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第10章:寄り添うとは一体なんだろうか(シンクロイド視点)

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「ほら、部屋に着いたぞ。立てるか? とりあえずシャワーでも浴びてこい。一人で出来るか?」
「…………たぶん」


 蘇芳は健人に尋ねると一言ぼそっと言い、また黙り込む。蘇芳は呆れて、ため息をついた。


「そんなんじゃ一人で出来ないだろ。俺様が手伝ってやるから、文句言うなよ」
「分かった。……嫌だけど」
「はぁ、お前な。まともに動けねぇのに、嫌とか言ってる場合か」


 蘇芳は健人を浴室に連れて行くと、慎重かつ愛護的に服を脱がせ、体を綺麗に洗う。健人の手首などには縄が食い込んで出来た傷があり、口角も切れていた。眉間に皺を寄せ、我慢する健人に蘇芳は優しく声を掛けた。一通り終わり、蘇芳は健人の体をバスタオルで包む。そして、健人の部屋へ入り、健人をベッドに優しく下ろすと、クローゼットから適当に服を取り出し、健人に着させた。


「あと、傷口の手当てか。たしかリビングにメディカルキットがあったな」


 蘇芳は応急処置マニュアルを脳内にインストールしながら、リビングにあるメディカルキットを持って、健人のベッドサイドに跪く。そして、傷を一つひとつ観察しながら、必要な手当てをする。蘇芳は健人の体に重度な傷などが無いと改めて分かると、ホッと胸を撫で下ろした。


「俺様も汚れてるから、シャワー浴びてくる。制服はクリーニングに出しておくぞ」


 蘇芳は健人にそう告げると、健人に布団を掛ける。蘇芳はシャワーやクリーニングの手配を手早くやる。そして、健人がいつ起きてもいいように、野菜入りのコンソメスープを作り置きし、再び健人の部屋へ戻る。蘇芳は健人のベッドサイドにそっと近づき、寝てるかどうかをこっそり窺った。健人は穏やかな表情で目を閉じている。


「よし、眠ってるな」


 蘇芳は健人の髪を撫でると、その場から静かに立ち去ろうとしたが、腕をいきなり掴まれた。掴まれた腕を見ると、健人の手があった。上体を起こした健人は掴んだ手を離すと、ベッドサイドを何度か叩いた。座れということだろうか。蘇芳はベッドサイドに座った。座ったのは良いが、健人は俯き、黙ったままだった。


「どうした? 腹減ったのか?」


 健人は蘇芳の問いかけに首を横に振る。しばらくの沈黙が続き、蘇芳は若干気まずさを感じ、立ち上がろうとしたら、健人に腕を再び掴まれ、座り直す感じになってしまった。蘇芳はどうすればいいか分からず、言葉に詰まっていると、今まで沈黙を貫いていた健人がゆっくりと口を開いた。


「……今日はありがとう。夏希君たちにも迷惑かけちゃって」
「そんなこと、気にするな。健人が無事で良かった。それより、なんで俺様に相談しなかった? それとも、相談したくなかったか?」
「だって、相談したら、蘇芳に迷惑かけちゃうし。でも、まさかあんなことになるとは思ってなくて……ごめんなさい」
「謝んな。バディである俺様がもっと気にかけるべきだった。すまん。ほら、今はゆっくり休め。腹が減ったら、言えよ」
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