【センチネルバース】forge a bond ～ぼくらの共命パラダイムシフト～

第８章：人は見た目で判断してはいけない（シンクロイド視点）

１７．

　結局、健人は夏希の説得で渋々納得し、入室することとなった。二枚のドアが中央から左右にスライドして開く。トレーニングセンターは天井がアーチ状に高く設計されており、柱の無い大空間が広がっていた。コの字型に部屋がびっしりと並び、中央は吹き抜けで、そこには休憩スペースや壁掛けの大型モニターがいくつか設置され、アカデミー生たちが談笑していた。


「トレセンとやらは大きいんだな。あの部屋はなんだ？　まさかあそこの中で訓練をするのか？　それだと俺様がいた部屋となんら変わらないと思うが」
「まぁ、蘇芳もそう思うよね。琥太郎も初めて来た時に同じこと言ってた。空いてる部屋はありそうだし、そこで説明しようかな。練習風景がモニターに映らないように出来るし、健人さんもそれなら安心でしょ？」
「うん、そうしてもらえるとありがたいかな……」


　ニコニコと楽しそうな顔をする夏希と反対に、健人は体を縮こませて、俺様の背後に隠れるように不安そうな顔で歩いていた。夏希があの部屋にしようと指差して、提案した時、ぞろぞろと人が集まり、夏希を囲んだ。


「夏希さん！　今日も訓練ですか？　この前の高難易度訓練のアーカイブ観ました！　凛としたお姿に感動しました！」
「きゃー、夏希さんよ！　琥太郎君も可愛い！　文武両道で広報アイドルとかヤバ過ぎ。今度、私にも色々と教えてもらいたぁい」
「あははっ、皆ありがとう。今日は訓練というか、レクチャーかな？」
「えっ、誰にレクチャーするんですか！　羨ましい！」


　夏希は色んな人から称賛されたり、質問されたりしていた。そんな中でも夏希は笑顔を絶やさず、スマートな対応だ。俺様だったら、面倒くさ過ぎて、無言で睨みつけて、蹴散らすんだけどな。


「という訳で、また今度。お互いに頑張ろうね。ほら、健人さん行こう」


　夏希が皆に別れを告げ、健人の手を取った瞬間、先程まで和気藹々としていた雰囲気が一変し、冷たい視線が健人に向かって突き刺さった。


「えっ、なんで奥田がいる訳……」
「でもさ、隣にいるのってシンクロイドだよね？」
「どうせパパにお願いしたんじゃない？　最高司令官だしさ。いいよね、楽が出来て。ってか、普通ならあっちから先に挨拶するべきじゃね？　無視とかあり得ない」


　健人に向けられる声はどれも棘があるものだった。しかも、健人にあえて聞こえるように言っていて、蘇芳は憤りを感じた。夏希は一瞬顔を曇らせたが、明るく振る舞い、その場を後にした。四人で目的の部屋に到着し、部屋に入るなり、夏希は表情を一変させ、拳を強く握った。


「本当にあり得ない！　大して成績も良くない癖に偉そうぶってさ！　健人さんがどれだけ頑張っているか知らないのに！」
「夏希君、落ち着いて。皆が思っている事は一部だけど事実だし、今までパンドラもシンクロイドも無かったんだし、仕方ないよ」
「でもさ！　あんな風に言わなくても良くない？　普通なら歓迎して、一緒に頑張って、国を守っていく仲間って意識になると思うけど。あぁ、余計に腹が立つ」


　健人は苦笑いしながら、憤怒する夏希を宥めていた。俺様からしてみれば、夏希の意見には賛同する。やはり、あそこで一発殴っておけば良かったか？