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第一章:苦痛な日々からの脱却
1-5:やましい気持ちは全然ありません!
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そんな充実した日々が続き、テネブリスの杖の強化も終わり、希空も雫のアドバイスが無くても、一人で立ち回れるようになったある日。二人は一通りのタスクを消化し終えると、夜這い星の崖で星を眺めていた。
「あの、雫さんに相談したい事があるんですけど……、大丈夫ですか?」
「うん、いいよ。何かあった?」
「あの、僕……。雫さんとリアルで会ってみたいです!」
希空の突然の申し出に、雫は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。確かにゲーム内で仲良くなって、リアルで会う人はいなくはない。ギルドメンバーでオフ会をするのも、今ではそんなに珍しくはない。希空のプライベートの話はよく聞いていたが、雫はあまりプライベートの話はしなかった。それもあってか、何故自分に会いたいと思うのだろうかと雫は疑問に思った。
「えっ、私と? 私とリアルで会ったとしても、面白くないよ。第一、自分自身の事なんて話してないし、素性も知らない人と会うの、怖くないの?」
「確かに怖くないって言うと嘘になりますけど、雫さんだったら、安心かなって。優しいし……」
「優しいって……」
雫は少し戸惑ったが、レイスと筋肉バカとは昔開催されたオフラインイベントで会った事あるし、希空は悪いような子じゃないのは分かっていた。少し考えた後、雫はどうにでもなれという気持ちでチャットを打った。
「……分かった。でも、私は至って普通だし、面白味ないよ」
「会ってくれるんですか! 嬉しいです! これ、僕のアカウントです」
希空は雫にメッセージアプリのアカウントを教えた。雫は返答の速さに驚き、最近の子は意外と大胆だなと思った。雫はアプリにアカウントを登録すると、メッセージを送った。これまた速攻で返事が来た。
「雫さん、よろしくお願いします! 僕は東條市に住んでいるんですけど、雫さんはどこに住んでいるんですか?」
(東條市って……住んでるとこ一緒じゃん。世の中狭いとは思っていたけど、こんなにもご近所さんとは)
「雫さん、どうかしましたか?」
「いや、ご近所さんだなって」
「本当ですか? 嬉しいです! 雫さんに早く会いたいです! いつなら会えますか!」
グイグイ来る希空に雫は困り果てた。これがジェネレーションギャップなのかと思いつつ、スマホのカレンダーを見た。上司との関係が終わってから、休みの日は予定が無い。予定と言っても、ゲーム内イベントを消化したり、そういう予定だけだ。
「希空の予定に合わせるよ」
「本当ですか! 平日は学校なので、土日が良いです!」
上司との一件もあり、雫は人肌が恋しかった。もし、リアルで会って、希空が可愛かったら、ワンチャンあるかもしれないと雫は良からぬ事を考えた。そんな下心を押し殺しながら、雫は希空とリアルで会う約束をした。
◆◇◆◇◆◇
久々に予定が入った土曜日。雫はジャケットを羽織り、会社に行く時とは違う香水をつけた。少し色気がある優しい甘さに、香りに深みがあって、落ち着きが感じられるこの香水は相手を誘う時につける、要するに如何わしい事がしたい時につける香水だ。姿鏡で全身をチェックした雫は希空と待ち合わせている駅前まで急いだ。
「まだ来てないかな? と言うより、希空は俺の事を男だって分かってんのかな? 俺は希空の事を年下の男だと勝手に思ってるけど……。あぁ、可愛いと良いなぁ」
雫がやらしい妄想をしていると、希空からメッセージが届いた。メッセージを見ると、首から下が写った全身写真が送られてきた。雫はその写真を見ながら、辺りを見渡した。待ち合わせの駅前はそれなりに人通りがあり、休日であったため、混んでいた。しかし、雫は容易にその服装をしている子を見つける事が出来た。その子はショーウィンドウを鏡代わりにして、髪の毛を直したり、服装をチェックしたりしていた。雫はその子の近くに行くと、声を掛けるのではなく、「近くにいるよ」とメッセージを打った。
(声かけてもいいけど、ちょっと可愛い反応見てみたい……。ごめんね、意地悪して)
「――えっ! 雫さん、どこだろう? あぁ、緊張するな。こんな僕に会って、幻滅しないかな……?」
(可愛い……。リアルでも子犬みたいで抱き締めたくなる!)
希空はきょろきょろしながら、雫を探していた。自分の恰好などは一切伝えていないのに、一生懸命探している希空を見て、雫は声を出して、笑った。希空は雫の笑い声にビクッとした。そして、雫にメッセージのやり取りの画面を見せられ、希空はボッと顔を赤くし、顔を両手で隠した。
「うわぁ! 隣にいるなら、声かけて下さいよ! なんか恥ずかしいじゃないですか!」
「あははっ……。ごめん、ごめん。あまりにも可愛くてさ。……で、希空さんで合ってるかな?」
「はい、高槻 希空って言います。雫さん……ですよね?」
「あっ、フルネーム言っちゃう感じ? ま、いいか。俺は富塚雫。よろしく」
「雫さんってカッコいいですね。……男の人で良かったぁ」
「じゃ、早速だけど、ご飯食べに行こうか。何が食べたい?」
「うーん。……じゃ、パスタが食べたいです!」
希空は嬉しそうに雫の隣に並んだ。雫の予想していた以上に、希空は小さくて可愛くて、ゲーム内での素直さなどを加味すると、ご飯よりも先に食べてしまいたいと思った。そんな下心をグッと抑え、希空のリクエスト通り、パスタが美味しいお店へ入った。
「あの、雫さんに相談したい事があるんですけど……、大丈夫ですか?」
「うん、いいよ。何かあった?」
「あの、僕……。雫さんとリアルで会ってみたいです!」
希空の突然の申し出に、雫は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。確かにゲーム内で仲良くなって、リアルで会う人はいなくはない。ギルドメンバーでオフ会をするのも、今ではそんなに珍しくはない。希空のプライベートの話はよく聞いていたが、雫はあまりプライベートの話はしなかった。それもあってか、何故自分に会いたいと思うのだろうかと雫は疑問に思った。
「えっ、私と? 私とリアルで会ったとしても、面白くないよ。第一、自分自身の事なんて話してないし、素性も知らない人と会うの、怖くないの?」
「確かに怖くないって言うと嘘になりますけど、雫さんだったら、安心かなって。優しいし……」
「優しいって……」
雫は少し戸惑ったが、レイスと筋肉バカとは昔開催されたオフラインイベントで会った事あるし、希空は悪いような子じゃないのは分かっていた。少し考えた後、雫はどうにでもなれという気持ちでチャットを打った。
「……分かった。でも、私は至って普通だし、面白味ないよ」
「会ってくれるんですか! 嬉しいです! これ、僕のアカウントです」
希空は雫にメッセージアプリのアカウントを教えた。雫は返答の速さに驚き、最近の子は意外と大胆だなと思った。雫はアプリにアカウントを登録すると、メッセージを送った。これまた速攻で返事が来た。
「雫さん、よろしくお願いします! 僕は東條市に住んでいるんですけど、雫さんはどこに住んでいるんですか?」
(東條市って……住んでるとこ一緒じゃん。世の中狭いとは思っていたけど、こんなにもご近所さんとは)
「雫さん、どうかしましたか?」
「いや、ご近所さんだなって」
「本当ですか? 嬉しいです! 雫さんに早く会いたいです! いつなら会えますか!」
グイグイ来る希空に雫は困り果てた。これがジェネレーションギャップなのかと思いつつ、スマホのカレンダーを見た。上司との関係が終わってから、休みの日は予定が無い。予定と言っても、ゲーム内イベントを消化したり、そういう予定だけだ。
「希空の予定に合わせるよ」
「本当ですか! 平日は学校なので、土日が良いです!」
上司との一件もあり、雫は人肌が恋しかった。もし、リアルで会って、希空が可愛かったら、ワンチャンあるかもしれないと雫は良からぬ事を考えた。そんな下心を押し殺しながら、雫は希空とリアルで会う約束をした。
◆◇◆◇◆◇
久々に予定が入った土曜日。雫はジャケットを羽織り、会社に行く時とは違う香水をつけた。少し色気がある優しい甘さに、香りに深みがあって、落ち着きが感じられるこの香水は相手を誘う時につける、要するに如何わしい事がしたい時につける香水だ。姿鏡で全身をチェックした雫は希空と待ち合わせている駅前まで急いだ。
「まだ来てないかな? と言うより、希空は俺の事を男だって分かってんのかな? 俺は希空の事を年下の男だと勝手に思ってるけど……。あぁ、可愛いと良いなぁ」
雫がやらしい妄想をしていると、希空からメッセージが届いた。メッセージを見ると、首から下が写った全身写真が送られてきた。雫はその写真を見ながら、辺りを見渡した。待ち合わせの駅前はそれなりに人通りがあり、休日であったため、混んでいた。しかし、雫は容易にその服装をしている子を見つける事が出来た。その子はショーウィンドウを鏡代わりにして、髪の毛を直したり、服装をチェックしたりしていた。雫はその子の近くに行くと、声を掛けるのではなく、「近くにいるよ」とメッセージを打った。
(声かけてもいいけど、ちょっと可愛い反応見てみたい……。ごめんね、意地悪して)
「――えっ! 雫さん、どこだろう? あぁ、緊張するな。こんな僕に会って、幻滅しないかな……?」
(可愛い……。リアルでも子犬みたいで抱き締めたくなる!)
希空はきょろきょろしながら、雫を探していた。自分の恰好などは一切伝えていないのに、一生懸命探している希空を見て、雫は声を出して、笑った。希空は雫の笑い声にビクッとした。そして、雫にメッセージのやり取りの画面を見せられ、希空はボッと顔を赤くし、顔を両手で隠した。
「うわぁ! 隣にいるなら、声かけて下さいよ! なんか恥ずかしいじゃないですか!」
「あははっ……。ごめん、ごめん。あまりにも可愛くてさ。……で、希空さんで合ってるかな?」
「はい、高槻 希空って言います。雫さん……ですよね?」
「あっ、フルネーム言っちゃう感じ? ま、いいか。俺は富塚雫。よろしく」
「雫さんってカッコいいですね。……男の人で良かったぁ」
「じゃ、早速だけど、ご飯食べに行こうか。何が食べたい?」
「うーん。……じゃ、パスタが食べたいです!」
希空は嬉しそうに雫の隣に並んだ。雫の予想していた以上に、希空は小さくて可愛くて、ゲーム内での素直さなどを加味すると、ご飯よりも先に食べてしまいたいと思った。そんな下心をグッと抑え、希空のリクエスト通り、パスタが美味しいお店へ入った。
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