【センチネルバース】forge a bond ~ぼくらの共命パラダイムシフト~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
29 / 47
第10章:寄り添うとは一体なんだろうか(シンクロイド視点)

29.

しおりを挟む
「……それにしても、遅いな」


 蘇芳は十分、二十分くらいで健人が戻ってくると思っていたが、部屋のドアが開く気配はない。蘇芳は心配になって、スマートウォッチを操作し、健人の現在地を確認した。


「ここは、資材倉庫? 何故こんな場所にいるんだ? ……通話機能が確かあったよな。しかし、あの状況だと何か隠している可能性もあるな。健人には申し訳ないが、細工をさせてもらおう」


 蘇芳は健人のスマートウォッチにハッキングし、脳内で盗聴出来るようにする。そして、蘇芳は健人がいる資材倉庫へ早足で向かう。
 蘇芳が向かっている最中、籠もったような呻き声と何かが擦れるような、軋むような音が確認出来た。そうと思えば、バケツの水を引っくり返したような水しぶきの音がする。


『調子に乗りやがって。どうせ成績が良いのもお前のパパが作ったシンクロイドのお陰だろ。しかも、能無しで役立たずのお前が夏希さんと親しげにしちゃってさ。独占してるのを見せびらかせて、生意気なんだよ』


 突然、脳内に流れる聞き覚えのない男性の声。いや、女性のせせら笑う声も後ろの方で聞こえる。そして、会話の途中で聞こえる呻き声。蘇芳は犯人たちが言い逃れできないように、スマートウォッチに指示を出す。


「おい、盗聴開始部分から録音しろ」
『盗聴による録音は原則禁止となってお――』
「バディの生命に関わる緊急事態なんだ。そんなのも分からないのか、このポンコツ時計が!」
『内容から緊急を要すると判断。警備担当者へ通報。現在地のセキュリティシステムを強制的に解除。……共命反応あり。シンクロイドによるセキュリティロック開始及びシールド展開反応あり。ロック解除できません』
「は? むちゃくちゃだな」


 念のため、蘇芳は夏希たちにも連絡し、後で合流することになった。脳内で最短ルートを予測し、健人の無事を切に願って、ひたすら走った。


「はぁ……。ここが資材倉庫か。警備担当はまだ来ねぇのか。このドアは俺様でも蹴り飛ばせるか?」
『分析結果、不可能。シールド付与状態で従来より強固になっています』
「くそっ、どうしろってんだ。侵入経路も無いのか?」
『ありません。全てロックがかかっています』


 蘇芳は目の前というのに何も出来ないことに対して、自己嫌悪に陥る。このまま為す術はないのかと考えていると、夏希たちがやってきた。蘇芳は夏希たちに近づき、聞こえないようにひそひそと詳細を説明した。


「この中に健人さんがいるの?」
「あぁ。でも、ロックはかかってるし、シールド展開までされて、中に入れないんだ」
「はぁ、本当に困った人たちだなぁ。ここまで派手な嫌がらせをされちゃうと、僕の活動に影響が出るっていうのに。それはいいとして、健人さんの方が大事だから、ここは僕に任せて。琥太郎はあの人に連絡しておいて」
「夏希。いいのか、呼んでも?」
「もちろんだよ。そのための最重要人物なんだもん」


 琥太郎が連絡を取っている間に、夏希はホログラムモニターを広げ、何かのコードを手慣れた手つきで入力し始めた。そして、入力し終わると満足げな表情で、皆にドアから離れるように言った。蘇芳たちは夏希に言われるがまま、ドアの前から離れた。


「今から何をするんだ?」
「まぁ、見てからのお楽しみ。へへっ」


 ニンマリと笑う夏希は、入力したコードを疑似スマートカードへ転送し、そのカードをドアの非接触型リーダーに貼り付けた。そして、急いで戻ってくると、両耳を手で押さえ、しゃがんだ。蘇芳も反射的にしゃがんだ。
 電子音が目覚ましのようにけたたましく鳴ったと思えば、数秒後にはピーッという長音が鳴り、爆発音とともにドアが廊下側に向かって、勢い良く吹っ飛んだ。廊下には煙が充満し、火災報知器が鳴り響く。


「健人を探したいが、煙が――」
「健人さんなら、ここにいるよ」


 蘇芳は煙の充満で視界が悪く、救出しように出来ず、困り果てていると、健人がいつの間にか隣にいた。どうやら夏希が感覚超越・視覚を駆使して、健人を連れ出してくれたみたいだ。蘇芳はとりあえず健人の拘束を全て解き、外傷の有無を観察した。目立った外傷は無く、ひと安心した。蘇芳は念のため健人を医務室へ連れて行こうと健人を抱きかかえる。
 その時だ。コツコツと靴の音を規則正しく廊下に響かせる人間のシルエットが見えた。蘇芳たちの前にグレーのスーツを着た男性が呆れた表情をし、頭を掻いていた。


「ったく。直すのにいくらかかると思うんだ。はぁ……、最高司令官に怒られるのはお父さんなんだぞ。夏希、勘弁してくれ」
「絶妙なタイミングでのお出ましだね」
「本当に他人事だな。とりあえずそこの学生たちを連行すればいいのかな?」
「そうそう。健人さんに執拗な嫌がらせをしてた主犯格グループ」
「健人君は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ。手加減したし」
「この惨状で手加減とかよく言えるな。とりあえず警備ロボに連行してもらうよ。後のことはお父さんに任せなさい」


 夏希の父は警備ロボにあれこれ命令して、犯人たちと一緒にその場を後にした。そして、夏希たちも別の用事があるからと、その場からそそくさと去っていった。
 その場に残された蘇芳は憔悴した健人を横抱きし、自室へ戻る。蘇芳の質問に健人はコクリと小さく頷くのみで終始塞ぎ込んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちが初めての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。 「好きになれない」のスピンオフですが、話自体は繋がっていないので、この話単独でも問題なく読めると思います。 少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

ポケットのなかの空

三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】 大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。 取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。 十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。 目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……? 重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。 *-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-* ・性描写のある回には「※」マークが付きます。 ・水元視点の番外編もあり。 *-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-* ※番外編はこちら 『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...