召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第二章:Side Noa <名ばかりの召喚聖女>

2-1:異世界へ来たら、丁重に扱われると思ったけど、違うらしい

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「あれ? いつの間にか寝ちゃってた。……って、ここは夢?」


 希空は眠い目を擦りながら、目覚めた。体はふわふわと宙を浮いており、見渡す限りはプラネタリウムの中みたいに星々が煌めき、幻想的な空間だった。体は少しずつ下へ下へ降りていく。下へ降りていくにつれ、お経を唱えているような声が聞こえてきた。希空はやはりあの魔法陣の噂は嘘で、自分は死んで、幽世に来てしまったのだと思った。


「なんだ……。やっぱり、雫さんの言う通り、迷信だったんだ。あーっ、自分死んじゃったのかな。それでもいいか。もうあの世界には未練は無かった訳だし、天国で伸び伸びした生活をすればいいか」


 希空は自分に言い聞かせながら、何度も頷いた。床であろう場所に背中が触れ、希空は手をついて立ち上がろうとした。その瞬間、今までキラキラと輝いていた星々は消え、突如、床に例の魔法陣が赤黒く大きく描かれ、怪しげな光を放った。光はどんどん強くなり、目を瞑りたくなるような眩しさになっていき、希空は右腕で目を覆った。


「なになに? ま、眩しい!」
「おぉっ! なんと……!」


 眩しさが徐々に無くなり、お経を唱えていた人の声がした。次は少しジメッとして、カビ臭いような砂埃っぽいような臭いがした。希空は目を覆っていた右腕をゆっくりと下げた。目を開けた先にはゲームでよく見る司祭のような恰好をした青年から初老までの男性が複数人立っていた。


「あ、あの……」


 希空が尋ねようとするが、司祭達は希空を指差しながら、コソコソと喋っていた。希空は言葉が通じないと思い、諦めて、自分がいる場所を確認した。希空がいる石畳の床には例の魔法陣が大きく描かれており、ひんやり冷たかった。後ろを振り向くと、石で造られた祭壇があり、壁には人や動物などの浮彫が施されていた。祭壇の両サイドに立てられた複数の蝋燭立てには、巨大な蝋燭が何本も立っており、蝋燭の灯りがゆらゆらと妖しげに揺れ、希空は固唾を呑んだ。


「――っ!」


 希空は急に肩を掴まれ、体を大きくビクッとさせた。希空の驚きように司祭も驚き、咄嗟に手を引っ込ませた。希空が振り向くと、自分の肩を掴んだであろう司祭が司祭杖を持った大司教に怒られていた。


「――それにしても、ここはどこですか?」


 希空が不安げに見つめていると、先程の大司教が近寄って来た。希空が不思議そうに大司教を見つめると、大司教は何かを唱えながら、片手で希空の目を覆った。希空が何故こんな事をするのか質問しようとした瞬間、突然の睡魔に襲われ、その場に倒れた。


◆◇◆◇◆◇


 希空が目を覚ますと、天蓋があるベッドの上だった。希空は起き上がり、背伸びをすると、部屋を見渡した。高級ホテルへ来たような豪華で煌びやかな装飾とシャンデリアがキラキラと輝いていた。ベッドから下りると、床はペルシャ絨毯のような緻密な模様がとても美しく、足の裏から伝わる触り心地が気持ち良く、思わず頬擦りしたくなる。希空は裸足のままで部屋のあちこちを見た。


「こんな綺麗なホテルは初めて。綺麗だなぁ」


 希空は浮かれて、クルクルと回っていると、これまたフレームに細かい装飾がされた鏡に自分の姿が映った。希空はおかしいと思い、ピタッと止まり、鏡に近付いた。希空はいつものモコモコしたパジャマではなく、膝下まで覆う純白のノースリーブワンピースで両サイドにスリットが膝上まで入っていた服を着ていた。
 勿論、違和感はそこだけでは無かった。やけに下がスースーすると思い、希空は服をたくし上げると、光沢感が美しいサテン生地のTバックを身に着けており、両サイドはセクシーな結びヒモになっていた。希空は頬を赤くし、慌てて、たくし上げた服を正した。


「さっきのおじさん達に身ぐるみを剥がされて、……まるでエロ同人みたいだ。って、違う違う! そんな腐要素入れんでいい! それよりもここ何処? そうだよ、ここ何処だよ!」


 希空は外へ出る窓を見つけ、バルコニーへ出た。石畳であったが、石の面は滑らかに加工されており、素足でも少しひんやりするが、痛くなかった。そして、バルコニーからは太陽の光で水面がキラキラと輝く海と行き交う船、空は快晴でカモメらしき海鳥が楽しそうに飛んでいた。心地よい日差しに吹く風を前に、希空は大きく背伸びをし、深呼吸を何度かした。


「おい、何をしている」


 希空は冷たい声にビクッとし、後ろを振り返った。そこには青色の軍服を着て、ブラウンベージュの髪をした体つきがガッシリとした男性が希空を睨むように見ていた。高身長という事もあり、希空は見下されている気がして、少し怯えた。怯える希空を見て、隣にいた若い司祭がオドオドしていた。


「フィディス、聖女様が怯えてらっしゃいます! 少しは愛想良くしてください」
「ふん。聖女と聞いていたが、男じゃないか。しかも、まだ子供じゃないか。教会はこんなのが趣味なのか?」


 癪に障るフィディスの発言に希空は不快感を示した。今までは言われっ放しの人生だったが、今はもう違うんだと希空は自分に言い聞かせて、頬を膨らまし、フィディスの前に立った。


「子供で悪かったですね! 貴方みたいな図体と態度だけがデカい人には言われたくないですね!」
「な、なんだと? 俺を怒らせたいのか!」


 フィディスは鬼の形相で剣を抜こうとした。司祭は慌てて、止めに入った。フィディスと希空が睨み合っていると、先程の大司教が二人を仲裁するように手を叩いて、部屋へ入ってきた。フィディスは舌打ちをし、抜刀するのを諦めた。
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