目をゆっくり開けた。きっといつもの部屋の天井だと思っていたが、目に飛び込んできたのは澄みきった青空だった。雫はポカンとして、手をついて起き上がった。手には草と土の感触がし、周りを見渡すと、城が一望出来る高台の草むらにいた。そして、自分の身長よりも大きい大型犬が尻尾を振りながら、雫に飛びかかってきた。
「主! 主!」
「うわっ! 重い、重い! あと、顔舐めるな!」
興奮する犬の顔を手で押し退けて、雫は立ち上がり、服についた土埃を手で払った。
改めて周囲を見渡し、本当に異世界へ来てしまったと実感した。それより、犬がうるさい。そして、吠えているのではなく、喋っているのに驚いた。
「主! 生まれ変わり! アレックス、嬉しい!」
「うわ、犬が喋ってる」
「主、アレックス、犬じゃない。狼」
アレックスと名乗る白狼は琥珀色の目をキラキラさせていた。そして、その場に宙返りしたかと思えば、二メートル位ありそうな褐色肌のスラリとした青年に変身した。銀色の髪が靡き、日の光でキラキラと輝いていた。
雫は驚きの余り、腰を抜かした。アレックスは満面の笑みで雫に近付き、軽々と持ち上げ、横に抱いて、何処かへ連れて行こうとした。
「――ちょ、ちょっとどこに連れてくの!」
「主とアレックスの家」
「ってか、主って誰だよ! 俺はお前の主になった覚えは無いぞ」
「主は主。主、頭おかしい。家で休む」
雫はアレックスから下りようとしたが、ガッシリと掴まれ、動けなかった。アレックスは嬉しそうに耳をぴょこぴょこと動かし、ブンブンと尻尾を振っていた。
今までお姫様抱っこなんてされた事が無かった雫は少し恥ずかしかった。雫が見上げると、アレックスと目があった。アレックスはニカッと笑い、白い歯を見せた。
(カッコイイというか、可愛いというか……。って、それよりコイツは何処へ連れてく気なんだ!?)
「主、着いた。俺達の家」
「あー、うん。……ありがとう」
雫が連れてこられたのは、近くの小さなログハウスだった。家の中に入ると、アレックスは雫を下ろした。周りを見渡すと、掃除は行き届いており、微かに木の香りがした。大きな本棚には本がずらりと並べられ、収まりきらなかった本が山積みになっていた。そして、一人暮らしにしては少し大きい気がした。
アレックスは急に雫の首元に顔を近付け、スンスンと嗅ぎ始めた。そして、嗅ぎながら、雫の胸元にあるネックレスをまじまじと見た。
「主と同じニオイ。主と同じネックレス。主のニオイ、懐かしい」
「く、くすぐったいから。それより、ネックレスなんて俺はしてないぞ」
「何言っている。主、疲れている」
雫は自分のの匂いを堪能するアレックスを引き剥がした。アレックスは残念そうに耳を垂らしていた。雫は胸元に手をやると、アレックスが言っていた通り、ネックレスをしていた。三日月がモチーフの小さな金色のネックレスだった。そして、それとは別にこげ茶色の革紐に五百円玉サイズの金属製のプレートも首に掛けられていた。いつの間にこんなものを身に着けたのか、雫は分からなかった。
「主、そこに座る。今、お茶淹れる」
「あ、うん。……ありがとう」
雫はアレックスが指差した椅子へ座り、アレックスの様子を窺った。アレックスは台所へ行き、籠から果物を取り出すと、木製のカップの上で握り潰し始めた。鈍い音に、飛び散る果汁に驚き、雫は慌ててアレックスの手を止めた。
「わわわわわっ! 絞りたてじゃなくて、握り潰したてになってるから!」
「主、いつもこれ好きって言ってた。なんだ、好きじゃないのか?」
「いや、好きとかじゃなくて、……飲み物じゃなくて、果物で頂戴」
「分かった」
雫がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、アレックスは包丁を使わず、手刀打ちで果物を真っ二つにしようとしたため、再び慌てて止めた。アレックスはポカンとした顔をし、首を傾げた。雫は包丁の場所を聞き、アレックスと交代し、果物を切り、皿に盛り付けた。そして、皿に盛り付けると、テーブルに座った。アレックスは耳を垂らしたまま、少しションボリとした顔で、雫と対面になるように座った。
果物に手を付けたい気持ちは凄くあったが、目の前で明らかに悲しそうな顔をするアレックスを見て、どう声を掛ければいいか迷ったが、ここは後輩指導の経験を活かし、とりあえず褒める作戦でいこうと思った。
「……あー、ア、アレックスは力が凄いんだね! 力があって、憧れるなぁ! 果物も軽々と潰せて、俺の為に飲み物まで入れてくれようとする気の利いた優秀な狼なんだなぁ!」
「っ! 俺、優秀? 主の役に立った?」
アレックスは顔をパァッと明るくさせ、尻尾をブンブンと振り、目を輝かせていた。どうやら喜んでいるらしい。雫は少し苦笑いしながら、首を縦に振った。
(……よ、喜んでる。どうしよう。なんかピュア過ぎて、申し訳ない気持ちになる)
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