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第7章:場違いな二人が加わるとより場違いに(シンクロイド視点)

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 蘇芳は上機嫌な健人の姿を見て、胸の辺りが温かくなった気がした。


「それより、どこへ連れて行くんだ?」
「へへっ、内緒。着いてからのお楽しみ」
「はぁ……」


 蘇芳は、健人は感情が高ぶると目の前のことしか見えない性格だと感じた。あとは、年甲斐もなく無邪気だと言うこと。
 蘇芳たちは研究棟からアカデミー棟へ移動し、更にその先にある第二研究棟へやってきた。健人が足を止めたのは『セラピールーム』と書かれた部屋の前だ。


「ここはね、一番初めに、蘇芳に見てもらいたい場所なんだ」
「ここは誰でも入れるのか?」
「うん。アカデミー生でも許可無しで入室可能なエリアだから。まぁ、荒らしたりしたら、怒られるけどね」
「あのな、貴様は俺様のことをなんだと思ってるんだ。荒くれ者だと言いたいのか」
「ふふっ。そうかもね」


 健人は冗談のつもりで言ったのだろう。俺様が呆れた表情をしていると、健人は口元を手で押さえ、くすくすと笑っていた。
 健人がスマートウォッチを非接触型リーダーにかざすと、二枚のすりガラスドアが中央から左右にスライドして開いた。中に入ると、全面透明なガラス張りで湿度と温度が厳重に管理されたドーム型温室と言ったところだろうか。今は日没後のため、人工太陽照明灯が辺りを照らす。日中は燦々と太陽の光が降り注ぎ、植栽されている草花がより生き生きとしていると、健人が嬉しそうに話す。


「こんな施設があったんだな。あそことは大違いだ」
「でしょ? だから、蘇芳には一番に見て欲しいなって。僕のお気に入りの場所なんだ。ここを訪れる人は少ないし、ほぼ貸し切り状態」


 健人がそう話しながら、腕を軽く上げて、人差し指を横にしたままでいると、遠くから一頭の蝶がヒラヒラとやってきて、健人の人差し指に止まった。そして、健人は満面の笑みを浮かべ、蝶へ優しく話しかけていた。
 蘇芳はその光景を見て、コイツはやはり頭がおかしいのではないかと思った。一頭の蝶がたまたま健人の差し出した指に偶然にも止まっただけ、どうせすぐに飛び去って行くと予想した。しかし、それは大きな誤算だった。蝶は羽を休めるようにゆったりとし、時折、健人の肩や頭に止まったりしていた。
 蝶と戯れる健人の笑顔はキラキラと輝き、艶のある黒髪に蝶が止まった瞬間は、まるで蝶の髪飾りを着けたみたいだった。健人が蝶にさえ丁寧に接している姿を見た蘇芳は体内のエネルギーが脈打って駆け巡っている感覚に陥った。蘇芳はそんな健人の姿にいつしか見惚れていた。


「じゃあね、バイバイ。――って、蘇芳どうしたの?」


 蝶が健人の元から飛び去り、健人はその蝶に手を振る。そして、黒髪を靡かせ、俺様に振り返る。その瞬間だけは時間がゆっくりと流れた。蘇芳が呆然としていると、健人は蘇芳の顔の前で手をひらひらと振った。蘇芳はハッと我に返り、頬を少し熱くし、咳払いをした。


「ゴホン。――いや、何でもない。貴様は生物の言葉が分かったり、感じたりするのか? 普通の人間が見たら、おかしな人と思われるぞ」
「あははっ、やっぱり、おかしいよね。それは自分でも分かってる。この前、『感覚超越』についての講義があって、『感覚超越』ってごく一部の限られたパンドラ保有者しか持たない能力なんだって。僕の場合は、触覚。触れた対象の意志・思想・感情とかを読み取ることが出来るんだ。触れられた対象からすれば、勝手に読み取られるから、あんまり気分が良いものじゃないけどね」
「やはり、あの時のは『感覚超越』だったのか。パンドラだけでも厄介なのに、普通の人間よりも苦労するんだな」
「まぁ、仕方ないよ。初めて気づいた時は戸惑ったし、相手を傷付けちゃうんじゃないかってずっと悩んでた。蘇芳の心に触れた時だってそう思った」
「あの時は仕方ない。『感覚超越』は感情が昂ったりすると、コントロールが効かなくなることもあるからな」
「そうだけど、される側の立場になると、気分は良くないじゃん?」


 健人は一瞬、しゅんとした顔を見せるが、またいつもの笑顔に戻り、斜め上の方角を指差した。
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