【センチネルバース】forge a bond ～ぼくらの共命パラダイムシフト～

第９章：思いやりの心と相手を理解するということ（シンクロイド視点）

２５．

　健人について深く理解する上では、ほぼ裸である健人を上から下まで観察し、身体的特徴を把握するには今こそ絶好のチャンスだ。蘇芳はおもむろに健人の濡れた髪を優しく撫で、頬から顎下へ手を滑らせた。そして、健人の顎下に手を当て、顔を持ち上げた。俺様が健人の顔をずっと注視していると、健人は顔を紅潮させ、視線をあちらこちらへ逸らし、俺様に目を合わせようとしてくれない。
　蘇芳は健人の弾力のある濡れた唇を親指の腹でなぞり、空いた手で首筋に手を添わせ、胸腹部をゆっくりと手を滑らせる。俺様が体に触れる度、健人は唇を噛み、体をピクッと小さく震わせていた。


「ちょ、ちょ、ちょっとくすぐったいから」
「すまん。健人がどんな体をしているのか興味があって」
「ど、どんな体かって。べ、別に普通だよ！　――っ！　パ、パンツを脱がすのはやめて！」


　下着が邪魔だな。俺様が下着に手をかけると、健人は狼狽の色を隠せない声で止めるように言ってきた。そして、健人は俺様の体を力いっぱい押し退けた。蘇芳は後ろによろけそうになったが、バランスをとって、なんとか耐える。
　健人は自分の膝に手を当て、肩で呼吸し、潤んだ目で俺様を鋭く睨むと、首に掛けていたバスタオルを俺様の顔に目掛けて、投げつける。そして、足早に自室へ戻ったと思えば、スウェットを着て、蘇芳の元へ戻ってくる。


「何故、そんなに怒る？　俺様は健人のことを理解するために――」
「そりゃ怒るよ。何かと思えば、急に体をあちこち触ってきてさ。デリカシー無さ過ぎでしょ！　お互いを理解するために、触れ合うのは大事だけどさ。過程やら段階やらってもんがあるでしょ」
「そうか。俺様は健人の体があまりにも綺麗で、今のタイミングじゃないとじっくり観察や触れることが出来ないと判断した」
「蘇芳は人間との関わり合い方が極端過ぎだから、まずはそういうのを学習した方が良いと思う。それより、蘇芳もさっさとお風呂入って。正直言うけど、薄汚れてるよ。服だって」
「汚いか？　俺様は別にこのままでも構わないが」
「僕が嫌なの！　とにかく早く風呂に入る！　服は用意しておくから、早く入って！」


　蘇芳は健人に背中を押され、浴室へ連れて行かれた。俺様が一言言うものなら、健人はたたみ掛けてくるように言う。


「しかし、俺様は風呂とやらに入ったことないぞ。どうやって入るんだ？」


　健人はやや早口で入浴の仕方について説明してくれたが、かなり抽象的だった。蘇芳は恐らく今後も清潔保持を強いられると思い、清潔行為をしながら、アーカイブで『セルフケア』について調べ、人間の健康維持管理のための取り組みと具体例を学習した。蘇芳は今までこのような概念が皆無だったため、とても新鮮に感じた。


「人間は俺様が思っている以上に繊細で、ある意味面倒臭い生物なんだな」


　蘇芳は湯船に浸かりながら、ホログラムモニターをいくつも表示させ、様々な文献を閲覧した。そんなことをしていると、あっという間に一時間以上経過しており、脱衣室から健人の心配そうな声が聞こえた。