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第9章:思いやりの心と相手を理解するということ(シンクロイド視点)
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「蘇芳、大丈夫? 逆上せたりしてない?」
「あぁ、大丈夫だ。健人から怒られないように、人間のセルフケアについて学習していた」
「あーっ、んー……。学習するのは大いに構わないけど、そういうのはなるべく部屋とかでやって欲しいかなぁ」
「そうか、すまない。今、風呂から出る」
脱衣室にはバスタオルと着替えが準備されていた。濡れた髪をあらかた拭き、体を拭き終える。健人が準備してくれた服に着替えるが、スウェットのズボンは七分丈、上着はパツパツで窮屈だ。
蘇芳は上着を脱ぎ、上半身を露わにし、リビングへ向かった。健人は俺様が風呂から出てきたのに気付いたのか、自室から出てきた。出てきたと思えば、健人は俺様を見るなり、声を裏返し、眼球が飛び出るくらいに目を大きく見開き、衝撃を受けていた。
「ふ、ふ、ふ、上の服は、どうしたの!」
「あぁ、俺様には窮屈過ぎて、特に胸や肩周りが。それで脱いだ。下は穿いたが、丈が短い。こんなものなのか?」
健人は頭を抱え、ため息をつく。そして、自室に来るように俺様に手招きした。蘇芳は健人の部屋に入ると、ドレッサーの前に座るように言われ、何も分からないまま、椅子に座った。
「う、上着は仕方無いとして……。今から髪を乾かすね。シンクロイドの髪は最先端再生医療の力で人毛に限りなく近いんだって。だから、きちんと手入れしないといけないんだってさ」
「そうなのか。どうやって手入れをするんだ?」
健人はドレッサーにヘアオイルやヘアブラシなどを並べ、ヘアオイルを手に取り出し、俺様の髪の毛に手櫛でつけ始めた。ハーバル調の心を穏やかにさせるような香りが香ってきた。たしかこの香りは健人からも漂っていたような……。なるほどマーキングという行為か。
それにしても、髪の毛の手入れなんて生まれてこの方やったことが無い。蘇芳は鏡越しに健人の様子を窺う。健人は真剣に髪の毛の絡まりを丁寧に解し、ブラシで丁寧にブラッシングし、最後にドライヤーで乾かしてくれた。健人から触ってみてと言われ、俺様は自分自身の髪を触ってみると驚くほど指通りが良く、見違えるほどだ。
「こんなに変わるんだな。感謝する」
「喜んでもらえて何より。会った時からずっと気になってたからさ。今日やっと出来た。えへへっ」
鏡越しの健人は無邪気な笑顔で眩しかった。でも、泣いたり、怒ったり、悔しかったり……そんな顔もしてきたのかと思うと、蘇芳は胸の辺りが少しズキズキした。そんなほんの少しの痛みを悟られないように、蘇芳はまだ慣れない笑顔を浮かべ、健人に礼を言った。
「何その顔。ふふっ、蘇芳は笑顔の練習もしないとね」
「そうかもな」
「明日からは一緒にアカデミーで勉強したり、実践訓練したりするからね。改めてよろしくね」
「あぁ、明日からよろしく頼む」
蘇芳は健人から差し出された手を握った。そして、初めての自分専用の部屋へ行き、ベッドに横たわる。ベッドにはワイヤレス充電機能が備わっており、充電が自動的に開始された。
「明日からか……。俺様にまさか『明日から』というフレーズが出るとはな。正直、笑えてくる」
蘇芳は鼻で笑うと、布団に包まり、目をそっと閉じた。
「あぁ、大丈夫だ。健人から怒られないように、人間のセルフケアについて学習していた」
「あーっ、んー……。学習するのは大いに構わないけど、そういうのはなるべく部屋とかでやって欲しいかなぁ」
「そうか、すまない。今、風呂から出る」
脱衣室にはバスタオルと着替えが準備されていた。濡れた髪をあらかた拭き、体を拭き終える。健人が準備してくれた服に着替えるが、スウェットのズボンは七分丈、上着はパツパツで窮屈だ。
蘇芳は上着を脱ぎ、上半身を露わにし、リビングへ向かった。健人は俺様が風呂から出てきたのに気付いたのか、自室から出てきた。出てきたと思えば、健人は俺様を見るなり、声を裏返し、眼球が飛び出るくらいに目を大きく見開き、衝撃を受けていた。
「ふ、ふ、ふ、上の服は、どうしたの!」
「あぁ、俺様には窮屈過ぎて、特に胸や肩周りが。それで脱いだ。下は穿いたが、丈が短い。こんなものなのか?」
健人は頭を抱え、ため息をつく。そして、自室に来るように俺様に手招きした。蘇芳は健人の部屋に入ると、ドレッサーの前に座るように言われ、何も分からないまま、椅子に座った。
「う、上着は仕方無いとして……。今から髪を乾かすね。シンクロイドの髪は最先端再生医療の力で人毛に限りなく近いんだって。だから、きちんと手入れしないといけないんだってさ」
「そうなのか。どうやって手入れをするんだ?」
健人はドレッサーにヘアオイルやヘアブラシなどを並べ、ヘアオイルを手に取り出し、俺様の髪の毛に手櫛でつけ始めた。ハーバル調の心を穏やかにさせるような香りが香ってきた。たしかこの香りは健人からも漂っていたような……。なるほどマーキングという行為か。
それにしても、髪の毛の手入れなんて生まれてこの方やったことが無い。蘇芳は鏡越しに健人の様子を窺う。健人は真剣に髪の毛の絡まりを丁寧に解し、ブラシで丁寧にブラッシングし、最後にドライヤーで乾かしてくれた。健人から触ってみてと言われ、俺様は自分自身の髪を触ってみると驚くほど指通りが良く、見違えるほどだ。
「こんなに変わるんだな。感謝する」
「喜んでもらえて何より。会った時からずっと気になってたからさ。今日やっと出来た。えへへっ」
鏡越しの健人は無邪気な笑顔で眩しかった。でも、泣いたり、怒ったり、悔しかったり……そんな顔もしてきたのかと思うと、蘇芳は胸の辺りが少しズキズキした。そんなほんの少しの痛みを悟られないように、蘇芳はまだ慣れない笑顔を浮かべ、健人に礼を言った。
「何その顔。ふふっ、蘇芳は笑顔の練習もしないとね」
「そうかもな」
「明日からは一緒にアカデミーで勉強したり、実践訓練したりするからね。改めてよろしくね」
「あぁ、明日からよろしく頼む」
蘇芳は健人から差し出された手を握った。そして、初めての自分専用の部屋へ行き、ベッドに横たわる。ベッドにはワイヤレス充電機能が備わっており、充電が自動的に開始された。
「明日からか……。俺様にまさか『明日から』というフレーズが出るとはな。正直、笑えてくる」
蘇芳は鼻で笑うと、布団に包まり、目をそっと閉じた。
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