【センチネルバース】forge a bond ～ぼくらの共命パラダイムシフト～

第１０章：寄り添うとは一体なんだろうか（シンクロイド視点）

２７．

　蘇芳は眩しさで目を開ける。レースカーテン越しに朝日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。蘇芳は気怠そうにベッドから起き上がり、辺りを見回す。


「そうか。もうあの部屋じゃないのか」


　蘇芳は部屋に何があるかを見終わるとクローゼットの前に立ち止まり、おもむろにクローゼットの引き戸を開ける。ハンガーパイプには健人がいつも着ている服と同じようなものが掛かっていた。ハンガーから服を取ると、自分の体に当ててみる。サイズ的に自分のものであろうと思った蘇芳はとりあえずその服に着替えることにした。


「健人は確かこんな感じで着ていた気がする。……なんだか胸回りが少し窮屈だな。あと、ネクタイとやらの締め方が分からん」


　蘇芳は健人の着こなしを思い返す。しかし、胸回りが思ったよりも窮屈でボタンがはち切れそうで第三ボタンまで開襟する。ネクタイは健人に後で教えてもらうにして、蘇芳はキッチンへ行き、シンクロイド専用のエネルギーチャージ飲料を冷蔵庫から取り出し、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだ。


「蘇芳、おはよう。あっ、制服着てくれたんだ。制服のサイズはどう？」
「いや、胸回りが窮屈なんだ。あと、ネクタイもしないと駄目か？」


　健人が大きなあくびをしながら、俺様に声を掛けてきた。健人の方を振り向くと、健人は少し驚き、目を見開いていた。


「えーっと、ちょっと開襟し過ぎかな？　たぶん怒られはしないと思うけど……。ネクタイは苦しくない程度に」


　健人は俺様の元へ来ると、持っていたネクタイを着けてくれた。そして、健人は蘇芳に苦しくないかを尋ねながら、少しずつ緩めていった。蘇芳が問題ないと伝えると、健人は数歩下がり、顎に手を当て、上から下までじっくりと見て、苦笑いしながら、呟く。


「……なんか不良みたいにしか見えない。柄悪そう。大丈夫かなぁ」
「仕方無いだろ。この服しか無ぇんだから。いつも着ていたジャンプスーツを着るか？」
「あれはまだ洗濯中だよ。何か言われたら、僕が説明するよ。さてと、僕も制服に着替えよっと」


　健人は制服に着替え、カウンターテーブルに置いてあったバターロールパンを頬張りながら、学生鞄にタブレットや筆記用具、ノートを入れる。健人曰く、今週は講義中心のタイムスケジュールらしい。シンクロイドは基本的に指定がない限り、講義には出席せず、実技のみ出席するのが普通らしい。シンクロイド同伴で毎回の講義を受けている生徒もいるらしく、健人はどうしたいか尋ねてきた。


「良い退屈しのぎになりそうな講義なら良いけどな。部屋でただぼぉーっとしてるのは苦痛だ」
「退屈しのぎって……。面白くなくて、途中で寝たりしないでよ。あと、暴れたりしないでよ」
「あのな、いくら血気盛んな俺様でも場を弁える。なんだと思ってるんだ」


　健人は冗談であると言いつつも、ヘラヘラと笑っていた。蘇芳は健人と他愛もない朝の会話をして、清々しく温かな気持ちが柔らかな風のように全身を流れる。
　登校時間となり、健人がアカデミー棟の講義室をついでに案内すると言ってくれ、蘇芳は健人の後ろについていった。
　講義棟へ向かう廊下には当然健人と同じ制服を着た人間が互いに挨拶をし、笑顔で話をしている。しかし、健人と俺様の存在に気付いた途端、怪訝そうな顔で見てくる奴もいれば、ヒソヒソと話し始める奴、明らかに避ける奴もいた。


「健人は皆から嫌われてるのか？」
「――えっ！　なんだか藪から棒だね。まぁ、うーん、どうなんだろう？　蘇芳が不良に見えて、警戒してるんじゃない？」
「俺様は至って普通だぞ」


　他の生徒が健人を避けているのは俺様が見ても一目瞭然だ。蘇芳がストレートに尋ねたら、健人は曖昧な返事でお茶を濁した。