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第二章:Side Noa <名ばかりの召喚聖女>
2-5:異世界はやっぱりファンタジー
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団員達と別れを告げ、自室へ戻った希空はソファに座り、大きく伸びをした。エミュはテーブルに借りてきた本を置くと、お茶を淹れようとした。
「今、お茶を淹れますね」
「いえ、大丈夫です。お茶ぐらいは自分で淹れられます。えっと……、お湯はどこで沸かせばいいですか?」
「…………希空様、またまたご冗談を」
エミュはキョトンとした顔をしたかと思えば、笑ってはぐらかした。希空は本気である事を伝え、エミュが持っていたポットを奪い取った。エミュは戸惑っていたが、言っても言う事を聞いてくれなさそうな希空の表情を見ると、諦めて、隣の部屋に案内してくれた。
エミュの後ろをついていき、隣の部屋を覗くと、ワンルームでよく見るような広さのこじんまりとしたキッチンのようなスペースだった。部屋の絨毯の色と合わせているのか、白色の中に色鮮やか赤色をアクセントとしたモザイクタイルであり、小窓から射す日の光で艶やかで光沢があり、綺麗だった。希空は目を輝かせ、色々な妄想を膨らませた。
「こちらは薬草研究やポーションを生成する為の部屋でして――」
「ねぇ! ここでお菓子とか作ってもいい? ほら、小さいけど、石窯もあるしさ! こういうの憧れだったんだよね!」
「の、希空様。こちらはそういう料理をする場所ではなくてですね……」
エミュは訂正したが、希空は聞く耳を持たず、棚を開けたり、石窯の中を覗いたり、ルンルン気分だった。エミュは希空の事を強く注意する事も出来ず、頭を抱え、ため息をついた。
「と、とりあえずドレッド大司教様に許可を頂かないと、怒られますので……」
「そうだよね。……で、ここのコンロはどうやって使うの? 電気? ガス? それとも、薪を燃やすの?」
「電気やガスはございません。コンロの中央に赤炎石が嵌めてあるのですが、そこに魔力を注いで使用します。ですので、まだ魔力調整が出来ない希空様には危険です。魔力調整が上手に出来るようになったら、ご自分でお湯を沸かしたりして下さい。それまでは私がお世話させて頂きますので、本当にお一人でなさないで下さい」
エミュは希空にやんわり釘を刺した。希空は少しションボリした顔をし、残念がった。エミュは少し言い過ぎたかと焦ったが、赤炎石を使っている姿を見たいと希空が言ってきたため、ポットに水を入れると、説明しながら、赤炎石に魔力を注いだ。初めて見る光景に、希空は目を輝かせた。赤炎石の中がボッと小さな炎をあげたと思えば、徐々に、熱された鉄のような色になり、熱を感じた。まるで、ルビーが強く輝いているようだった。
エミュは食い気味で見てくる希空にドキドキしながら、その上にポットを置いた。希空は電気ケトルみたいに瞬間的に沸くものだと期待していたが、そこは前いた世界と同じ一般的なコンロの使い方と同じであった。
「希空様、そんなに物珍しいですか? この世界では皆、このように湯を沸かしたりします。水も川や井戸から汲み上げる方もいらっしゃいますが……。ここでは、群青石が嵌め込んである蛇口に魔力を注ぐと、水が出る仕組みです」
「へぇー、なんか凄い面白い! 魔力があれば、何でも出来るんだ!」
「何でも出来るという訳ではありませんよ。とにかく、希空様は魔力調整が出来るまでは興味本位でなさらないで下さいよ。魔力判定では民衆の方と同じ位でしたが、まだ分かりませんから。……それから、ドレッド大司教様に怒られますので」
「そんなに言わなくても分かってるって。自分なりに頑張ってみる!」
無垢な笑みを見せる希空を見て、嬉しくなった反面、こんな幼子が聖女の重責に耐えられるかが心配になった。そんな不安にさせるような顔をしてはいけないと思い、エミュは小さく微笑み返した。
湯が沸くと、エミュは棚からブリキ缶を取り出し、ティーポットに茶葉を入れた。そこに、湯を注ぐと、華やかで甘く、落ち着く香りが漂った。エミュは希空をテーブルに誘導すると、ティーカップにお茶を注いだ。希空がティーカップに口を付けようとすると、エミュが穏やかな顔で、こちらを見ていたのに気付く。よく見ると、エミュの分のティーカップが無かった。
「ごめん、気付かなくて」
「え? 何がですか?」
「いや、だって、エミュ様の分が無いんだもん。今、ティーカップ取って来るから」
「いえ、私は大丈夫ですよ! ……って、聞いてないですよね」
エミュは希空に断ったが、勿論そんな事は聞いてもらえず、半ば諦めた。希空はキッチンからティーカップを持ってくると、エミュの分のお茶を淹れた。何度断っても一緒に飲もうと誘う希空に負けて、エミュはお茶を飲む事にした。
希空はエミュに元いた世界の色々な話をした。難しい用語が飛び交う中、嬉しそうに話す希空の顔を見て、エミュは今までの緊張が少し解れた気がした。そして、この愛らしい姿を一生守っていきたいと思った。
「今、お茶を淹れますね」
「いえ、大丈夫です。お茶ぐらいは自分で淹れられます。えっと……、お湯はどこで沸かせばいいですか?」
「…………希空様、またまたご冗談を」
エミュはキョトンとした顔をしたかと思えば、笑ってはぐらかした。希空は本気である事を伝え、エミュが持っていたポットを奪い取った。エミュは戸惑っていたが、言っても言う事を聞いてくれなさそうな希空の表情を見ると、諦めて、隣の部屋に案内してくれた。
エミュの後ろをついていき、隣の部屋を覗くと、ワンルームでよく見るような広さのこじんまりとしたキッチンのようなスペースだった。部屋の絨毯の色と合わせているのか、白色の中に色鮮やか赤色をアクセントとしたモザイクタイルであり、小窓から射す日の光で艶やかで光沢があり、綺麗だった。希空は目を輝かせ、色々な妄想を膨らませた。
「こちらは薬草研究やポーションを生成する為の部屋でして――」
「ねぇ! ここでお菓子とか作ってもいい? ほら、小さいけど、石窯もあるしさ! こういうの憧れだったんだよね!」
「の、希空様。こちらはそういう料理をする場所ではなくてですね……」
エミュは訂正したが、希空は聞く耳を持たず、棚を開けたり、石窯の中を覗いたり、ルンルン気分だった。エミュは希空の事を強く注意する事も出来ず、頭を抱え、ため息をついた。
「と、とりあえずドレッド大司教様に許可を頂かないと、怒られますので……」
「そうだよね。……で、ここのコンロはどうやって使うの? 電気? ガス? それとも、薪を燃やすの?」
「電気やガスはございません。コンロの中央に赤炎石が嵌めてあるのですが、そこに魔力を注いで使用します。ですので、まだ魔力調整が出来ない希空様には危険です。魔力調整が上手に出来るようになったら、ご自分でお湯を沸かしたりして下さい。それまでは私がお世話させて頂きますので、本当にお一人でなさないで下さい」
エミュは希空にやんわり釘を刺した。希空は少しションボリした顔をし、残念がった。エミュは少し言い過ぎたかと焦ったが、赤炎石を使っている姿を見たいと希空が言ってきたため、ポットに水を入れると、説明しながら、赤炎石に魔力を注いだ。初めて見る光景に、希空は目を輝かせた。赤炎石の中がボッと小さな炎をあげたと思えば、徐々に、熱された鉄のような色になり、熱を感じた。まるで、ルビーが強く輝いているようだった。
エミュは食い気味で見てくる希空にドキドキしながら、その上にポットを置いた。希空は電気ケトルみたいに瞬間的に沸くものだと期待していたが、そこは前いた世界と同じ一般的なコンロの使い方と同じであった。
「希空様、そんなに物珍しいですか? この世界では皆、このように湯を沸かしたりします。水も川や井戸から汲み上げる方もいらっしゃいますが……。ここでは、群青石が嵌め込んである蛇口に魔力を注ぐと、水が出る仕組みです」
「へぇー、なんか凄い面白い! 魔力があれば、何でも出来るんだ!」
「何でも出来るという訳ではありませんよ。とにかく、希空様は魔力調整が出来るまでは興味本位でなさらないで下さいよ。魔力判定では民衆の方と同じ位でしたが、まだ分かりませんから。……それから、ドレッド大司教様に怒られますので」
「そんなに言わなくても分かってるって。自分なりに頑張ってみる!」
無垢な笑みを見せる希空を見て、嬉しくなった反面、こんな幼子が聖女の重責に耐えられるかが心配になった。そんな不安にさせるような顔をしてはいけないと思い、エミュは小さく微笑み返した。
湯が沸くと、エミュは棚からブリキ缶を取り出し、ティーポットに茶葉を入れた。そこに、湯を注ぐと、華やかで甘く、落ち着く香りが漂った。エミュは希空をテーブルに誘導すると、ティーカップにお茶を注いだ。希空がティーカップに口を付けようとすると、エミュが穏やかな顔で、こちらを見ていたのに気付く。よく見ると、エミュの分のティーカップが無かった。
「ごめん、気付かなくて」
「え? 何がですか?」
「いや、だって、エミュ様の分が無いんだもん。今、ティーカップ取って来るから」
「いえ、私は大丈夫ですよ! ……って、聞いてないですよね」
エミュは希空に断ったが、勿論そんな事は聞いてもらえず、半ば諦めた。希空はキッチンからティーカップを持ってくると、エミュの分のお茶を淹れた。何度断っても一緒に飲もうと誘う希空に負けて、エミュはお茶を飲む事にした。
希空はエミュに元いた世界の色々な話をした。難しい用語が飛び交う中、嬉しそうに話す希空の顔を見て、エミュは今までの緊張が少し解れた気がした。そして、この愛らしい姿を一生守っていきたいと思った。
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