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第8章:人は見た目で判断してはいけない(シンクロイド視点)

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 蘇芳は勢いよく跳躍し、住宅の屋根へ屋根へと飛び移りながら、疑似シャドウを探した。疑似シャドウを一体発見すると、健人のパンドラの力でオートマチック型ハンドガンを生成し、狙いを定め、撃ち抜いた。


『残り九体』
「感覚超越! 疑似シャドウの座標確認。座標を蘇芳へ転送!」


 健人の声が共命によって脳内に響き渡る。そして、次々と疑似シャドウの座標が視覚的に表示された。蘇芳は身体強化を施し、疾風怒濤の如くかつ確実に疑似シャドウを次々と攻撃した。


『残り一体』


「くそ、ここからじゃ遠いな。おい、俺様を空高く飛ばせ」
「えっ、どうやって!」
「ガーディアンならシールドの一つや二つ作れるだろ。それを俺様の足元に展開して、上に思いきり吹っ飛ばすんだよ」


 俺様の無茶な要求に慌てふためく健人の声が聞こえた。


「貴様なら出来る! 俺様を信じろ!」
「うぅっ。――どうなっても知らないよ! あとで文句言わないでよ! バウンドシールドを蘇芳の足元に展開!」


 健人が大声を張り上げると、蘇芳の足元にバウンドシールドが生成された。蘇芳は思いきり踏みつけると、空高く跳躍した。そして、武器をスナイパーライフルへ変え、スコープを覗き込み、狙撃した。
 蘇芳は命中したのを見届け、弧を描きながら、地上に降り立った。


『終了。お疲れ様でした』


 終了のビープ音が鳴り、終了のアナウンスが流れた。それ以外のアナウンスが無いということは条件をクリアしたということだろう。蘇芳は武装解除して、健人の元へ戻る。健人のそばには夏希と琥太郎の姿が見えた。健人は地面に座り込み、肩で呼吸をしていた。


「おい、大丈夫か? 立てるか?」
「いや、はぁはぁ……。ちょっと……座ってていいかな?」
「ああ、構わないが。ところで、タイムはどうだった?」


 健人は琥太郎に支えられ、大きく深呼吸していた。顔色は蒼白で冷や汗をかいている。蘇芳は心配になり、健人に近づこうとしたら、夏希が頬を膨らまし、言い寄って来た。


「蘇芳! 途中から健人さんのバイタル見てなかったでしょ!」
「途中までは見ていたぞ。最後は狙いを定めていたし、見るタイミングが無かった」
「最後の最後で、スナイパーライフルに切り替えて、おまけにロックオン機能も無意識で使ってた。命中率を上げるのはいいことかもしれないけど、精度を上げれば上げる程、パンドラの力は想像以上に一気に消費するんだよ。今は意識あるから良いけど、最悪、意識吹き飛ばしちゃうよ」
「しかし、コイツのパンドラは使い切っていないし、下限値の警告も無かったぞ」
「だから、そういう意味じゃなくて!」


 夏希は顔を真っ赤にし、俺様を睨み付ける。俺様の話を遮るように、夏希は罵声を浴びせる。蘇芳は次第に苛立ち、舌打ちをし、夏希の胸ぐらを掴もうとした。しかし、弱々しく倒れ込んでくる健人に止められた。


「二人とも喧嘩しないでよ。はぁはぁ……、僕は大丈夫だから」
「健人さんがそういうなら、これ以上言わないけど。でも! バディなんだから、相手にも気遣いしてよね。健人さんがこれ以上辛い思いをしないためにも。本当に守れるのは一番近くにいるバディなんだから。ほら、健人さんはとりあえず医務室へ行こう。琥太郎は蘇芳に結果を渡して、退室手続きをしてもらってもいい?」
「あぁ、分かった」


 夏希は健人に肩を貸すと、医務室へ向かうため、先に姿を消した。蘇芳は琥太郎からさっさと仮想空間ルームから出るように言われ、コントロールルームへ移動した。琥太郎は無言でパネルを操作し、シャットダウンさせ、退室手続きをした。蘇芳はただ呆然と佇んでいることしか出来なかった。


『タイムアタックの結果が転送されました』


 蘇芳のスマートウォッチから自動音声が流れた。見てみると、先程のタイムアタックの結果だった。恐らく琥太郎が転送してくれたのだろう。結果はコンマ数秒差で一位だった。一位を獲得出来て嬉しいはずが素直に喜べない、この感情はなんだろうかと頭の中を駆け巡る。


「おい、突っ立ってないでさっさと行くぞ」


 蘇芳は琥太郎に声を掛けられ、トレーニングセンターを後にした。しかし、蘇芳はどこへ行けば分からず、無言で琥太郎の後を追った。
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