【センチネルバース】forge a bond ~ぼくらの共命パラダイムシフト~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
39 / 47
第12章:ありふれた『当たり前の幸せ』

39.

しおりを挟む
「――よいしょ。夜だから、寝ているかと思った。おいで」


 健人は重怠い体を起こし、座り直す。そして、健人は蝶に微笑みかけ、蝶が人差し指に止まれるように手を差し出した。蝶は体を休めるように健人の人差し指に止まった。綺麗な羽をゆっくりと開閉する姿はいつ見ても魅入ってしまう。健人は自然と頬が緩み、蝶の優雅さに心が洗われる気分になる。そして、健人はぽつりぽつりと愚痴をこぼす。


「――って、お前に言っても仕方ないか。でも、少しスッキリした。ありがとう」


 健人が蝶にそう伝えると、蝶は健人の肩にひらひらと飛び移り、止まった。その様子は蝶がまるで自分を慰めているように思えて、健人はくすりと笑った。そして、健人がそんな優しい蝶を可愛がっていると、遠くから同じ種類の蝶がやってきた。健人がそれに気付くと、今まで肩に止まっていた蝶がその蝶のそばまで飛び、仲睦まじそうに絡み合って飛んでいた。


「ふふっ、求愛飛翔しちゃって。愛の巣に早く帰りな」


 健人は自分に見せつけるようにじゃれ合う二頭の蝶を見て、思わず笑みが溢れる。そして、愛の巣に戻っていく蝶たちに手を振って、見送った。健人は一人残され、心の中に物寂しさがじんわりと広がり、ベンチに再び横たわる。


「いいな、ああいうの。僕もあんな風になれるかな? って、無理だろうな……」


 健人は仰向けに体勢を変え、夜空を見上げる。月明かりがドームを照らし、その明かりが照明の明るさに溶け込んでいく。健人は星が肉眼で観察出来ないか、意識を夜空に同化させる。


「やっぱり、ここにいたのか、お前は」
「……別にいいでしょ。人間には一人になりたい時だってあるんだから」


 健人はチラリと横目で見ると、地面を踏みしめるようにしてゆっくりと自分の方へ歩み寄ってくる蘇芳の姿があった。薄暗い照明のせいで蘇芳の表情はよく分からなかったが、僕の素っ気ない態度に無愛想な表情を浮かべているだろう。健人は蘇芳に声をかけられているのにも関わらず、黙って夜空を見上げ続けた。
 しかし、自分と夜空の間に入ってくるように、蘇芳がぬっと顔を覗かせる。健人は鬱陶しくなり、起き上がると同時に蘇芳の顔を手で押し退けた。


「だから、一人になりたいって言ってるじゃん。ウザいな。早くどっか行って」
「なんだよ。そんな拒絶しなくてもいいじゃねぇか。俺様はお前のバディじゃねぇかよ」
「は? 都合の良い時だけ『バディ』とか言わないでよ」


 健人は眉間に皺を寄せ、蘇芳に向かって手で追い払う仕草をし、そっぽを向く。これだけ冷たい態度を取れば、蘇芳は諦めて帰るだろうと思い、沈黙を貫いた。しかし、蘇芳の呆れたようなため息と自分の隣でベンチの少し軋む音がした。


「はぁ……。なんでそんなに怒ってんだよ。俺様が何したっていうんだよ」
「そんなの、自分で考えればいいじゃん。高性能な知能プログラムがある癖に」
「――ったく、遠征が決まってから、俺様にだけ当たりが強いぞ。そんなに俺様とバディを組むのが嫌なのか? お前のパンドラをやたらめったら使わないようにコントロール出来るようになったし。それはお前だって身を持って感じてるだろ? あれか? お前に対する敬意が足りないのか?」
「違う。敬意とかそういうのじゃなくて」
「じゃあ、何だよ? お前とフォージしたからと言って、お前の全てが分かる訳じゃないし、俺様は読心術なんて持ち合わせていないぞ。言ってくれないと分かんないぞ」
「なんて言うか、一種な衝動というか、自制心の欠如というか」


 健人は目線がを下へ向け、手をもじもじと動かす。そして、言葉を発するが、しどろもどろで自信なさげに震える。健人自身、意味も分からず、遠回しに言っているのは自覚していた。


「――んだよ。はっきりしねぇな」


 蘇芳の方をチラリと見ると、頭の後ろで手を組み、食傷気味に顔を歪ませていた。
 そりゃそうだ。自分でもこんな不明瞭なことを言って、蘇芳はおろか自分自身ですらリアクションがとりにくいだろう。やはりストレートに言うべきか悩む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

リナリアの夢

冴月希衣@商業BL販売中
BL
嶋村乃亜(しまむらのあ)。考古資料館勤務。三十二歳。 研究ひと筋の堅物が本気の恋に落ちた相手は、六歳年下の金髪灰眼のカメラマンでした。 ★花吐き病の設定をお借りして、独自の解釈を加えています。シリアス進行ですが、お気軽に読める短編です。 作中、軽くですが嘔吐表現がありますので、予め、お含みおきください。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちが初めての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。 「好きになれない」のスピンオフですが、話自体は繋がっていないので、この話単独でも問題なく読めると思います。 少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

続 深夜の常連客がまさかの推しだった

Atokobuta
BL
西遊記現代転生創作BL 無事に本当の恋人同士になった悟空と玄奘はいちゃいちゃな同棲生活を楽しんでいたが マネージャー磁路の発案でダンス特訓をすることに。 先生役として招かれた双子ダンサー金狩&銀狩のうち、金狩はどうやら悟空に気があるようで…⁉ 生まれた初めて嫉妬心を自覚する玄奘が、悟空との仲を深めるために提案してきたのはまさかのリバだった… 本編「深夜の常連客がまさかの推しだった」のCP成立後の話です。 シリーズとして続いてはいますが、前作を読んでいなくても大丈夫です。 表紙はいつもの通り大鷲さん@ows@misskey.design にお願いしています。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

ポケットのなかの空

三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】 大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。 取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。 十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。 目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……? 重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。 *-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-* ・性描写のある回には「※」マークが付きます。 ・水元視点の番外編もあり。 *-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-* ※番外編はこちら 『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...