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第二章:Side Noa <名ばかりの召喚聖女>
2-2:名ばかりの聖女?
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「聖女様に剣を向けようとするとは何事ですか。これだと先が思いやられます」
「も、申し訳ありません。ドレッド大司教様……」
「それよりも、私達の自己紹介がまだでしたね。私はドレッドと申します。ここで大司教をしております」
ドレッドは白髪まじりで、年は中年位であろう。渋い声に大人の色気がある。ドレッドは希空に微笑みかけ、希空をソファに案内した。対面する形で座ると、先程の若い司祭がお茶を出してくれた。フィディスは不愛想な顔をしながら、壁にもたれ掛かり、目を閉じ、黙っていた。
「聖女様、お初にお目にかかります。私はエミュと申します。ここで司祭をしております。そこに立っているのが第二騎士団所属のフィディスと申します」
エミュは胸に手を当て、頭を下げた。肩までの長さのシャンパンゴールドに近い金色の髪が頭の動きで金属の棒が沢山吊るされているウィンドチャイムの楽器を奏でているような動きに見え、思わず見惚れた。
「聖女様のお名前を聞いてもよろしいですか?」
「希空です……」
「そうですか、希空様ですか……。良い名ですね。希空様は私達の言葉が理解出来るようですが、生まれはどちらですか?」
言われてみれば、皆が話している言葉が分かるのに気付き、希空はハッとした。改めて願い事が叶ったと実感した。しかし、ドレッドの問いに対して、正直に答えていいのか分からなかった。希空は無難な答えを考えた。
「に、……じゃなくて、別の世界です。なんて言えばいいか分かりませんが」
「やはり……」
ドレッドはエミュとアイコンタクトをすると、顎に手を当て、黙った。言ってはいけない事を言ってしまったのかと希空は不安になり、冷や汗が出た。沈黙が流れる中、今まで黙っていたフィディスがまた余計な事を言う。
「召喚儀式が成功したと教会は言っていたが、俺はこんな子供が聖女だなんて思えない。それに、なんで俺がこんな子供のお守りをやんなきゃなんねぇんだ」
「フィディス! 口を慎みなさい! 希空様、大変申し訳ございません」
「いえ、大丈夫です……」
希空がフィディスを見ると、フィディスはつんとした顔で目を背けた。二人達は希空に頭を深々と下げ、謝罪した。ドレッドは咳払いをすると、今回の聖女召喚についての経緯を話し始めた。
「この世界は数百年もの間、穏やかで平和なものでした。しかし、より多くの富を得るために、人々は次第に争うようになりました。そして、その中で生まれた憎しみ、悲しみ、苦しみなどの負の力が瘴気を生み出し、魔物を目覚めさせ、最終的には魔王を呼び起こす引き金になるのです。世界が負へ傾き過ぎないように、聖樹と呼ばれる負の力を浄化する大樹が北の最果ての地にあります。聖樹が世界の均衡を保ち、今があるのですが、その力も年々弱まってきています。そのため、聖樹の力を甦らせるために、真の聖女を召喚する運びとなりました」
「……ちょ、ちょっと待ってください。聖樹の力が戻っても、負の力が瘴気を生み出し続ける訳だから、また同じ事の繰り返しになる気がして、根本的な解決にならない気がしますけど」
「私もそう思うのですが、聖女様は世界の希望ですから。特に、この神聖セルベン王国で召喚された聖女はそこらにいる聖女とは違い、特別な存在なのです」
「世界の希望な上に特別な存在って言われても……」
希空は正直、呆れてものも言えなかった。この世界では、聖女は都合の良いものなのだろうと思った。そんな世界に召喚され、当初の願い事は何処に行ったのだろうかと希空は困り果てた。フィディスは困り果てる希空を見て、深いため息をつき、また口を挟む。
「ドレッド大司教様、そもそも肝が据わった奴にしか聖女は務まらないんですって。召喚失敗。実際に、コイツからは魔力も感じねぇし、こんな小さい体じゃ魔物に一発でやられますよ」
「フィディス、また余計な事を。……なんで騎士団はこんな礼儀がなっていない人間を寄越してきたんだ」
「俺みたいな言う事を聞かない奴が騎士団に居たら、困るからだろ」
「……そういうのは自覚があるのか」
希空は痺れを切らし、テーブルに力強く手をつくと、立ち上がった。ドレッド達はあっけらかんとしていた。
「分かりましたよ、聖女とやらをやってやりますよ。そこの最低男が聖女って認めてくれるように、頑張ります! 聖女になった暁には、今までの失言大変申し訳ありませんでしたって土下座してもらいます。それでいいですか!」
「希空様がそう言うのなら、私達教会で様々な知識をつけて差し上げましょう」
ドレッドはニコニコしながら、希空に握手を求めた。希空はドレッドの手を力強く握り、ぶんぶんと振った。しかし、普通の人間より手の冷たさを感じた。
希空が素足のままだったのに気付くと、エミュは頭を下げながら、クローゼットの下からバレエシューズみたいな靴を出して、履かせてくれた。そして、ドレッド達の案内で、教会内を見学した。希空の後ろにフィディスが張り付くようにいた。背中から伝わってる威圧感がとても不快だった。
「あの、なんでこの図体デカい男までいるんですか……?」
「お前の護衛騎士だから、仕方ないだろ」
「はぁ! 護衛騎士? あり得ない! すぐ代えてよ!」
「希空様、騎士団とはかなり時間をかけて交渉したのですが、騎士団の融通が利かずですね……」
「はっきり言えばいいんだよ。騎士団のお荷物をどうぞって言われたって」
ドレッド達は苦笑いをし、希空を申し訳なそうな目で見つめてきた。希空はため息をつき、渋々納得する事にした。
「も、申し訳ありません。ドレッド大司教様……」
「それよりも、私達の自己紹介がまだでしたね。私はドレッドと申します。ここで大司教をしております」
ドレッドは白髪まじりで、年は中年位であろう。渋い声に大人の色気がある。ドレッドは希空に微笑みかけ、希空をソファに案内した。対面する形で座ると、先程の若い司祭がお茶を出してくれた。フィディスは不愛想な顔をしながら、壁にもたれ掛かり、目を閉じ、黙っていた。
「聖女様、お初にお目にかかります。私はエミュと申します。ここで司祭をしております。そこに立っているのが第二騎士団所属のフィディスと申します」
エミュは胸に手を当て、頭を下げた。肩までの長さのシャンパンゴールドに近い金色の髪が頭の動きで金属の棒が沢山吊るされているウィンドチャイムの楽器を奏でているような動きに見え、思わず見惚れた。
「聖女様のお名前を聞いてもよろしいですか?」
「希空です……」
「そうですか、希空様ですか……。良い名ですね。希空様は私達の言葉が理解出来るようですが、生まれはどちらですか?」
言われてみれば、皆が話している言葉が分かるのに気付き、希空はハッとした。改めて願い事が叶ったと実感した。しかし、ドレッドの問いに対して、正直に答えていいのか分からなかった。希空は無難な答えを考えた。
「に、……じゃなくて、別の世界です。なんて言えばいいか分かりませんが」
「やはり……」
ドレッドはエミュとアイコンタクトをすると、顎に手を当て、黙った。言ってはいけない事を言ってしまったのかと希空は不安になり、冷や汗が出た。沈黙が流れる中、今まで黙っていたフィディスがまた余計な事を言う。
「召喚儀式が成功したと教会は言っていたが、俺はこんな子供が聖女だなんて思えない。それに、なんで俺がこんな子供のお守りをやんなきゃなんねぇんだ」
「フィディス! 口を慎みなさい! 希空様、大変申し訳ございません」
「いえ、大丈夫です……」
希空がフィディスを見ると、フィディスはつんとした顔で目を背けた。二人達は希空に頭を深々と下げ、謝罪した。ドレッドは咳払いをすると、今回の聖女召喚についての経緯を話し始めた。
「この世界は数百年もの間、穏やかで平和なものでした。しかし、より多くの富を得るために、人々は次第に争うようになりました。そして、その中で生まれた憎しみ、悲しみ、苦しみなどの負の力が瘴気を生み出し、魔物を目覚めさせ、最終的には魔王を呼び起こす引き金になるのです。世界が負へ傾き過ぎないように、聖樹と呼ばれる負の力を浄化する大樹が北の最果ての地にあります。聖樹が世界の均衡を保ち、今があるのですが、その力も年々弱まってきています。そのため、聖樹の力を甦らせるために、真の聖女を召喚する運びとなりました」
「……ちょ、ちょっと待ってください。聖樹の力が戻っても、負の力が瘴気を生み出し続ける訳だから、また同じ事の繰り返しになる気がして、根本的な解決にならない気がしますけど」
「私もそう思うのですが、聖女様は世界の希望ですから。特に、この神聖セルベン王国で召喚された聖女はそこらにいる聖女とは違い、特別な存在なのです」
「世界の希望な上に特別な存在って言われても……」
希空は正直、呆れてものも言えなかった。この世界では、聖女は都合の良いものなのだろうと思った。そんな世界に召喚され、当初の願い事は何処に行ったのだろうかと希空は困り果てた。フィディスは困り果てる希空を見て、深いため息をつき、また口を挟む。
「ドレッド大司教様、そもそも肝が据わった奴にしか聖女は務まらないんですって。召喚失敗。実際に、コイツからは魔力も感じねぇし、こんな小さい体じゃ魔物に一発でやられますよ」
「フィディス、また余計な事を。……なんで騎士団はこんな礼儀がなっていない人間を寄越してきたんだ」
「俺みたいな言う事を聞かない奴が騎士団に居たら、困るからだろ」
「……そういうのは自覚があるのか」
希空は痺れを切らし、テーブルに力強く手をつくと、立ち上がった。ドレッド達はあっけらかんとしていた。
「分かりましたよ、聖女とやらをやってやりますよ。そこの最低男が聖女って認めてくれるように、頑張ります! 聖女になった暁には、今までの失言大変申し訳ありませんでしたって土下座してもらいます。それでいいですか!」
「希空様がそう言うのなら、私達教会で様々な知識をつけて差し上げましょう」
ドレッドはニコニコしながら、希空に握手を求めた。希空はドレッドの手を力強く握り、ぶんぶんと振った。しかし、普通の人間より手の冷たさを感じた。
希空が素足のままだったのに気付くと、エミュは頭を下げながら、クローゼットの下からバレエシューズみたいな靴を出して、履かせてくれた。そして、ドレッド達の案内で、教会内を見学した。希空の後ろにフィディスが張り付くようにいた。背中から伝わってる威圧感がとても不快だった。
「あの、なんでこの図体デカい男までいるんですか……?」
「お前の護衛騎士だから、仕方ないだろ」
「はぁ! 護衛騎士? あり得ない! すぐ代えてよ!」
「希空様、騎士団とはかなり時間をかけて交渉したのですが、騎士団の融通が利かずですね……」
「はっきり言えばいいんだよ。騎士団のお荷物をどうぞって言われたって」
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