召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
22 / 117
第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>

3-1:調子に乗んな、デカブツ野郎

しおりを挟む
 雫は希空の事が気がかりだったが、上司の執拗な嫌がらせで、それどころじゃなかった。仕事を突然振ってきたり、無理難題を突き付けてきた。他の上司や同僚達は雫の事を心配したが、また面倒な事にならないためにも、助けを借りず、一人でこなした。正直、精神的にも限界を迎えていた。


「あれ? データが無い。 あれ? ここに保存してたんだけど……」


 雫は昼休憩から戻り、自分のデスクに座った。そして、作業の続きをしようと、パソコンを開いた。しかし、午前中にほぼ終わらせていたデータがごっそり消えていたのだ。雫は別のフォルダなどに保存してしまったと思い、検索をかけた。しかし、該当するデータは検索されなかった。徐々に血の気が引いていくのが分かった。
 雫はその旨を上司に報告した。上司は周りに聞こえる位の深く大きなため息をつき、ネチネチと嫌味を言ってくる。雫は腹が立ったが、自分のミスだし、仕方ないとぐっと堪えた。


「データ管理、ちゃんとやれよ。もう一回、新人に戻ったら? 本当に使えないよな、色々と」
「……す、すみません。急いでやり直します」


 雫は上司に頭を下げ、作業に取り掛かった。幸いにも隣のデスクの子が手伝ってくれて、なんとか作業を終える事が出来た。
 しかし、こんな事が数日続いた。雫は不審に思い、ペン型の隠しカメラをデスクのペン立てに設置し、監視アプリと同期させた。本当はこんな事はやりたくなかったが、他の上司からの密告メールで決心したのだ。やはり、例の上司が自分のパソコンを操作し、データ削除をしていると。


(あれだけ俺の体を求めてきて、相手してやったのに、奥さんにバレたからって……。余りにも陰湿過ぎる)


「雫くん、お昼行こう! 今日は何食べよっか?」
「七海ちゃんの好きなお店でいいよ」
「じゃ、この前出来たニンニク増し増しのスタミナ丼のお店行こう! 午後、会議だから、元気つけなきゃ!」
「うちのミーティングルームは狭いから、ニンニク食べて大丈夫なの?」
「平気よ! 加齢臭よりマシ!」


 雫は同期の七海からお昼に誘われた。雫は立ち上がり、七海について行こうとしたが、今一度、自分のデスクを確認した。「大丈夫」だと自分に言い聞かせて、急かす七海を追いかけ、オフィスを後にした。ニンニク増し増しは胃もたれしそうだったので、雫は普通のスタミナ丼を食べた。
 食べ終わり、コンビニでアイスコーヒーを買って、七海とともにオフィスへ戻った。そして、自分のデスクに座り、パソコンを開くと、やはりデータが一部消されていた。こんなにも何度もされると、ため息しか出なかった。雫はスマホを取り出し、アプリで映像を確認した。


(やっぱり、アイツだ。安いカメラの割に、はっきり顔が映ってる。……うわ、ニヤニヤしてるし、気持ち悪っ)


 雫は再びため息をついた。そして、いつものように上司へデータが消えてしまった件を報告した。上司は雫のミスをわざと大きな声で周りに聞こえるように言い、嘲笑った。何度聞いても耳障りな声だ。体の関係を持っていた時はとてもエロくて、腰に響いていたのに……と思うと、自分の嗜好を疑った。そう思っていると、なんだか沸々と怒りがこみ上げてきて、上司の話を遮るように、上司にスマホの映像を突きつけた。


「先輩、これはなんですか? なんで先輩が俺のパソコンを操作してるんですか? データの更新履歴も確認しましたけど、データ消してるのって先輩ですよね?」
「――っ!」


 上司は一瞬、焦りを見せたが、知らん顔をし、白を切るつもりだ。雫はその態度にカチンと来て、宛先を黒塗りした密告メールを自分のデスクへ取りに行くと、課長のデスクへ行った。そして、課長に密告メールを突き出した。課長は一瞬、何の事だか分かっていなかった。


「課長、俺のパソコンを勝手に操作されて、データを消されました。パスワードはきちんとかけていました。なのに、データが消えるってどう思いますか? あと、とある方から密告されました。あと、たった今、証拠の映像を取りました。課長はどう思われますか?」
「どうと言われても……。君の管理が出来ていないのが悪いんじゃないのか?」


 無頓着だったのは知っていたが、こんなにも残念な課長だとは思ってなかった。雫は大きくため息をつくと、営業スマイルで課長に笑ってみせた。


「分かりました。俺、今日をもって、この会社辞めます。あと、この証拠はハラスメント委員会に提出しますので、よろしくお願いします。あと、部署の入退勤を改ざんしていた事も報告しますね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「待ちません」


 雫は課長に頭を下げると、課長の話を聞かず、自分のデスクに戻り、作業に戻った。上司と課長が雫のデスクへ来て、色々と言ってきたが、雫は聞く耳を持たず、残っていた仕事を終わらせた。そして、その場で退職届を書き、課長に提出した。あとはハラスメント行為などの証拠を揃え、委員会へ提出し、退社した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...