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第一章:苦痛な日々からの脱却
1-9:未練もないし、必要とされていない
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希空と出会ってから数日後。雫がいつものようにゲームへログインしようと思った時、スマホが鳴った。雫がスマホを見ると、希空からメッセージが届いていた。雫は内容を見て、目を見開き、酷く驚いた。
『先日、母親の彼氏さんが家に来て、母がいない隙に襲われました。そして、ヤッてるのを見つかってしまって、喧嘩になりました。そして、母に「お前なんか産まなきゃ良かった!」って言われちゃいました。もう嫌です、こんな生活……。雫さんの声、聞きたいです』
「マジかよ……」
雫は希空に電話をかけた。すぐに電話が繋がり、雫は胸を撫で下ろした。しかし、電話口の希空は元気がなく、暗い印象だった。
「希空、大丈夫か?」
「すみません、急にあんなメッセージ送っちゃって。……もう誰も信用出来ないです。迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」
「いや、俺は迷惑だとは思ってないよ。……それより、大丈夫か?」
電話口からは希空のすすり泣く声が聞こえた。雫は希空が落ち着くまで黙った。雫はこういう時に相手へ気の利いた言葉がかけられない自分を恨んだ。
「すみません。雫さんを困らせちゃって……」
「ごめん、なんて言えばいいか分からなくて」
「雫さん、僕は今夜、前に言った魔法陣をやろうって決めました。僕はもうこの世界に未練もないし、そもそも必要とされていないので。もし、ゲームに何日もログインしてなかったら、成功したと思ってください。スマホのデータも全部削除するので、電話も今日が最後になります。雫さん、本当にありがとうございました」
「ちょ、ちょっとまっ――!」
雫が止めようとしたが、希空は一方的に電話を切った。雫は希空に電話を掛け直したが、電話に出てくれる事は無かった。希空の家を知っていたら、今すぐにでも駆けつけてやるのにと思い、雫は苛立ち、持っていたスマホをベッドに投げつけた。
「くそっ! なんでこういう時に助けてやれないんだ! 役立たずだな、俺は」
雫は冷静になるために、冷水で顔を洗った。そして、身を投じるようにベッドへ飛び込んだ。そして、大の字になって、天井を見上げ、一点を見つめた。
「希空……。何も出来ない俺を許してくれ……」
◆◇◆◇◆◇
希空は一方的に電話を切った後、雫からの電話を無視した。勝手に溢れてくる涙を拭きながら、希空は例のサイトにアクセスし、願い事のやり方を読んだ。希空はハサミを持つと、何度か大きく深呼吸し、指の腹をハサミの刃で傷付けた。傷付けた部分からは血が滲んできた。
「いった! 痛いけど、痛いけど、我慢。……魔法陣を書くまで我慢。僕なら絶対に出来る」
希空は震える手を必死に抑えた。自分に大丈夫だと言い聞かせながら、憑りつかれた様に、赤色のサインペンに自分の血を滲ませ、真っ白な紙に魔法陣を描いた。描き終わると、希空は絆創膏を貼り、止血した。そして、真っ暗な部屋を見渡し、忘れ物が無いかを確認した。
「スマホのデータは全部消した。パソコンのデータも消した。あとは……」
希空はクローゼットに掛けてあった鞄を見つめる。そこには、雫が買ってくれたイニシャルキーホルダーがあった。希空はキーホルダーを鞄から外すと、ズボンのポケットの中へ入れた。そして、もう一度、部屋を見渡し、もう大丈夫と自分に言い聞かせるように深く頷くと、先程描いた魔法陣を枕の下に入れると、ベッドに入った。希空は天井を見上げ、一呼吸つくと、目を瞑り、胸の前で手を組んで祈った。
「この世と決別し、新たな世界へ。皆が僕の事を崇めてくれて、自分の事を守ってくれる強くて、カッコいい男の人と結ばれますように」
希空は自分の願い事が叶うように、何度も心の中で唱えた。頭の中ではぼんやりではあるが、叶った場面を想像した。先程まで焦燥感にかられていた希空は少しずつ穏やかな気持ちになり、いつの間にか深い眠りについていた。
『先日、母親の彼氏さんが家に来て、母がいない隙に襲われました。そして、ヤッてるのを見つかってしまって、喧嘩になりました。そして、母に「お前なんか産まなきゃ良かった!」って言われちゃいました。もう嫌です、こんな生活……。雫さんの声、聞きたいです』
「マジかよ……」
雫は希空に電話をかけた。すぐに電話が繋がり、雫は胸を撫で下ろした。しかし、電話口の希空は元気がなく、暗い印象だった。
「希空、大丈夫か?」
「すみません、急にあんなメッセージ送っちゃって。……もう誰も信用出来ないです。迷惑ばかりかけて、ごめんなさい」
「いや、俺は迷惑だとは思ってないよ。……それより、大丈夫か?」
電話口からは希空のすすり泣く声が聞こえた。雫は希空が落ち着くまで黙った。雫はこういう時に相手へ気の利いた言葉がかけられない自分を恨んだ。
「すみません。雫さんを困らせちゃって……」
「ごめん、なんて言えばいいか分からなくて」
「雫さん、僕は今夜、前に言った魔法陣をやろうって決めました。僕はもうこの世界に未練もないし、そもそも必要とされていないので。もし、ゲームに何日もログインしてなかったら、成功したと思ってください。スマホのデータも全部削除するので、電話も今日が最後になります。雫さん、本当にありがとうございました」
「ちょ、ちょっとまっ――!」
雫が止めようとしたが、希空は一方的に電話を切った。雫は希空に電話を掛け直したが、電話に出てくれる事は無かった。希空の家を知っていたら、今すぐにでも駆けつけてやるのにと思い、雫は苛立ち、持っていたスマホをベッドに投げつけた。
「くそっ! なんでこういう時に助けてやれないんだ! 役立たずだな、俺は」
雫は冷静になるために、冷水で顔を洗った。そして、身を投じるようにベッドへ飛び込んだ。そして、大の字になって、天井を見上げ、一点を見つめた。
「希空……。何も出来ない俺を許してくれ……」
◆◇◆◇◆◇
希空は一方的に電話を切った後、雫からの電話を無視した。勝手に溢れてくる涙を拭きながら、希空は例のサイトにアクセスし、願い事のやり方を読んだ。希空はハサミを持つと、何度か大きく深呼吸し、指の腹をハサミの刃で傷付けた。傷付けた部分からは血が滲んできた。
「いった! 痛いけど、痛いけど、我慢。……魔法陣を書くまで我慢。僕なら絶対に出来る」
希空は震える手を必死に抑えた。自分に大丈夫だと言い聞かせながら、憑りつかれた様に、赤色のサインペンに自分の血を滲ませ、真っ白な紙に魔法陣を描いた。描き終わると、希空は絆創膏を貼り、止血した。そして、真っ暗な部屋を見渡し、忘れ物が無いかを確認した。
「スマホのデータは全部消した。パソコンのデータも消した。あとは……」
希空はクローゼットに掛けてあった鞄を見つめる。そこには、雫が買ってくれたイニシャルキーホルダーがあった。希空はキーホルダーを鞄から外すと、ズボンのポケットの中へ入れた。そして、もう一度、部屋を見渡し、もう大丈夫と自分に言い聞かせるように深く頷くと、先程描いた魔法陣を枕の下に入れると、ベッドに入った。希空は天井を見上げ、一呼吸つくと、目を瞑り、胸の前で手を組んで祈った。
「この世と決別し、新たな世界へ。皆が僕の事を崇めてくれて、自分の事を守ってくれる強くて、カッコいい男の人と結ばれますように」
希空は自分の願い事が叶うように、何度も心の中で唱えた。頭の中ではぼんやりではあるが、叶った場面を想像した。先程まで焦燥感にかられていた希空は少しずつ穏やかな気持ちになり、いつの間にか深い眠りについていた。
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