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第13章:崩壊都市・渋谷で待ち受けていたもの

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 健人は以前にも増して、遠征のために鍛錬を続けた。時には、蘇芳と意見の食い違いで衝突することがあったものの、『前よりも自分のことを思っている』のが伝わってきた。
 夏希たちにも以前よりバディらしくなったと褒められることもあり、周囲の人たちとも徐々に打ち解けられるようになった。これだけは蘇芳のコミュ力の高さに感謝している。
 あっという間に渋谷遠征の日がやってきた。統括指揮官に崩壊都市・渋谷のバリケード前まで送ってもらい、健人たちは静寂に包まれ、不気味な雰囲気を漂わせる渋谷へ潜入する。


 健人たちは潜入後、作戦会議を改めて行なった。夏希たちは感覚超越・視覚で渋谷を俯瞰出来るように高層ビル群のある西口へ、夏希の情報をもとにクリスタルの位置把握と破壊を遂行する健人たちの東口へと別行動することとなった。
 磁場を作り出し、ボードを宙に浮かせるホバーボードに乗り、健人たちは夏希たちと別れ、迂回しながら、西口から東口へ向かう。そして、手分けして、クリスタルの捜索を続ける。
 健人と蘇芳はホバーボードから降り、スクランブル交差点へ向かって歩き出す。あんなに人でごった返していた渋谷が今ではカラスの鳴き声さえもなく、街全体が深い眠りについているようだ。


「なぁ、渋谷ってのは昔からこんな感じなのか?」
「流石にこんなんじゃなかったよ。ほら、話していないで東口側に向かうよ。それにしても、ビルとかも倒壊しそうな感じだし、気を付けてね。――って、うわっ!」


 健人は呑気な蘇芳に気を付けるように釘を差したが、言った手前で瓦礫に足を取られ、派手に転びそうになる。ふらつく健人の体を蘇芳が掬うように支え、ゆっくりと立たせてくれた。


「お前が気を付けろよ」
「分かってるよ、もう。……助けてくれて、ありがと」
「ナビだともうすぐ東口か?」
「そうだね。東口かぁ、前の職場が近かったから、ちょっと懐かしいかも」


 しかし、健人の懐かしさはボロボロと崩れていくのであった。渋谷駅東口にある忠犬の石像は触れただけで壊れそうで、かつてのスクランブル交差点も荒波が干上がったように、アスファルトは凹凸が激しく、瓦礫が散乱し、ホバーボードで通るのは危険だ。
 健人たちは慎重に交差点の中心へ向かう。……それにしても、ビルも何もかもが完全に風化している。


「渋谷ってのは封鎖前までは賑わってたんだろ? なぁ、聞いてんのか?」
「ごめん。うん、人がごった返してて、賑やか――というか、色んな音に囲まれて、気疲れしちゃう感じかな?」
「あーっ、そんな感じか。だとしたら、感覚超越の奴には地獄だろうな」
「感覚超越者じゃなくても、地獄だよ」
「ふーん。ある意味、封鎖前も後も地獄には変わらないのか。って、俺様、今、上手いこと言ったよな?」
「はぁ、僕たちは観光しに来た訳じゃないんだから」


 健人は相変わらず呑気な蘇芳に呆れ、ため息が自然と出る。物珍しそうに辺りを見渡す蘇芳に、健人は一応、封鎖前の活気溢れる渋谷の光景を蘇芳に口頭で説明した。


 ――それにしても、クリスタルの反応もおろかシャドウの気配も感じない。


 健人はナビが壊れているのではないかと操作したが、問題はなさそうだ。別行動中の夏希たちに現状報告をしようとふと思った時、ナビから着信音が鳴り、画面を見ると夏希からの着信だった。なんてタイミングが良いんだ。


「もしもし? 健人さん、なんかおかしいよ」
「おかしい? 夏希君は今どこ?」
「僕は今、あの馬鹿デカいビルの展望デッキで渋谷全体を俯瞰してる。それでもあの巨大なクリスタルが見えない。おかしいとは思わない? 何度か調査済みなんだよね?」
「夏希君の感覚超越・視覚を使っても探し出せないってことは、誰かがもう処理しちゃったとか?」
「いえ、そんなはずは――ザーッ……ないと――ザザーッ……。健人さん、今聞こえ――ザーッ……」
「もしもし? 何? ごめん、ノイズが凄くて聴こえない」


『――通信障害発生、原因特定出来ず。周囲の安全に注意してください』


 プツッと切れた夏希との通信後にナビの警告音声が流れる。クリスタルやシャドウが近辺に存在する場合は稀に通信障害が起こると講義で習った。
 健人は蘇芳にその旨を伝え、通信障害が改善するまで離れ過ぎないように言った。
 その時、今まで無風だった街に激しい突風が吹きつける。砂埃が舞い上がり、健人は思わず顔を腕で覆い、飛ばされないように足を踏ん張った。
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