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第9章:思いやりの心と相手を理解するということ(シンクロイド視点)
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その沈黙を破るように、健人が俺様のことを優しく包み込むように抱きついてきた。
「大丈夫だよ、大丈夫。そんなに自分を責めないで。夏希君や琥太郎が何を言ったか知らないけど、お互いにバディ初心者同士なんだし、コントロールなんて完璧に出来る訳無いよ。ほら、失敗は成功のもとって言うでしょ? これから少しずつ鍛錬を積んで、最高のバディになろ? それじゃ駄目……なのかな?」
健人の優しく柔らかい声が耳元で心地良さを感じさせ、背中を優しく擦る手が温かく、じんわりと体に浸透していく。蘇芳は健人の慈悲深さに胸が熱くなり目から液体が溢れそうになった。
「落ち着くまでこうしてるから……」
俺様の肩が震えているのを察したのか、健人は俺様が顔を上げるまで黙って背中を擦ってくれた。
「……すまん、健人に慰めてもらうとはシンクロイド失格だな」
「大丈夫だよ。――って、僕の名前を呼んでくれるようになったんだ!」
「べ、別に貴様のままでもいいが、不都合な場面もあるだろ。健人が嫌なら貴様呼びに戻すが」
「えーっ、これからは名前で呼んでよ。嬉しいな、なんか一歩前進って感じで」
「なんだそれ」
蘇芳はパァッと明るくなった健人の顔を見て、思わず頬が緩みそうになった。健人は歩いても問題ないと言うと、宿舎棟の案内をすると言い出した。詳しいことは後日で構わないと伝え、二人は医務室を後にし、健人の案内で宿舎棟へ向かった。
「で、ここが僕たちの部屋」
ネームプレートに健人の名前と俺様の名前があった。スライドドアが開き、中へ入る。俺様がその場で立ち止まっていると、健人が部屋の紹介をしてくれた。ゆったりとした和モダンテイストの部屋だ。小上がりのある和室に、キッチンやダイニング、水回りも集約されている。そして、各々の部屋がきちんとあるのだ。俺様はてっきりそこらへんで寝るのかと思った。
「この内装は元々こうなのか?」
「ううん、僕の好み。内装は備え付けのコンソール画面から変更出来るよ。それにしても、お腹空いちゃったなぁ。今から作るって考えるだけで萎えそう」
「俺様が簡単なものを作ってやるから、出来るまで休んでいろ」
「えっ、それは申し訳ないよ。というか、蘇芳は料理できるの?」
「簡単な料理なら頭の中に情報が入っている。そんなのどうでもいいから、健人は黙って休んでろ」
蘇芳はキッチンへ入ってきた健人を追い出し、小上がりがある小さな和室に無理矢理寝かせた。そして、冷蔵庫のドアを開き、庫内にある食材を見て、頭を働かせた。アイツがいつもお菓子を持参していたこともあり、蘇芳は興味本位で研究員に命令して、お菓子や料理のレシピなどをインストールしていたのだ。退屈しのぎで行なっていたことが、こんなところで役に立つとは。
「おい、きさ――健人。好き嫌いはあるか?」
「無いよー。それよりどんな料理が出てくるか楽しみ。あっ、ちゃんと愛情込めてよー。お手伝いさんが『愛情を込めたものこそ料理』って言ってたから」
畳の上でゴロゴロしている健人が俺様にそんなことを言ってきた。俺様を冷やかしているのか?
少しイラついた蘇芳はキッチンから健人の様子を窺うと、こちらを見て、にんまりと笑っていた。蘇芳は呆れを通り越して、適当に返答し、調理を始めた。
「はいはい、お前は黙って寝てろ。休んでないとクソマズ料理を振る舞うぞ」
「えー、それは勘弁。美味しいのでお願いします」
この俺様が人間に食事を作るなんて、なんだか滑稽で笑えてくる。蘇芳は鼻で笑い、手際よくかつ効率的に料理を仕上げた。そして、ダイニングテーブルに食事を並べる。並べ終えると、健人に声をかけた。健人は並べられた食事を見て、目を輝かせ、小走りでダイニングテーブルへ向かい、椅子に座った。
「わぁ、カレーライスだ! サラダもある! ちょうど食べたいと思ってたんだよね。もしかして、透視とかしたんでしょ?」
「そんなことするか。冷蔵庫にあったものを適当に使っただけだ」
「でもさ、一人分しか無いけど、蘇芳は食べないの?」
「俺様は充電さえ出来ればいい。食べる必要性もないだろ?」
「駄目だよ。蘇芳も食べようよ。蘇芳が食べないなら、僕も食べない」
「はぁ……。あのな、子供じゃあるまいし、駄々をこねずにさっさと食え」
蘇芳は健人に食べるように何度か促したが、健人は頬を膨らませ、そっぽを向いた。蘇芳は頭を抱え、仕方なく自分の分を用意し、席に着いた。
「じゃ、食べるぞ。折角作ってやったのに、冷めちまうぞ」
「そうだね。じゃ、いただきまぁ――ストップ! ちょっと待って」
「次はなんだ? あれか? 福神漬けじゃなくて、らっきょうだったか?」
健人はぶんぶんと首を横に振り、席を立ち上がり、俺様の隣に来るなり、カレー皿を持たせてきた。そして、健人はスマートウォッチを操作し、目の前にホログラムモニターを表示させた。そこにはカレー皿を持った俺様と白い歯を見せる健人の姿。どうやらカメラモードにしたみたいだ。
「おい、食事が冷めると言っただろ?」
「いいから、蘇芳も笑って。じゃあ、撮るよ。はいチーズ!」
突然笑えと言われても困る。蘇芳は作り笑顔をしようとしたが、健人は蘇芳の笑顔を待つことなくシャッターを切った。画面には満面の笑みでピースサインをする健人と死んだ目で口角だけが上がった無様な俺様の姿が表示されていた。
「ぶっ、あはははっ! 蘇芳の顔がヤバい。本当にヤバい」
「無様で悪かったな。そんなに馬鹿にするなら、このカレーライスは没収だ」
「嫌だ! ごめんって。では、改めていただきます」
健人はそそくさと席に戻ると、手を合わせて食べ始めた。健人は「んーっ!」と悶えるように声を出し、カレーをパクパクと頬張り、うっとりとした表情をしていた。蘇芳は健人のことがちょっと可愛いかもと思った。
「大丈夫だよ、大丈夫。そんなに自分を責めないで。夏希君や琥太郎が何を言ったか知らないけど、お互いにバディ初心者同士なんだし、コントロールなんて完璧に出来る訳無いよ。ほら、失敗は成功のもとって言うでしょ? これから少しずつ鍛錬を積んで、最高のバディになろ? それじゃ駄目……なのかな?」
健人の優しく柔らかい声が耳元で心地良さを感じさせ、背中を優しく擦る手が温かく、じんわりと体に浸透していく。蘇芳は健人の慈悲深さに胸が熱くなり目から液体が溢れそうになった。
「落ち着くまでこうしてるから……」
俺様の肩が震えているのを察したのか、健人は俺様が顔を上げるまで黙って背中を擦ってくれた。
「……すまん、健人に慰めてもらうとはシンクロイド失格だな」
「大丈夫だよ。――って、僕の名前を呼んでくれるようになったんだ!」
「べ、別に貴様のままでもいいが、不都合な場面もあるだろ。健人が嫌なら貴様呼びに戻すが」
「えーっ、これからは名前で呼んでよ。嬉しいな、なんか一歩前進って感じで」
「なんだそれ」
蘇芳はパァッと明るくなった健人の顔を見て、思わず頬が緩みそうになった。健人は歩いても問題ないと言うと、宿舎棟の案内をすると言い出した。詳しいことは後日で構わないと伝え、二人は医務室を後にし、健人の案内で宿舎棟へ向かった。
「で、ここが僕たちの部屋」
ネームプレートに健人の名前と俺様の名前があった。スライドドアが開き、中へ入る。俺様がその場で立ち止まっていると、健人が部屋の紹介をしてくれた。ゆったりとした和モダンテイストの部屋だ。小上がりのある和室に、キッチンやダイニング、水回りも集約されている。そして、各々の部屋がきちんとあるのだ。俺様はてっきりそこらへんで寝るのかと思った。
「この内装は元々こうなのか?」
「ううん、僕の好み。内装は備え付けのコンソール画面から変更出来るよ。それにしても、お腹空いちゃったなぁ。今から作るって考えるだけで萎えそう」
「俺様が簡単なものを作ってやるから、出来るまで休んでいろ」
「えっ、それは申し訳ないよ。というか、蘇芳は料理できるの?」
「簡単な料理なら頭の中に情報が入っている。そんなのどうでもいいから、健人は黙って休んでろ」
蘇芳はキッチンへ入ってきた健人を追い出し、小上がりがある小さな和室に無理矢理寝かせた。そして、冷蔵庫のドアを開き、庫内にある食材を見て、頭を働かせた。アイツがいつもお菓子を持参していたこともあり、蘇芳は興味本位で研究員に命令して、お菓子や料理のレシピなどをインストールしていたのだ。退屈しのぎで行なっていたことが、こんなところで役に立つとは。
「おい、きさ――健人。好き嫌いはあるか?」
「無いよー。それよりどんな料理が出てくるか楽しみ。あっ、ちゃんと愛情込めてよー。お手伝いさんが『愛情を込めたものこそ料理』って言ってたから」
畳の上でゴロゴロしている健人が俺様にそんなことを言ってきた。俺様を冷やかしているのか?
少しイラついた蘇芳はキッチンから健人の様子を窺うと、こちらを見て、にんまりと笑っていた。蘇芳は呆れを通り越して、適当に返答し、調理を始めた。
「はいはい、お前は黙って寝てろ。休んでないとクソマズ料理を振る舞うぞ」
「えー、それは勘弁。美味しいのでお願いします」
この俺様が人間に食事を作るなんて、なんだか滑稽で笑えてくる。蘇芳は鼻で笑い、手際よくかつ効率的に料理を仕上げた。そして、ダイニングテーブルに食事を並べる。並べ終えると、健人に声をかけた。健人は並べられた食事を見て、目を輝かせ、小走りでダイニングテーブルへ向かい、椅子に座った。
「わぁ、カレーライスだ! サラダもある! ちょうど食べたいと思ってたんだよね。もしかして、透視とかしたんでしょ?」
「そんなことするか。冷蔵庫にあったものを適当に使っただけだ」
「でもさ、一人分しか無いけど、蘇芳は食べないの?」
「俺様は充電さえ出来ればいい。食べる必要性もないだろ?」
「駄目だよ。蘇芳も食べようよ。蘇芳が食べないなら、僕も食べない」
「はぁ……。あのな、子供じゃあるまいし、駄々をこねずにさっさと食え」
蘇芳は健人に食べるように何度か促したが、健人は頬を膨らませ、そっぽを向いた。蘇芳は頭を抱え、仕方なく自分の分を用意し、席に着いた。
「じゃ、食べるぞ。折角作ってやったのに、冷めちまうぞ」
「そうだね。じゃ、いただきまぁ――ストップ! ちょっと待って」
「次はなんだ? あれか? 福神漬けじゃなくて、らっきょうだったか?」
健人はぶんぶんと首を横に振り、席を立ち上がり、俺様の隣に来るなり、カレー皿を持たせてきた。そして、健人はスマートウォッチを操作し、目の前にホログラムモニターを表示させた。そこにはカレー皿を持った俺様と白い歯を見せる健人の姿。どうやらカメラモードにしたみたいだ。
「おい、食事が冷めると言っただろ?」
「いいから、蘇芳も笑って。じゃあ、撮るよ。はいチーズ!」
突然笑えと言われても困る。蘇芳は作り笑顔をしようとしたが、健人は蘇芳の笑顔を待つことなくシャッターを切った。画面には満面の笑みでピースサインをする健人と死んだ目で口角だけが上がった無様な俺様の姿が表示されていた。
「ぶっ、あはははっ! 蘇芳の顔がヤバい。本当にヤバい」
「無様で悪かったな。そんなに馬鹿にするなら、このカレーライスは没収だ」
「嫌だ! ごめんって。では、改めていただきます」
健人はそそくさと席に戻ると、手を合わせて食べ始めた。健人は「んーっ!」と悶えるように声を出し、カレーをパクパクと頬張り、うっとりとした表情をしていた。蘇芳は健人のことがちょっと可愛いかもと思った。
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