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第12章:ありふれた『当たり前の幸せ』
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「ん? なんだ?」
「いや、僕がただ勘違いしてただけなんだなって。なんか、酷いこと言ってごめん」
「お前からはそういう風に見えたんなら、俺様にも責任がある。まぁ、お前が俺様のことをそれだけ考えててくれてるって言うのが分かって安心したけど」
「なんか得意げに言うね、ふふっ」
「当たり前だろ。人間で言うなら、それは単なる嫉妬だけどな」
「えっ、嫉妬? んっ――!」
健人は自分がうちに秘めている感情が『嫉妬』であると認識した。今までそういう感情になった記憶がなく、なんだが恥ずかしくなり、顔がみるみる赤くなっていく。
蘇芳は片側の口角を上げ、鼻で笑うと、僕の少し乾いた唇に自分の唇を重ねてきた。蘇芳の唇が触れた瞬間、健人は体をビクッと震わせたが、心にあった嫌な感情なにもかもが昇華していくようで、純粋に心地良いと感じた。
健人は顔のこわばりが雪のように解け、涙として頬を伝い、零れ落ちる。蘇芳が穏やかな笑みを浮かべ、親指で流れる涙を優しく拭ってくれた。そして、蘇芳が甘い吐息をしたかと思えば、より強く抱き締めてきて、小鳥がエサをついばむように短く何度も唇を重ねてきた。
あぁ、僕は嫉妬してたんだ。蘇芳を独占したい、そんな強欲な自分が嫌いになってしまいそうだ。でも、そんなことはもう考えなくて良い――蘇芳との口づけでそう確信した。
「ったく、いつまで泣いてんだよ」
「グスッ。……も、もう泣いてない」
健人は少し強がって言い、赤く腫らした目を服の袖で擦るように涙を拭く。蘇芳は呆れたようなため息をつき、優しく微笑みかけ、泣き止むまで頭を撫でてくれた。
健人が泣き止むと、蘇芳はセラピールームの出口へ向かい、歩き始めた。
「ほら、行くぞ。腹減ってるだろ?」
「うん。なんかお腹空いたかも。……えへへっ」
健人は張り詰めたものが解け、蘇芳の大きな背中を見ていると、笑みが自然と溢れる。出会った頃の蘇芳は気性が荒く、自分に無関心というか、仕方なく付き合ってくれていたけど、今は違う気がする。勿論、自分も蘇芳に対する感情が変化していっている。『好き』とか、そういう簡単な言葉ではなく、『繋がっていたい』が適切かもしれない。
部屋へ帰れば、料理がすっかり趣味となった若干面倒くさい蘇芳の手料理がテーブルに並び、具体的な感想を言えば、子供のような無邪気な笑顔を見せる。
蘇芳がシャワーもしくは風呂をバレないようにスルーしようとしたものなら、健人は蘇芳の腕を掴み、容赦なく浴室へ放り込む。風呂から上がってきた蘇芳を褒めちぎり、椅子に座らせ、長い髪をヘアオイルでケアして、ブローする。初めの頃はぶつくさ文句を言い落ち着かなかったが、今は最後まで大人しくしている。
そして、「おやすみ」と言い交わし、各々の部屋へ入っていく。今まで気付かなかったが、こんなありふれた幸せを『当たり前』だと錯覚していた。
健人は考えた。もし、渋谷遠征が失敗に終わったら、僕たちはどうなってしまうんだろう? そんなもやもやっと心が曇っていく感覚と同時に、部屋へ入っていく蘇芳の服の裾を掴み、引っ張っていた。
「あ? なんだ? なんかあったか?」
「――あっ、ごめん! なんか反射的に掴んじゃった。ごめんごめん」
「ふーん、反射的にね。ははぁーん、もしかして寂しいんだろ?」
「べ、別に寂しくないし! いつも通りだし」
「そんなこと言ってさぁ。お前の顔に書いてあるぞ」
蘇芳がニヤつきながら、健人の顔を覗き込んだ。健人は顔を真っ赤にし、両手でペタペタと顔を触った。健人がそんなことをしていると、蘇芳に腕を掴まれ、蘇芳の部屋に連れ込まれた。
「ほら、一緒に寝るぞ」
「へっ? なんで?」
「なんで? じゃねぇよ。ほら、さっさと俺様の隣に入りやがれ」
蘇芳はベッドに入ると、健人が入れる程の空間を作り、ベッドをポンポンと軽く優しく叩いた。健人は戸惑いながらも、その空間に潜り込むと、蘇芳は健人の体を引き寄せ、甘い吐息を何度もした。
健人は何かされるんじゃないかと体を強張らせていると、蘇芳はクスリと笑った。
「ただ一緒に寝るだけだぜ? あっ、もしかして期待しちゃった?」
「き、き、期待しちゃってません! バ、バカじゃないの!」
「はいはい、分かりましたよっと。ほらさっさと寝ろ」
「寝てから何かしてくるとか、やめてよね!」
「はぁ? 俺様は寝込みを襲うような嗜好なんてねぇよ」
「なら、いいけど。で、でも! 何かしたら、ぶっ飛ばすからね!」
「はぁ、お前は早く黙ってねんねしろ」
健人は束の間の幸せを噛み締め、いつもより深い眠りについた。蘇芳の隣は今までで一番温かかった。
「いや、僕がただ勘違いしてただけなんだなって。なんか、酷いこと言ってごめん」
「お前からはそういう風に見えたんなら、俺様にも責任がある。まぁ、お前が俺様のことをそれだけ考えててくれてるって言うのが分かって安心したけど」
「なんか得意げに言うね、ふふっ」
「当たり前だろ。人間で言うなら、それは単なる嫉妬だけどな」
「えっ、嫉妬? んっ――!」
健人は自分がうちに秘めている感情が『嫉妬』であると認識した。今までそういう感情になった記憶がなく、なんだが恥ずかしくなり、顔がみるみる赤くなっていく。
蘇芳は片側の口角を上げ、鼻で笑うと、僕の少し乾いた唇に自分の唇を重ねてきた。蘇芳の唇が触れた瞬間、健人は体をビクッと震わせたが、心にあった嫌な感情なにもかもが昇華していくようで、純粋に心地良いと感じた。
健人は顔のこわばりが雪のように解け、涙として頬を伝い、零れ落ちる。蘇芳が穏やかな笑みを浮かべ、親指で流れる涙を優しく拭ってくれた。そして、蘇芳が甘い吐息をしたかと思えば、より強く抱き締めてきて、小鳥がエサをついばむように短く何度も唇を重ねてきた。
あぁ、僕は嫉妬してたんだ。蘇芳を独占したい、そんな強欲な自分が嫌いになってしまいそうだ。でも、そんなことはもう考えなくて良い――蘇芳との口づけでそう確信した。
「ったく、いつまで泣いてんだよ」
「グスッ。……も、もう泣いてない」
健人は少し強がって言い、赤く腫らした目を服の袖で擦るように涙を拭く。蘇芳は呆れたようなため息をつき、優しく微笑みかけ、泣き止むまで頭を撫でてくれた。
健人が泣き止むと、蘇芳はセラピールームの出口へ向かい、歩き始めた。
「ほら、行くぞ。腹減ってるだろ?」
「うん。なんかお腹空いたかも。……えへへっ」
健人は張り詰めたものが解け、蘇芳の大きな背中を見ていると、笑みが自然と溢れる。出会った頃の蘇芳は気性が荒く、自分に無関心というか、仕方なく付き合ってくれていたけど、今は違う気がする。勿論、自分も蘇芳に対する感情が変化していっている。『好き』とか、そういう簡単な言葉ではなく、『繋がっていたい』が適切かもしれない。
部屋へ帰れば、料理がすっかり趣味となった若干面倒くさい蘇芳の手料理がテーブルに並び、具体的な感想を言えば、子供のような無邪気な笑顔を見せる。
蘇芳がシャワーもしくは風呂をバレないようにスルーしようとしたものなら、健人は蘇芳の腕を掴み、容赦なく浴室へ放り込む。風呂から上がってきた蘇芳を褒めちぎり、椅子に座らせ、長い髪をヘアオイルでケアして、ブローする。初めの頃はぶつくさ文句を言い落ち着かなかったが、今は最後まで大人しくしている。
そして、「おやすみ」と言い交わし、各々の部屋へ入っていく。今まで気付かなかったが、こんなありふれた幸せを『当たり前』だと錯覚していた。
健人は考えた。もし、渋谷遠征が失敗に終わったら、僕たちはどうなってしまうんだろう? そんなもやもやっと心が曇っていく感覚と同時に、部屋へ入っていく蘇芳の服の裾を掴み、引っ張っていた。
「あ? なんだ? なんかあったか?」
「――あっ、ごめん! なんか反射的に掴んじゃった。ごめんごめん」
「ふーん、反射的にね。ははぁーん、もしかして寂しいんだろ?」
「べ、別に寂しくないし! いつも通りだし」
「そんなこと言ってさぁ。お前の顔に書いてあるぞ」
蘇芳がニヤつきながら、健人の顔を覗き込んだ。健人は顔を真っ赤にし、両手でペタペタと顔を触った。健人がそんなことをしていると、蘇芳に腕を掴まれ、蘇芳の部屋に連れ込まれた。
「ほら、一緒に寝るぞ」
「へっ? なんで?」
「なんで? じゃねぇよ。ほら、さっさと俺様の隣に入りやがれ」
蘇芳はベッドに入ると、健人が入れる程の空間を作り、ベッドをポンポンと軽く優しく叩いた。健人は戸惑いながらも、その空間に潜り込むと、蘇芳は健人の体を引き寄せ、甘い吐息を何度もした。
健人は何かされるんじゃないかと体を強張らせていると、蘇芳はクスリと笑った。
「ただ一緒に寝るだけだぜ? あっ、もしかして期待しちゃった?」
「き、き、期待しちゃってません! バ、バカじゃないの!」
「はいはい、分かりましたよっと。ほらさっさと寝ろ」
「寝てから何かしてくるとか、やめてよね!」
「はぁ? 俺様は寝込みを襲うような嗜好なんてねぇよ」
「なら、いいけど。で、でも! 何かしたら、ぶっ飛ばすからね!」
「はぁ、お前は早く黙ってねんねしろ」
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