18 / 117
第二章:Side Noa <名ばかりの召喚聖女>
2-7:言いたくても言えない
しおりを挟む
エミュは意を決して、希空に歩み寄り、希空の手を取った。急に手を取られ、希空は少し驚き、ポカンとした。しかし、思い詰めて、今にも泣きそうなエミュの顔を見て、希空は小さく優しく微笑んだ。
「ドレッド大司教様が希空様の魔力を増やす技法を見つけてくださいました……」
「そうなの? 僕はてっきり国外追放かと思った。……あー、だからか。ドレッド様がいつもに増して、ピリピリしてたのは。魔力を増やせる方法があるんだ。なんかそれを聞いて安心した。それで、どうやって増やすの?」
「……いや、あの、それは」
エミュは希空から視線を逸らし、目を泳がせた。そして、自分でもよく分からないが、上手く言葉が出てこず、声が震えていた。希空はいつもらしくないエミュを気にかけ、エミュをソファに座らせると、お茶を飲むように促した。
「無理して言う事無いよ。エミュにも言いにくい事だってあると思うし……。それに、それをやらないと、僕がここにいる意味、無くなっちゃうもん」
「希空様……。私は希空様こそが真の聖女だと心から思っております」
「そんな風に言われると、恥ずかしいよ」
エミュが真に迫った表情で訴えかけてくるので、希空はなんだか照れくさくなった。二人はお茶を済ませると、借りていた本を図書館へ返却し、ドレッドの部屋の前まで来た。エミュは緊張した面持ちでドアをノックし、希空を連れて、部屋へ入った。ドレッドは机に向かい、あの禁書を見ながら、ノートにまとめていた。
「ドレッド様、希空様をお連れしました」
「わざわざ連れてこなくても、お前から今晩の事を話せばよいではないか。まぁ、いい。聖女様、エミュから魔力増幅についてお聞きになりましたか?」
「聞いてますが、内容までは聞いていないです」
希空がそう言うと、ドレッドはエミュをギロッと睨み付けた。エミュは冷や汗をかきながら、頭を下げた。ドレッドは鼻で笑うと、今晩から行われる魔力増幅技法について簡単に説明した。
技法がいくつかあり、まだ研究段階である事、それを試して、魔力増幅が見込めれば、この場に留まる事が出来る事、そして、この技法は公に出来ないため、皆が寝静まった時間帯に地下聖堂で行なうという事だ。あとは、儀式の一環との捉え方もあるため、必ず体を隅々まで洗ってくるようにと念を押された。
「分かりました。それで、魔力が増えればいいんですけど……」
「では、今夜、エミュと共に地下聖堂まで来るように」
「畏まりました……」
ドレッドの部屋を出ると、希空は嬉しそうに小さくガッツポーズをした。しかし、エミュは血の気が引いたような顔をしており、何か思いつめた表情だった。希空はエミュの事を心配して、声を掛けたが、「大丈夫」の一点張りだった。エミュは新しいノースリーブの白のワンピースを机の上に出すと、早々に退室した。
希空はエミュの迎えが来るまで読書をしたり、毎日欠かさずやっているストレッチをし、ドレッドから指示されたように、体を隅々まで洗い、服を着替えた。
「希空様、お待たせいたしました」
「……エミュ、大丈夫?」
「な、何がですか? それよりも、ドレッド大司教様がお待ちです」
エミュはいつも被らないフードを深く被り、希空と視線を合わせないように俯き、無言で付き添った。希空は月の光が射し込む廊下をエミュとともに歩いた。皆が寝静まって、フクロウの鳴き声が遠くの方から聞こえてきた。希空がエミュに話しかけようとしたら、エミュは人差し指を口に当て、静かにするように伝えた。
大聖堂へは廊下で通じており、普段はそこの通り抜けは固く禁じられているのだが、エミュは周囲を警戒し、持っていた鍵で扉を開け、希空とともに隠れるように中へ入った。
いつも正門から入っていたので、二階の渡り廊下から見下ろす大聖堂はいつもと違う感じがした。それは恐らく蝋燭が全て消され、大聖堂の象徴とも言える大きなステンドグラスから月の光が射し込んでいるからだろう。そして、二人は祭壇の手前までやってきた。
「あの、希空様。本当に宜しいのですか? ……今ならまだ間に合います。拒んでも構わないので――」
エミュは希空の両肩に手を置くと、青ざめた顔で希空を説得しようとした。しかし、祭壇下の隠し階段からドレッドが険しい顔をして、上がって来た。
「拒否権は無い。お前は自分の立場を弁えているのか」
「ドレッド大司教様っ!」
「誰のお陰で、最速で司祭になれたと思ってるんだ。お前は次期大司教なんだぞ。少しは弁えろ」
「ぐっ…………」
エミュは黙り込み、俯いた。そして、ドレッドは二人を地下聖堂へ案内した。地下聖堂は石畳造りで、等間隔に蝋燭立てが立っており、蝋燭に火が灯っていた。しかし、それでも薄暗く、砂埃っぽい臭いがする。そして、ドレッドが立ち止まった。希空は少しボーっとしていたので、思わずドレッドにぶつかりそうになった。ドレッドはエミュに近付くと、耳打ちをした。
「エミュ。お前は聖女の世話係なのだから、部屋へ入りなさい。聖女を一人にするのは心苦しいだろう?」
ドレッドはニヤリと笑うと、持っていたダブルフィルターが付いたガスマスクをエミュへ渡し、少し力強く肩を叩いた。ドレッドは首から下げていたガスマスクをつけた。二人がガスマスクをつけたのに、自分のマスクが無い事に希空は不安を感じた。
「特殊な薬を使うので、私達にも作用するといけないので、防護用です。安心して下さい」
「そうなんだ……。死んじゃったりしないよね?」
「希空様、大丈夫ですよ」
エミュは希空に寄り添い、肩を抱いた。その手はなんだか震えており、強張っているように思えた。そして、地下聖堂の扉がついに開かれた。
「ドレッド大司教様が希空様の魔力を増やす技法を見つけてくださいました……」
「そうなの? 僕はてっきり国外追放かと思った。……あー、だからか。ドレッド様がいつもに増して、ピリピリしてたのは。魔力を増やせる方法があるんだ。なんかそれを聞いて安心した。それで、どうやって増やすの?」
「……いや、あの、それは」
エミュは希空から視線を逸らし、目を泳がせた。そして、自分でもよく分からないが、上手く言葉が出てこず、声が震えていた。希空はいつもらしくないエミュを気にかけ、エミュをソファに座らせると、お茶を飲むように促した。
「無理して言う事無いよ。エミュにも言いにくい事だってあると思うし……。それに、それをやらないと、僕がここにいる意味、無くなっちゃうもん」
「希空様……。私は希空様こそが真の聖女だと心から思っております」
「そんな風に言われると、恥ずかしいよ」
エミュが真に迫った表情で訴えかけてくるので、希空はなんだか照れくさくなった。二人はお茶を済ませると、借りていた本を図書館へ返却し、ドレッドの部屋の前まで来た。エミュは緊張した面持ちでドアをノックし、希空を連れて、部屋へ入った。ドレッドは机に向かい、あの禁書を見ながら、ノートにまとめていた。
「ドレッド様、希空様をお連れしました」
「わざわざ連れてこなくても、お前から今晩の事を話せばよいではないか。まぁ、いい。聖女様、エミュから魔力増幅についてお聞きになりましたか?」
「聞いてますが、内容までは聞いていないです」
希空がそう言うと、ドレッドはエミュをギロッと睨み付けた。エミュは冷や汗をかきながら、頭を下げた。ドレッドは鼻で笑うと、今晩から行われる魔力増幅技法について簡単に説明した。
技法がいくつかあり、まだ研究段階である事、それを試して、魔力増幅が見込めれば、この場に留まる事が出来る事、そして、この技法は公に出来ないため、皆が寝静まった時間帯に地下聖堂で行なうという事だ。あとは、儀式の一環との捉え方もあるため、必ず体を隅々まで洗ってくるようにと念を押された。
「分かりました。それで、魔力が増えればいいんですけど……」
「では、今夜、エミュと共に地下聖堂まで来るように」
「畏まりました……」
ドレッドの部屋を出ると、希空は嬉しそうに小さくガッツポーズをした。しかし、エミュは血の気が引いたような顔をしており、何か思いつめた表情だった。希空はエミュの事を心配して、声を掛けたが、「大丈夫」の一点張りだった。エミュは新しいノースリーブの白のワンピースを机の上に出すと、早々に退室した。
希空はエミュの迎えが来るまで読書をしたり、毎日欠かさずやっているストレッチをし、ドレッドから指示されたように、体を隅々まで洗い、服を着替えた。
「希空様、お待たせいたしました」
「……エミュ、大丈夫?」
「な、何がですか? それよりも、ドレッド大司教様がお待ちです」
エミュはいつも被らないフードを深く被り、希空と視線を合わせないように俯き、無言で付き添った。希空は月の光が射し込む廊下をエミュとともに歩いた。皆が寝静まって、フクロウの鳴き声が遠くの方から聞こえてきた。希空がエミュに話しかけようとしたら、エミュは人差し指を口に当て、静かにするように伝えた。
大聖堂へは廊下で通じており、普段はそこの通り抜けは固く禁じられているのだが、エミュは周囲を警戒し、持っていた鍵で扉を開け、希空とともに隠れるように中へ入った。
いつも正門から入っていたので、二階の渡り廊下から見下ろす大聖堂はいつもと違う感じがした。それは恐らく蝋燭が全て消され、大聖堂の象徴とも言える大きなステンドグラスから月の光が射し込んでいるからだろう。そして、二人は祭壇の手前までやってきた。
「あの、希空様。本当に宜しいのですか? ……今ならまだ間に合います。拒んでも構わないので――」
エミュは希空の両肩に手を置くと、青ざめた顔で希空を説得しようとした。しかし、祭壇下の隠し階段からドレッドが険しい顔をして、上がって来た。
「拒否権は無い。お前は自分の立場を弁えているのか」
「ドレッド大司教様っ!」
「誰のお陰で、最速で司祭になれたと思ってるんだ。お前は次期大司教なんだぞ。少しは弁えろ」
「ぐっ…………」
エミュは黙り込み、俯いた。そして、ドレッドは二人を地下聖堂へ案内した。地下聖堂は石畳造りで、等間隔に蝋燭立てが立っており、蝋燭に火が灯っていた。しかし、それでも薄暗く、砂埃っぽい臭いがする。そして、ドレッドが立ち止まった。希空は少しボーっとしていたので、思わずドレッドにぶつかりそうになった。ドレッドはエミュに近付くと、耳打ちをした。
「エミュ。お前は聖女の世話係なのだから、部屋へ入りなさい。聖女を一人にするのは心苦しいだろう?」
ドレッドはニヤリと笑うと、持っていたダブルフィルターが付いたガスマスクをエミュへ渡し、少し力強く肩を叩いた。ドレッドは首から下げていたガスマスクをつけた。二人がガスマスクをつけたのに、自分のマスクが無い事に希空は不安を感じた。
「特殊な薬を使うので、私達にも作用するといけないので、防護用です。安心して下さい」
「そうなんだ……。死んじゃったりしないよね?」
「希空様、大丈夫ですよ」
エミュは希空に寄り添い、肩を抱いた。その手はなんだか震えており、強張っているように思えた。そして、地下聖堂の扉がついに開かれた。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる