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第二章:Side Noa <名ばかりの召喚聖女>
2-3:名ばかりの聖女とは言われないために
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教会内は石造りで廊下に赤い絨毯が敷かれてあった。噴水がある中庭が見渡せた。山の字を横にしたような建てられ方であった。そして、四人は教会の大聖堂にやってきた。見上げる程の高さの天井に、壁の上半分にステンドグラスがあり、祭壇には儀式で使うような法具が置かれていた。
「凄い綺麗ですね……」
希空は目を輝かせながら、大聖堂を見渡した。ドレッドが祭壇前に来るように言うと、祭壇に大きな水晶玉を置いた。ドレッドから水晶玉に手をかざすように言われたので、希空はそっと手をかざした。しかし、水晶玉には目立った反応が無く、眩しく光り輝く事も無かった。ドレッドが水晶玉の中を虫眼鏡で観察した。
「いえ、待ってください。水晶玉の中をよくご覧ください。小さいですが、光の粒子が形成されています。これは希空様が聖女様という事です。しかし、魔力が弱いですし、乏しいです」
「名ばかりの聖女か……。もうちょっとマシな召喚士はいねぇのかよ」
「ドレッド様、どうやったら魔力を高める事が出来ますか? 僕、修行します。誰かさんみたいに『名ばかりの聖女』と言われたくないので!」
ドレッドはどのようにすれば、希空の魔力が上がるか考えた。何かのきっかけで爆発的に増える可能性もあるし、慎重に行う必要があると考えた。一先ず、四人は希空の部屋へ戻る事にした。
「まずは魔法についての基礎知識から学んでいきましょう。私達も聖女様の魔力を活性化するためには、何が必要か調べますので、焦らずお待ちください」
「ありがとうございます。あと、この国の事も知りたいので、街へ出る事は可能ですか? ずっとここに居ても、息が詰まりそうで……」
ドレッドは先程よりも神妙な面持ちで、エミュとヒソヒソと話し始めた。そして、ドレッドの発言にエミュは驚き、少し慌てた様子で反論していた様子だった。ドレッドはエミュに落ち着くように宥めると、渋々納得したのか、ため息をついていた。
「希空様、街へ出る事は私が許可しますが、今はまだ不可能です。まずは、教会のすぐ近くにある王立図書館で我が国の歴史を学ばれてください。あとはそうですね……、薬草園までは行かれてもよろしいでしょう。薬草学を学ばれるのも聖女をされる上で大切な事ですし、時には外の空気を吸って、気分転換をするのも良いでしょう」
「――ドレッド大司教様、先程とおっしゃってる事が違うじゃないですか! もし、国王陛下にバレてしまったら、また反感を買いますよ!」
エミュは取り乱し、ドレッドに釘をさしたが、聞く耳を持たなかった。二人のやり取りを見て、希空は居た堪れなく感じた。そんなピリついた空気の中、フィディスが大きなため息をついた。
「はぁ……、俺はコイツの子守りをする位なら自己鍛錬に励んだ方が何十倍もこの国のためになると思うけどな」
「――フィディス! 待ちなさい!」
ドレッドが怒り、フィディスを引き止めようとしたが、聞こえないふりをして、希空の部屋から去っていった。ドレッドはやれやれと言った感じで深くため息をついた。希空も場の空気が読めないフィディスがいなくなって、少し安心した。フィディスが護衛だなんてあり得ないし、自分とは絶対的に相性が合わないと思った。フィディスに見下され続けた希空は今にも怒りが爆発しそうだったが、それを隠すように苦笑いした。
「フィディス……様は、本当に僕の護衛なんですか? 凄く嫌そうでしたけど、僕も嫌ですけど」
「フィディスは我が国随一の剣術士で、彼の右に出る者はいません。ですが、ああいう感じですので……」
二人は顔を掻きながら、苦笑いをした。希空も察したかのように苦笑いをした。ぎこちない空気が流れる中、柱時計の鐘が鳴り、定刻を告げる。その柱時計はゴールドを基調としたもので、太陽と月を手にした二人の小さな天使達が両脇に配置されたバロック調のデザインだった。希空は立ち上がり、不思議とその時計に近付き、見上げた。
「なんだろう……? 何かを忘れているような……。なんだっけ?」
「希空様、どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。それより、王立図書館で本を何冊か借りてもいいですか? あと、薬草園の場所も知りたいです」
「畏まりました。敷地内でしたら、フィディスの護衛は無くても大丈夫でしょう。それと、国王陛下との謁見は公務が立て込んでらっしゃるそうなので、また後日で。それと、敷地内ではこの札を携帯して下さいますよう、お願いいたします」
ドレッドはエミュに指示し、こげ茶色の革紐と金属製のプレートを準備させた。プレートは五百円玉と同じ位の大きさで、色もどことなく五百円玉と似ていた。エミュがそれに手をかざし、呪文を唱えると、プレートには小さな穴が開けられ、何やら文字や数字が浮き上がった。そして、革紐に通すと、希空に手渡した。
「これは身分証兼通行証になります。教会に所属するものは金、王宮に所属するものは銀になっております。常に身に着けててください」
「ありがとうございます。――あっ! そう言えば、バッグチャーム! あの、僕が着ていた服ってどこですか?」
希空が思い出したかのように、大きな声を出したため、二人は驚いた。なんだそんなことかと二人は胸を撫で下ろし、エミュが立ち上がり、ベッドの隣にある煌びやかな衣装棚から綺麗に畳まれた服を取り出し、テーブルに置いた。そこには、ポケットの中に入れたバッグチャームもあった。希空はそれを見て、ホッとした。そして、バッグチャームを先程の革紐のネックレスに着けた。
「すみません、大きな声を出してしまって。準備出来たので、案内をお願いします」
「では、ここからは希空様の身の回りのお世話をさせて頂くエミュが担当いたします」
ドレッドは一足先に退室し、エミュが王立図書館と薬草園などを案内してくれた。王立図書館は教会のすぐ隣にあり、白い石造りの建物で見上げる程だった。エミュが重厚な両開き扉を開けた瞬間、古本屋のような独特な香りがし、中は少し暗い。二階建てで弧を描くように重厚な本棚があり、ぎっしりと貴重な蔵書が並べられていた。凝った内装、華やかな彫刻、天井には美しい色彩なフレスコ画が描かれていた。希空は口をあんぐりさせて、図書館の中を見渡した。
「凄い綺麗ですね……」
希空は目を輝かせながら、大聖堂を見渡した。ドレッドが祭壇前に来るように言うと、祭壇に大きな水晶玉を置いた。ドレッドから水晶玉に手をかざすように言われたので、希空はそっと手をかざした。しかし、水晶玉には目立った反応が無く、眩しく光り輝く事も無かった。ドレッドが水晶玉の中を虫眼鏡で観察した。
「いえ、待ってください。水晶玉の中をよくご覧ください。小さいですが、光の粒子が形成されています。これは希空様が聖女様という事です。しかし、魔力が弱いですし、乏しいです」
「名ばかりの聖女か……。もうちょっとマシな召喚士はいねぇのかよ」
「ドレッド様、どうやったら魔力を高める事が出来ますか? 僕、修行します。誰かさんみたいに『名ばかりの聖女』と言われたくないので!」
ドレッドはどのようにすれば、希空の魔力が上がるか考えた。何かのきっかけで爆発的に増える可能性もあるし、慎重に行う必要があると考えた。一先ず、四人は希空の部屋へ戻る事にした。
「まずは魔法についての基礎知識から学んでいきましょう。私達も聖女様の魔力を活性化するためには、何が必要か調べますので、焦らずお待ちください」
「ありがとうございます。あと、この国の事も知りたいので、街へ出る事は可能ですか? ずっとここに居ても、息が詰まりそうで……」
ドレッドは先程よりも神妙な面持ちで、エミュとヒソヒソと話し始めた。そして、ドレッドの発言にエミュは驚き、少し慌てた様子で反論していた様子だった。ドレッドはエミュに落ち着くように宥めると、渋々納得したのか、ため息をついていた。
「希空様、街へ出る事は私が許可しますが、今はまだ不可能です。まずは、教会のすぐ近くにある王立図書館で我が国の歴史を学ばれてください。あとはそうですね……、薬草園までは行かれてもよろしいでしょう。薬草学を学ばれるのも聖女をされる上で大切な事ですし、時には外の空気を吸って、気分転換をするのも良いでしょう」
「――ドレッド大司教様、先程とおっしゃってる事が違うじゃないですか! もし、国王陛下にバレてしまったら、また反感を買いますよ!」
エミュは取り乱し、ドレッドに釘をさしたが、聞く耳を持たなかった。二人のやり取りを見て、希空は居た堪れなく感じた。そんなピリついた空気の中、フィディスが大きなため息をついた。
「はぁ……、俺はコイツの子守りをする位なら自己鍛錬に励んだ方が何十倍もこの国のためになると思うけどな」
「――フィディス! 待ちなさい!」
ドレッドが怒り、フィディスを引き止めようとしたが、聞こえないふりをして、希空の部屋から去っていった。ドレッドはやれやれと言った感じで深くため息をついた。希空も場の空気が読めないフィディスがいなくなって、少し安心した。フィディスが護衛だなんてあり得ないし、自分とは絶対的に相性が合わないと思った。フィディスに見下され続けた希空は今にも怒りが爆発しそうだったが、それを隠すように苦笑いした。
「フィディス……様は、本当に僕の護衛なんですか? 凄く嫌そうでしたけど、僕も嫌ですけど」
「フィディスは我が国随一の剣術士で、彼の右に出る者はいません。ですが、ああいう感じですので……」
二人は顔を掻きながら、苦笑いをした。希空も察したかのように苦笑いをした。ぎこちない空気が流れる中、柱時計の鐘が鳴り、定刻を告げる。その柱時計はゴールドを基調としたもので、太陽と月を手にした二人の小さな天使達が両脇に配置されたバロック調のデザインだった。希空は立ち上がり、不思議とその時計に近付き、見上げた。
「なんだろう……? 何かを忘れているような……。なんだっけ?」
「希空様、どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。それより、王立図書館で本を何冊か借りてもいいですか? あと、薬草園の場所も知りたいです」
「畏まりました。敷地内でしたら、フィディスの護衛は無くても大丈夫でしょう。それと、国王陛下との謁見は公務が立て込んでらっしゃるそうなので、また後日で。それと、敷地内ではこの札を携帯して下さいますよう、お願いいたします」
ドレッドはエミュに指示し、こげ茶色の革紐と金属製のプレートを準備させた。プレートは五百円玉と同じ位の大きさで、色もどことなく五百円玉と似ていた。エミュがそれに手をかざし、呪文を唱えると、プレートには小さな穴が開けられ、何やら文字や数字が浮き上がった。そして、革紐に通すと、希空に手渡した。
「これは身分証兼通行証になります。教会に所属するものは金、王宮に所属するものは銀になっております。常に身に着けててください」
「ありがとうございます。――あっ! そう言えば、バッグチャーム! あの、僕が着ていた服ってどこですか?」
希空が思い出したかのように、大きな声を出したため、二人は驚いた。なんだそんなことかと二人は胸を撫で下ろし、エミュが立ち上がり、ベッドの隣にある煌びやかな衣装棚から綺麗に畳まれた服を取り出し、テーブルに置いた。そこには、ポケットの中に入れたバッグチャームもあった。希空はそれを見て、ホッとした。そして、バッグチャームを先程の革紐のネックレスに着けた。
「すみません、大きな声を出してしまって。準備出来たので、案内をお願いします」
「では、ここからは希空様の身の回りのお世話をさせて頂くエミュが担当いたします」
ドレッドは一足先に退室し、エミュが王立図書館と薬草園などを案内してくれた。王立図書館は教会のすぐ隣にあり、白い石造りの建物で見上げる程だった。エミュが重厚な両開き扉を開けた瞬間、古本屋のような独特な香りがし、中は少し暗い。二階建てで弧を描くように重厚な本棚があり、ぎっしりと貴重な蔵書が並べられていた。凝った内装、華やかな彫刻、天井には美しい色彩なフレスコ画が描かれていた。希空は口をあんぐりさせて、図書館の中を見渡した。
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