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第12章:ありふれた『当たり前の幸せ』
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誰にも話していないのに、健人と夏希たちがタッグを組んで、渋谷遠征へ行くことが瞬く間に広まっていた。アイドル的存在である夏希は皆から応援されていたが、それとは対称的に健人は後ろ指を指された。調子に乗っているだの、最高司令官の息子というコネを使っただの、同行する夏希が可哀想だの、健人にあえて聞こえるように陰口を叩く。しかも、健人が一人でいる時などを見計らって。
健人は出来るだけ気にしないようにしていたが、そういう言葉たちは知らないうちに自分の心を錆びた鎖がギチギチと音を鳴らして、締めるように苦しめていた。そして、日に日にパフォーマンスの低下を招いていた。
「おい! 敵がそっちへ行ったぞ!」
「――えっ? うわっ!」
そんなことを無意識で考えていると、蘇芳の怒声のような声が突然聞こえた。健人が振り返ると敵が目の前に現れ、健人は咄嗟にハンドガンに手をかけたが時すでに遅し。鋭い爪をした敵の手が大きく振り下ろされ、健人の体を引き裂いた。痛みはないが、引き裂かれた反動で体を軽く飛ばされ、地面に倒れ込む。疑似血液が弧を描きながら、目の前を飛び散る。今日、何回目だろうか、ミスばかりしている。
視界が段々とぼやけ、意識が遠のくのを感じた次の瞬間、健人はコントロールルームの隣にあるリターンベッドの上で目覚めた。体のあちこちを触るが、傷はない。いつも通りの体だ。健人は仮想訓練中であることを思い出し、ホッと胸を撫で下ろし、力が抜けたように笑う。
健人はベッドから起き上がり、スマートウォッチで蘇芳に通信をしようとした時、ドアが大きな音を立て、勢いよく開く。そこには、眉を吊り上げ、不機嫌そうな蘇芳の姿があった。健人は蘇芳に平謝りするように、手を合わせるものの、蘇芳はそれを無視してドスドスと音を立てて、目の前にやってくると、隣にドカッと座ってきた。
「そんなに怒らないでよ。悪かったって」
「はぁ、……あのな、健人。最近、お前はボーッとし過ぎだぞ。訓練の時もそうだが、夏希との作戦会議の時も話を全然聞いていないだろ?」
「あははぁ、ごめん。ちょっと考えごとしてただけ。大丈夫、次はちゃんとするから! 気を取り直して、もう一回――」
「あぁ? 集中出てい来ない奴と練習するなら、俺様は一人で練習した方がマシだ。健人が何を考えてるか知らんが、共命率なんて不安定だし、論外だ。とにかく練習の邪魔になるから、今日はもう帰れ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
「はぁ? 反論するくらいなら、余計なことを考えずに訓練に集中しろ。さっ、帰った帰った」
健人は蘇芳に反論するが聞き入れてもらえなかった。それどころか、両脇に手を差し入れられ、僕の体を軽々と持ち上げ、コントロールルームから締め出したのだ。
「えっ、だから、大丈夫だって。蘇芳、聞いてる? こうなったら、意地でも部屋に入ってやる」
健人はスマートウォッチを非接触型リーダーにかざすと、エラー音と自動音声が流れる。
『セキュリティロック機能作動中のため、入室は出来ません』
「はぁ? 嘘でしょ? 本当に追い出すとかあり得ない」
しまいには、ロックもかけられ、中に入ることが出来ず、健人は肩を落とし、入室するのを諦めた。
「ねぇ、今の見た? シンクロイドに追い出されるとかウケるんだけど」
「見た見た。タイムアタックで一位になったからって調子乗り過ぎだよな」
「あんなんが遠征メンバーに選ばれるとか、上の人たちは何考えてるんだか。明らかな人選ミスでしょ。夏希さんが本当に可哀想。自分が出来損ないで周りに迷惑かけてることくらい自覚して欲しいよね」
健人たちのやり取りを見ていたのか、ラウンジで休憩しているアカデミー生が冷ややかな視線と意地の悪い微笑みを口元に浮かべていた。健人はアカデミー生から目を背け、足早にその場を立ち去った。
健人は悔しさで思わず涙が溢れそうになる。涙が零れないようにすればする程、廊下を蹴る音は大きくなり、顔が歪んでいく。そして、みっともない顔を隠すために前かがみな姿勢で突き進んだ。部屋へ戻ると、一目散に自室へ入り、ベッドに飛び込み、布団に顔を埋める。
「僕の何が気に食わないんだよ。僕はただ人の役に立ちたいだけなのに、なんであんなことを言うの? 父さんが最高司令官だから? 半ば無理矢理入学させられた僕の身にもなってみてよ! もう限界だよ。……もう辞めたい」
ダムが決壊したように、健人の目から涙が零れ落ちる。健人は力強く握った拳を何度も枕に打ちつけた。それでも辛い感情の波は引いてくれず、健人は枕を掴み、その辺に思いきり投げる。そして、健人はしばらく泣いた後、布団の中に潜り込み、体を丸く縮こませ、目を閉じた。
健人は出来るだけ気にしないようにしていたが、そういう言葉たちは知らないうちに自分の心を錆びた鎖がギチギチと音を鳴らして、締めるように苦しめていた。そして、日に日にパフォーマンスの低下を招いていた。
「おい! 敵がそっちへ行ったぞ!」
「――えっ? うわっ!」
そんなことを無意識で考えていると、蘇芳の怒声のような声が突然聞こえた。健人が振り返ると敵が目の前に現れ、健人は咄嗟にハンドガンに手をかけたが時すでに遅し。鋭い爪をした敵の手が大きく振り下ろされ、健人の体を引き裂いた。痛みはないが、引き裂かれた反動で体を軽く飛ばされ、地面に倒れ込む。疑似血液が弧を描きながら、目の前を飛び散る。今日、何回目だろうか、ミスばかりしている。
視界が段々とぼやけ、意識が遠のくのを感じた次の瞬間、健人はコントロールルームの隣にあるリターンベッドの上で目覚めた。体のあちこちを触るが、傷はない。いつも通りの体だ。健人は仮想訓練中であることを思い出し、ホッと胸を撫で下ろし、力が抜けたように笑う。
健人はベッドから起き上がり、スマートウォッチで蘇芳に通信をしようとした時、ドアが大きな音を立て、勢いよく開く。そこには、眉を吊り上げ、不機嫌そうな蘇芳の姿があった。健人は蘇芳に平謝りするように、手を合わせるものの、蘇芳はそれを無視してドスドスと音を立てて、目の前にやってくると、隣にドカッと座ってきた。
「そんなに怒らないでよ。悪かったって」
「はぁ、……あのな、健人。最近、お前はボーッとし過ぎだぞ。訓練の時もそうだが、夏希との作戦会議の時も話を全然聞いていないだろ?」
「あははぁ、ごめん。ちょっと考えごとしてただけ。大丈夫、次はちゃんとするから! 気を取り直して、もう一回――」
「あぁ? 集中出てい来ない奴と練習するなら、俺様は一人で練習した方がマシだ。健人が何を考えてるか知らんが、共命率なんて不安定だし、論外だ。とにかく練習の邪魔になるから、今日はもう帰れ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
「はぁ? 反論するくらいなら、余計なことを考えずに訓練に集中しろ。さっ、帰った帰った」
健人は蘇芳に反論するが聞き入れてもらえなかった。それどころか、両脇に手を差し入れられ、僕の体を軽々と持ち上げ、コントロールルームから締め出したのだ。
「えっ、だから、大丈夫だって。蘇芳、聞いてる? こうなったら、意地でも部屋に入ってやる」
健人はスマートウォッチを非接触型リーダーにかざすと、エラー音と自動音声が流れる。
『セキュリティロック機能作動中のため、入室は出来ません』
「はぁ? 嘘でしょ? 本当に追い出すとかあり得ない」
しまいには、ロックもかけられ、中に入ることが出来ず、健人は肩を落とし、入室するのを諦めた。
「ねぇ、今の見た? シンクロイドに追い出されるとかウケるんだけど」
「見た見た。タイムアタックで一位になったからって調子乗り過ぎだよな」
「あんなんが遠征メンバーに選ばれるとか、上の人たちは何考えてるんだか。明らかな人選ミスでしょ。夏希さんが本当に可哀想。自分が出来損ないで周りに迷惑かけてることくらい自覚して欲しいよね」
健人たちのやり取りを見ていたのか、ラウンジで休憩しているアカデミー生が冷ややかな視線と意地の悪い微笑みを口元に浮かべていた。健人はアカデミー生から目を背け、足早にその場を立ち去った。
健人は悔しさで思わず涙が溢れそうになる。涙が零れないようにすればする程、廊下を蹴る音は大きくなり、顔が歪んでいく。そして、みっともない顔を隠すために前かがみな姿勢で突き進んだ。部屋へ戻ると、一目散に自室へ入り、ベッドに飛び込み、布団に顔を埋める。
「僕の何が気に食わないんだよ。僕はただ人の役に立ちたいだけなのに、なんであんなことを言うの? 父さんが最高司令官だから? 半ば無理矢理入学させられた僕の身にもなってみてよ! もう限界だよ。……もう辞めたい」
ダムが決壊したように、健人の目から涙が零れ落ちる。健人は力強く握った拳を何度も枕に打ちつけた。それでも辛い感情の波は引いてくれず、健人は枕を掴み、その辺に思いきり投げる。そして、健人はしばらく泣いた後、布団の中に潜り込み、体を丸く縮こませ、目を閉じた。
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