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第12章:ありふれた『当たり前の幸せ』
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「……分かった。そんなに話したくねぇなら、俺様は先に部屋へ戻るぞ」
蘇芳は「どっこらしょ」と少し不愉快な言い方をして、立ち上がった。健人は気怠そうに歩く蘇芳の背中を見て、手をもじもじさせるのを止め、膝の上で拳をギュッと握った。そして、健人は勢いよく立ち上がると地団駄を踏むような荒んだ足の運び方で蘇芳へ歩み寄り、蘇芳の無防備な腕を掴んだ。蘇芳は少し驚いた表情で振り向いたが、すぐに怪訝そうな顔で自分を見てきた。
「なんだよ。さっきまではうじうじしていた癖に、今度は殺気立って。俺様が何かしたって言うのか? 大体、さっきも言ったが、言いたいこと言わねぇと分かんねぇよ。面倒くせぇな、お前は」
「あぁ、そうだよ! 僕はどうせ面倒くさい奴だよ!」
健人は蘇芳を睨みつけ、豪速球でオウム返しをし、蘇芳の体を力いっぱい押した。蘇芳はほんの少しだけよろけた。
「危ねぇだろ!」
「――うるさいな! まともに人の話を聞かない癖に。言わないと分かんない? そりゃそうだよ! 言えていたら、こんなに悩まないよ! 蘇芳ばっか評価されてさ、皆からチヤホヤされて、鼻の下を伸ばしてさ」
「は? 俺様は人間じゃねぇから、鼻の下は伸びないぞ」
「は? 馬鹿馬鹿しい! やっぱり、産廃だから、そういうのも分からないんだね。蘇芳とバディになるんじゃなかった。いや、蘇芳と出会わなければ、こんな下らないことで悩まなくて済んだのに。蘇芳が他の人からバディのお誘いを受けたり、僕のいないとこで楽しく訓練したりさ。僕は蘇芳にとって何なの? ただのパンドラ供給源? 僕は道具じゃない。そんなこと位、蘇芳だって分かるでしょ!」
健人はうちに秘めていた感情を早口でドバッと吐き捨てた。誰かに向かって自分の感情を吐露するのは初めてだ。こんなにも口の中が渇き、息絶え絶えになるとは思わなかった。
健人は胸に手を当て、高鳴る鼓動を感じながら、呼吸を整える。蘇芳の表情を見ていたが、無表情というか、冷めきったような……あの医療用アンドロイドを思い出すかのようだった。
「……それだけか? お前が言いたいのは」
「えっ?」
「だから、お前が俺様に言いたいことはそれだけかって聞いたんだよ」
「え? あ、うん……。た、たぶん。自分で言っておきながら、口に任せて喋ったから、声を荒げてごめん」
「はぁ……。ったく、人間は本当に面倒くせぇ生物だな」
「……面倒くさい生き物かもね」
健人は思わず苦笑いを浮かべると、ぶすっとした顔の蘇芳が頭を掻きながら、面倒くさそうに自分へ歩み寄ってきた。健人は殴られるかと身構えるが、蘇芳はそんなことをする訳でなく、自分の体を優しく包み込んでくれた。
「一人で抱え込むなよ。相談できる相手なら俺様以外にもいるだろ。というか、不満があるなら、まずは俺様に言え」
「そうだけど、言いにくいことだってあるじゃん」
「っーか、誰に誘われようが、俺様のバディはお前だけだし。――まぁ、他人に褒められて、嬉しくて舞い上がることなんて感情がある奴なら普通のことだろ? 勿論、話の流れでお前を見下す奴らにお前の凄さを伝えてやったら、顔を引き攣らせたけどな」
「それって、……僕を庇ってくれてたってこと」
得意げに笑う蘇芳を見て、健人の完全な思い込みだった。蘇芳と他の人たちが楽しそうに話していたから、てっきり……。健人はとんだ勘違いをしていたのだと安堵して、蘇芳を見上げて、顔色を窺った。
蘇芳は「どっこらしょ」と少し不愉快な言い方をして、立ち上がった。健人は気怠そうに歩く蘇芳の背中を見て、手をもじもじさせるのを止め、膝の上で拳をギュッと握った。そして、健人は勢いよく立ち上がると地団駄を踏むような荒んだ足の運び方で蘇芳へ歩み寄り、蘇芳の無防備な腕を掴んだ。蘇芳は少し驚いた表情で振り向いたが、すぐに怪訝そうな顔で自分を見てきた。
「なんだよ。さっきまではうじうじしていた癖に、今度は殺気立って。俺様が何かしたって言うのか? 大体、さっきも言ったが、言いたいこと言わねぇと分かんねぇよ。面倒くせぇな、お前は」
「あぁ、そうだよ! 僕はどうせ面倒くさい奴だよ!」
健人は蘇芳を睨みつけ、豪速球でオウム返しをし、蘇芳の体を力いっぱい押した。蘇芳はほんの少しだけよろけた。
「危ねぇだろ!」
「――うるさいな! まともに人の話を聞かない癖に。言わないと分かんない? そりゃそうだよ! 言えていたら、こんなに悩まないよ! 蘇芳ばっか評価されてさ、皆からチヤホヤされて、鼻の下を伸ばしてさ」
「は? 俺様は人間じゃねぇから、鼻の下は伸びないぞ」
「は? 馬鹿馬鹿しい! やっぱり、産廃だから、そういうのも分からないんだね。蘇芳とバディになるんじゃなかった。いや、蘇芳と出会わなければ、こんな下らないことで悩まなくて済んだのに。蘇芳が他の人からバディのお誘いを受けたり、僕のいないとこで楽しく訓練したりさ。僕は蘇芳にとって何なの? ただのパンドラ供給源? 僕は道具じゃない。そんなこと位、蘇芳だって分かるでしょ!」
健人はうちに秘めていた感情を早口でドバッと吐き捨てた。誰かに向かって自分の感情を吐露するのは初めてだ。こんなにも口の中が渇き、息絶え絶えになるとは思わなかった。
健人は胸に手を当て、高鳴る鼓動を感じながら、呼吸を整える。蘇芳の表情を見ていたが、無表情というか、冷めきったような……あの医療用アンドロイドを思い出すかのようだった。
「……それだけか? お前が言いたいのは」
「えっ?」
「だから、お前が俺様に言いたいことはそれだけかって聞いたんだよ」
「え? あ、うん……。た、たぶん。自分で言っておきながら、口に任せて喋ったから、声を荒げてごめん」
「はぁ……。ったく、人間は本当に面倒くせぇ生物だな」
「……面倒くさい生き物かもね」
健人は思わず苦笑いを浮かべると、ぶすっとした顔の蘇芳が頭を掻きながら、面倒くさそうに自分へ歩み寄ってきた。健人は殴られるかと身構えるが、蘇芳はそんなことをする訳でなく、自分の体を優しく包み込んでくれた。
「一人で抱え込むなよ。相談できる相手なら俺様以外にもいるだろ。というか、不満があるなら、まずは俺様に言え」
「そうだけど、言いにくいことだってあるじゃん」
「っーか、誰に誘われようが、俺様のバディはお前だけだし。――まぁ、他人に褒められて、嬉しくて舞い上がることなんて感情がある奴なら普通のことだろ? 勿論、話の流れでお前を見下す奴らにお前の凄さを伝えてやったら、顔を引き攣らせたけどな」
「それって、……僕を庇ってくれてたってこと」
得意げに笑う蘇芳を見て、健人の完全な思い込みだった。蘇芳と他の人たちが楽しそうに話していたから、てっきり……。健人はとんだ勘違いをしていたのだと安堵して、蘇芳を見上げて、顔色を窺った。
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