35 / 47
第11章:厳しい指摘と決断
35.
しおりを挟む
健人は父がこの場からいなくなったのを認識すると、心の中にある緊張の糸がプツッと切れた感覚がした。それと同時に極度の疲労感に襲われ、力が抜けたようにストンと座る。冷や汗が全身から出ているようで口の中が渇き、唾を飲み込むのもやっとだ。
「お前、正気か? この任務を本当に受けるのか?」
「そうだよ! 健人さんらしくないよ。僕も話を聞いてて、確かに腹が立ったけど、もう少し冷静になってから判断しても良かったんじゃない?」
健人は一点を見つめ、呼吸を整えていると、慌てた様子の蘇芳と夏希が自分の肩に手を置き、顔を覗き込んで訴えてきた。
確かに勢いで任務を受けてしまったのは皆に申し訳ないと思っている。しかし、僕たちが任務を遂行しなければ、被害拡大のリスクがある。これ以上、路頭に迷う人たちを増やしたくない。不安や恐怖を感じているのは僕たちだけじゃないはず。
健人はスッと立ち上がり、三人に向かって深々と頭を下げる。
「皆、勝手なことを言ってごめん! あと、独断で任務を引き受けてごめん!」
「健人さん、頭を上げてよ。健人さんは何も悪くないから。健人さんがガツンと言ってくれて嬉しかったよ。僕も見返してやりたいって思っちゃった。だから、僕も任務を引き受けるよ」
「そうだ。健人が謝罪する必要はない。夏希も意気込んでいるんだ。俺も任務に参加する」
「俺様は健人がそう決めたのなら従うだけだ。なんてったって俺様と健人は最高のバディだからな」
「みんな、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
「じゃあ、任務受諾と言うことでいいのかな? 引き受けるのなら、これに受諾サインをして欲しい」
統括指揮官はそう言うと、ホログラムモニターを四人の手元に表示させた。健人はその任務受諾書を見て、異様な緊張と不安が体内に満ち溢れ、波のように渦巻いている感覚になる。タッチペンを持つ自分の手が異様に汗ばみ、小刻みに震え、健人はうっかり落としそうになる。自分からやると言ったのに、こんなところで動揺してどうする。健人は自分にそう言い聞かせ、心を奮い立たせた。そして、タッチペンを握り直し、受諾サインをした。
「これで正式に任務受諾したということで、立入許可証の発行と周辺マップなどの事前情報が君たちのスマートウォッチから閲覧可能になる。あとはこれを夏希と健人君に渡しておかないとね」
健人たちは統括指揮官からジュラルミンケースを受け取り、恐る恐る開ける。中にはハンドガンとレッグホルスターが入っていた。射撃訓練でハンドガンを握る機会もあったし、改めて驚きはしなかった。ぱっと見た限り、訓練用のものと同じだと思ったが、装弾するマガジンが無いことに気付く。健人はハンドガンを食い入るように見て、首を傾げた。そんな不思議そうに見る自分に気付いたのか、統括指揮官が口元に手を当て、フフッと笑う。
「健人君は何か気付いたかな?」
「あ、いや。マガジンがないなぁって。これだと装弾出来ないし、まさかフェイク……とかではないですよね?」
「ははっ、まさか。そのマシンガンは特殊なものだよ。二人ともグリップを握ってごらん」
健人たちはジュラルミンケースからハンドガンを慎重に取り出し、言われるがままにグリップを握るとスライドに青白い光線で英字が次々と刻まれていく。それと同時に、ハンドガンから自動音声が流れる。
『ユーザー登録中です。グリップから手を離さないでください。……アイリス所属、奥田健人。利用許諾あり、登録完了。ユーザーステータス確認のため、共命をしてください』
「――きょ、共命? い、今ここでですか?」
「健人君、大丈夫だよ。ハンドガンが君のパンドラ能力を分析して、最適化するだけだから。気分が悪くなったりとかはしないから」
健人は前のタイムアタックのように、パンドラを一気に吸い取られて、ぶっ倒れるんじゃないかと心配になり、自然と眉間に皺を寄せる。それを見た統括指揮官が優しく声を掛けてくれた。
「そうですか。だったら、……フォージ」
『フォージ確認、共命開始。分析中、最適化が完了するまでしばらくお待ちください』
健人はゴクリと喉を鳴らし、ハンドガンとの共命を試みた。自動音声が再び流れるだけで不快な感覚は無かった。
「お前、正気か? この任務を本当に受けるのか?」
「そうだよ! 健人さんらしくないよ。僕も話を聞いてて、確かに腹が立ったけど、もう少し冷静になってから判断しても良かったんじゃない?」
健人は一点を見つめ、呼吸を整えていると、慌てた様子の蘇芳と夏希が自分の肩に手を置き、顔を覗き込んで訴えてきた。
確かに勢いで任務を受けてしまったのは皆に申し訳ないと思っている。しかし、僕たちが任務を遂行しなければ、被害拡大のリスクがある。これ以上、路頭に迷う人たちを増やしたくない。不安や恐怖を感じているのは僕たちだけじゃないはず。
健人はスッと立ち上がり、三人に向かって深々と頭を下げる。
「皆、勝手なことを言ってごめん! あと、独断で任務を引き受けてごめん!」
「健人さん、頭を上げてよ。健人さんは何も悪くないから。健人さんがガツンと言ってくれて嬉しかったよ。僕も見返してやりたいって思っちゃった。だから、僕も任務を引き受けるよ」
「そうだ。健人が謝罪する必要はない。夏希も意気込んでいるんだ。俺も任務に参加する」
「俺様は健人がそう決めたのなら従うだけだ。なんてったって俺様と健人は最高のバディだからな」
「みんな、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
「じゃあ、任務受諾と言うことでいいのかな? 引き受けるのなら、これに受諾サインをして欲しい」
統括指揮官はそう言うと、ホログラムモニターを四人の手元に表示させた。健人はその任務受諾書を見て、異様な緊張と不安が体内に満ち溢れ、波のように渦巻いている感覚になる。タッチペンを持つ自分の手が異様に汗ばみ、小刻みに震え、健人はうっかり落としそうになる。自分からやると言ったのに、こんなところで動揺してどうする。健人は自分にそう言い聞かせ、心を奮い立たせた。そして、タッチペンを握り直し、受諾サインをした。
「これで正式に任務受諾したということで、立入許可証の発行と周辺マップなどの事前情報が君たちのスマートウォッチから閲覧可能になる。あとはこれを夏希と健人君に渡しておかないとね」
健人たちは統括指揮官からジュラルミンケースを受け取り、恐る恐る開ける。中にはハンドガンとレッグホルスターが入っていた。射撃訓練でハンドガンを握る機会もあったし、改めて驚きはしなかった。ぱっと見た限り、訓練用のものと同じだと思ったが、装弾するマガジンが無いことに気付く。健人はハンドガンを食い入るように見て、首を傾げた。そんな不思議そうに見る自分に気付いたのか、統括指揮官が口元に手を当て、フフッと笑う。
「健人君は何か気付いたかな?」
「あ、いや。マガジンがないなぁって。これだと装弾出来ないし、まさかフェイク……とかではないですよね?」
「ははっ、まさか。そのマシンガンは特殊なものだよ。二人ともグリップを握ってごらん」
健人たちはジュラルミンケースからハンドガンを慎重に取り出し、言われるがままにグリップを握るとスライドに青白い光線で英字が次々と刻まれていく。それと同時に、ハンドガンから自動音声が流れる。
『ユーザー登録中です。グリップから手を離さないでください。……アイリス所属、奥田健人。利用許諾あり、登録完了。ユーザーステータス確認のため、共命をしてください』
「――きょ、共命? い、今ここでですか?」
「健人君、大丈夫だよ。ハンドガンが君のパンドラ能力を分析して、最適化するだけだから。気分が悪くなったりとかはしないから」
健人は前のタイムアタックのように、パンドラを一気に吸い取られて、ぶっ倒れるんじゃないかと心配になり、自然と眉間に皺を寄せる。それを見た統括指揮官が優しく声を掛けてくれた。
「そうですか。だったら、……フォージ」
『フォージ確認、共命開始。分析中、最適化が完了するまでしばらくお待ちください』
健人はゴクリと喉を鳴らし、ハンドガンとの共命を試みた。自動音声が再び流れるだけで不快な感覚は無かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
Tea Time
chatetlune
BL
「月で逢おうよ」の後の幸也と勝浩のエピソードです。
再会してぐっと近づいた、はずの幸也と勝浩だったが、幸也には何となく未だに勝浩の自分への想いを信じ切られないところがあった。それは勝浩に対しての自分のこれまでの行状が故のことなのだが、検見崎が知っている勝浩のことが幸也にとっては初耳だったりして、幸也は何となく焦りを感じていた。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる