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第12章:ありふれた『当たり前の幸せ』
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「――よいしょ。夜だから、寝ているかと思った。おいで」
健人は重怠い体を起こし、座り直す。そして、健人は蝶に微笑みかけ、蝶が人差し指に止まれるように手を差し出した。蝶は体を休めるように健人の人差し指に止まった。綺麗な羽をゆっくりと開閉する姿はいつ見ても魅入ってしまう。健人は自然と頬が緩み、蝶の優雅さに心が洗われる気分になる。そして、健人はぽつりぽつりと愚痴をこぼす。
「――って、お前に言っても仕方ないか。でも、少しスッキリした。ありがとう」
健人が蝶にそう伝えると、蝶は健人の肩にひらひらと飛び移り、止まった。その様子は蝶がまるで自分を慰めているように思えて、健人はくすりと笑った。そして、健人がそんな優しい蝶を可愛がっていると、遠くから同じ種類の蝶がやってきた。健人がそれに気付くと、今まで肩に止まっていた蝶がその蝶のそばまで飛び、仲睦まじそうに絡み合って飛んでいた。
「ふふっ、求愛飛翔しちゃって。愛の巣に早く帰りな」
健人は自分に見せつけるようにじゃれ合う二頭の蝶を見て、思わず笑みが溢れる。そして、愛の巣に戻っていく蝶たちに手を振って、見送った。健人は一人残され、心の中に物寂しさがじんわりと広がり、ベンチに再び横たわる。
「いいな、ああいうの。僕もあんな風になれるかな? って、無理だろうな……」
健人は仰向けに体勢を変え、夜空を見上げる。月明かりがドームを照らし、その明かりが照明の明るさに溶け込んでいく。健人は星が肉眼で観察出来ないか、意識を夜空に同化させる。
「やっぱり、ここにいたのか、お前は」
「……別にいいでしょ。人間には一人になりたい時だってあるんだから」
健人はチラリと横目で見ると、地面を踏みしめるようにしてゆっくりと自分の方へ歩み寄ってくる蘇芳の姿があった。薄暗い照明のせいで蘇芳の表情はよく分からなかったが、僕の素っ気ない態度に無愛想な表情を浮かべているだろう。健人は蘇芳に声をかけられているのにも関わらず、黙って夜空を見上げ続けた。
しかし、自分と夜空の間に入ってくるように、蘇芳がぬっと顔を覗かせる。健人は鬱陶しくなり、起き上がると同時に蘇芳の顔を手で押し退けた。
「だから、一人になりたいって言ってるじゃん。ウザいな。早くどっか行って」
「なんだよ。そんな拒絶しなくてもいいじゃねぇか。俺様はお前のバディじゃねぇかよ」
「は? 都合の良い時だけ『バディ』とか言わないでよ」
健人は眉間に皺を寄せ、蘇芳に向かって手で追い払う仕草をし、そっぽを向く。これだけ冷たい態度を取れば、蘇芳は諦めて帰るだろうと思い、沈黙を貫いた。しかし、蘇芳の呆れたようなため息と自分の隣でベンチの少し軋む音がした。
「はぁ……。なんでそんなに怒ってんだよ。俺様が何したっていうんだよ」
「そんなの、自分で考えればいいじゃん。高性能な知能プログラムがある癖に」
「――ったく、遠征が決まってから、俺様にだけ当たりが強いぞ。そんなに俺様とバディを組むのが嫌なのか? お前のパンドラをやたらめったら使わないようにコントロール出来るようになったし。それはお前だって身を持って感じてるだろ? あれか? お前に対する敬意が足りないのか?」
「違う。敬意とかそういうのじゃなくて」
「じゃあ、何だよ? お前とフォージしたからと言って、お前の全てが分かる訳じゃないし、俺様は読心術なんて持ち合わせていないぞ。言ってくれないと分かんないぞ」
「なんて言うか、一種な衝動というか、自制心の欠如というか」
健人は目線がを下へ向け、手をもじもじと動かす。そして、言葉を発するが、しどろもどろで自信なさげに震える。健人自身、意味も分からず、遠回しに言っているのは自覚していた。
「――んだよ。はっきりしねぇな」
蘇芳の方をチラリと見ると、頭の後ろで手を組み、食傷気味に顔を歪ませていた。
そりゃそうだ。自分でもこんな不明瞭なことを言って、蘇芳はおろか自分自身ですらリアクションがとりにくいだろう。やはりストレートに言うべきか悩む。
健人は重怠い体を起こし、座り直す。そして、健人は蝶に微笑みかけ、蝶が人差し指に止まれるように手を差し出した。蝶は体を休めるように健人の人差し指に止まった。綺麗な羽をゆっくりと開閉する姿はいつ見ても魅入ってしまう。健人は自然と頬が緩み、蝶の優雅さに心が洗われる気分になる。そして、健人はぽつりぽつりと愚痴をこぼす。
「――って、お前に言っても仕方ないか。でも、少しスッキリした。ありがとう」
健人が蝶にそう伝えると、蝶は健人の肩にひらひらと飛び移り、止まった。その様子は蝶がまるで自分を慰めているように思えて、健人はくすりと笑った。そして、健人がそんな優しい蝶を可愛がっていると、遠くから同じ種類の蝶がやってきた。健人がそれに気付くと、今まで肩に止まっていた蝶がその蝶のそばまで飛び、仲睦まじそうに絡み合って飛んでいた。
「ふふっ、求愛飛翔しちゃって。愛の巣に早く帰りな」
健人は自分に見せつけるようにじゃれ合う二頭の蝶を見て、思わず笑みが溢れる。そして、愛の巣に戻っていく蝶たちに手を振って、見送った。健人は一人残され、心の中に物寂しさがじんわりと広がり、ベンチに再び横たわる。
「いいな、ああいうの。僕もあんな風になれるかな? って、無理だろうな……」
健人は仰向けに体勢を変え、夜空を見上げる。月明かりがドームを照らし、その明かりが照明の明るさに溶け込んでいく。健人は星が肉眼で観察出来ないか、意識を夜空に同化させる。
「やっぱり、ここにいたのか、お前は」
「……別にいいでしょ。人間には一人になりたい時だってあるんだから」
健人はチラリと横目で見ると、地面を踏みしめるようにしてゆっくりと自分の方へ歩み寄ってくる蘇芳の姿があった。薄暗い照明のせいで蘇芳の表情はよく分からなかったが、僕の素っ気ない態度に無愛想な表情を浮かべているだろう。健人は蘇芳に声をかけられているのにも関わらず、黙って夜空を見上げ続けた。
しかし、自分と夜空の間に入ってくるように、蘇芳がぬっと顔を覗かせる。健人は鬱陶しくなり、起き上がると同時に蘇芳の顔を手で押し退けた。
「だから、一人になりたいって言ってるじゃん。ウザいな。早くどっか行って」
「なんだよ。そんな拒絶しなくてもいいじゃねぇか。俺様はお前のバディじゃねぇかよ」
「は? 都合の良い時だけ『バディ』とか言わないでよ」
健人は眉間に皺を寄せ、蘇芳に向かって手で追い払う仕草をし、そっぽを向く。これだけ冷たい態度を取れば、蘇芳は諦めて帰るだろうと思い、沈黙を貫いた。しかし、蘇芳の呆れたようなため息と自分の隣でベンチの少し軋む音がした。
「はぁ……。なんでそんなに怒ってんだよ。俺様が何したっていうんだよ」
「そんなの、自分で考えればいいじゃん。高性能な知能プログラムがある癖に」
「――ったく、遠征が決まってから、俺様にだけ当たりが強いぞ。そんなに俺様とバディを組むのが嫌なのか? お前のパンドラをやたらめったら使わないようにコントロール出来るようになったし。それはお前だって身を持って感じてるだろ? あれか? お前に対する敬意が足りないのか?」
「違う。敬意とかそういうのじゃなくて」
「じゃあ、何だよ? お前とフォージしたからと言って、お前の全てが分かる訳じゃないし、俺様は読心術なんて持ち合わせていないぞ。言ってくれないと分かんないぞ」
「なんて言うか、一種な衝動というか、自制心の欠如というか」
健人は目線がを下へ向け、手をもじもじと動かす。そして、言葉を発するが、しどろもどろで自信なさげに震える。健人自身、意味も分からず、遠回しに言っているのは自覚していた。
「――んだよ。はっきりしねぇな」
蘇芳の方をチラリと見ると、頭の後ろで手を組み、食傷気味に顔を歪ませていた。
そりゃそうだ。自分でもこんな不明瞭なことを言って、蘇芳はおろか自分自身ですらリアクションがとりにくいだろう。やはりストレートに言うべきか悩む。
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