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第6章:希望と絶望が踊る時間(シンクロイド視点)
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健人の『治療』を見てから数日が経った。健人が俺様の部屋へやってくる事はなかった。蘇芳は断念したかと思い、いつものように玉座に寝そべり、天井をボーっとただ見つめた。俺様はこれでお役御免だなと思ったその時、部屋のドアが開いた。
そこには、申し訳なさそうな口調で挨拶をし、ぎこちない笑顔の健人の姿があった。蘇芳は少し取り乱しそうになったが、毅然とした態度を装い、上体を起こした。
いつものように他愛の無い話に、愚痴をこぼしながら、笑みを浮かべる健人の姿に、蘇芳は胸がズキズキして、思わず胸元をギュッと掴んだ。
「蘇芳、どうしたの? なんかいつもと様子がおかしいよ? 大丈夫?」
「……な、なんでもない。それより、数日来てなかったが、調子が悪かったのか?」
「あーっ、……ちょっと体調が良くなくて、アカデミーも休んじゃった。でも、今は元気だよ。あっ! 今日はね、マフィンを作ってきたんだ。蘇芳のお口に合えばいいんだけど」
健人が学生鞄からマフィンの入った袋を取り出し、笑顔で俺様に手渡してきた。蘇芳のズキズキは健人の無邪気な笑顔でより一層強くなった。
「――あんなこと、二度とすんな!」
「えっ?」
蘇芳の怒声が部屋中に響く。健人に目をやると、きょとんとしていた。
「あんな……ことって?」
「『治療』だよ! あんなのずっとやり続けたら、貴様は精神崩壊して、自我喪失(ロスト)するぞ! 貴様を俺様のせいでこれ以上傷付けたくない! 絶対にこれ以上するな。分かったな!」
蘇芳は勢い余って出た言葉に、思わず口を手で塞ぎ、黙り込んだ。健人は何かを察したのか、バツの悪い顔をし、頬をかき、苦笑いした。
「父さんから聞かされたけど、やっぱり、蘇芳に『治療』の様子を見せたんだね。あんな見苦しい姿を見せてごめんね。嫌だったよね」
「そんなことはない! 貴様が俺様のことを思っているのはよく分かった。でも、あんな危険なことはしないでくれ」
蘇芳は走馬灯のようにあの時の記憶が頭の中をグルグルと回り、思考回路がショート寸前で、無意識に健人を優しく抱き締めていた。蘇芳は自分でもなんでこんなことをしているのだと内心驚いたが、健人の方が一番驚いており、困惑していた。
「えっ、えっ? ど、どうしたの?」
「貴様を思う度に、胸が締め付けられるんだ。貴様は俺様のそばでずっと笑っていればいい。……健人は俺様が一生守る。だから、一人で抱え込むな。いいな?」
健人は鼻をすすりながら、小さく頷いた。蘇芳は体を離すと、健人の両肩に手を添えた。蘇芳は目を潤ませる健人を見て、胸の感情が脈打つように早くなった。そして、蘇芳は健人の唇に吸い込まれるように唇を重ねた。
健人の震える柔らかな唇に、優しく生温かい感触。これが人間の……いや、健人の唇。蘇芳は健人と唇を重ねると、胸にへばりついたぐちゃぐちゃな感情がじんわりと甘く溶けていく。
蘇芳がゆっくりと唇を離すと、健人は顔を真っ赤にし、涙を溢れさせ、ぽたぽたと涙を床に落としていた。蘇芳はまずいことをしたと思い、咄嗟に顔を背け、自分の口を手で押さえながら、謝った。
「……悪い。嫌だったよな。今のは……忘れてくれ」
「ううん、謝らないで。蘇芳にそこまで思ってもらってたなんて。すごく嬉しいよ」
お互いに照れくさそうにしていると、二人のスマートウォッチが突然作動し、健人のスマートウォッチから自動音声が流れる。
『奥田健人とシンクロイド・蘇芳との接触を感知。奥田健人のパンドラを再判定中。……パンドラタイプ・ガーディアンと判定。蘇芳のパンドラタイプ・バスター。シンクロ率解析、……解析完了。シンクロ率良好。データベース再構築、最高司令官・奥田真伍の承認あり。二人を正式にバディとして登録します。以上』
二人はきょとんとし、お互いに顔を見合わせた。暫くすると、クソジジイが部屋を訪れ、俺様たちに向けて気持ちのこもっていない、乾いた拍手をした。
「まぁ、せいぜい頑張ってくれ。後のことは健人に任せる」
「はい、分かりました。ありがとうございました。これでこの部屋からやっと出られるね、蘇芳!」
「あぁ、出られるが、その前にあのクソジジイを一発、いや二発殴ってもいいか? いつ見ても腹が立つ」
蘇芳はクソジジイに睨みを効かせ、肩を回しながら、クソジジイを殴る準備体操をした。
「――ちょっ! 止めなよ! 折角、出られるのに」
健人が鼻息を荒くする俺様を制止するために、慌てて背後から抱きついてきた。クソジジイはその姿を見て、鼻で笑うと、それ以上は何も言わずに部屋を後にした。蘇芳は健人からこっ酷く怒られ、舌打ちをした。
「そんなことより、ここから早く出よう」
「あぁ、そうだな」
俺様は健人に手を引かれ、地獄だったクソみてぇな部屋から出た。蘇芳は後ろを振り返らず、目の前にいる健人の優しい笑顔を見つめ、特殊研究室から新たな一歩を踏み出した。
そこには、申し訳なさそうな口調で挨拶をし、ぎこちない笑顔の健人の姿があった。蘇芳は少し取り乱しそうになったが、毅然とした態度を装い、上体を起こした。
いつものように他愛の無い話に、愚痴をこぼしながら、笑みを浮かべる健人の姿に、蘇芳は胸がズキズキして、思わず胸元をギュッと掴んだ。
「蘇芳、どうしたの? なんかいつもと様子がおかしいよ? 大丈夫?」
「……な、なんでもない。それより、数日来てなかったが、調子が悪かったのか?」
「あーっ、……ちょっと体調が良くなくて、アカデミーも休んじゃった。でも、今は元気だよ。あっ! 今日はね、マフィンを作ってきたんだ。蘇芳のお口に合えばいいんだけど」
健人が学生鞄からマフィンの入った袋を取り出し、笑顔で俺様に手渡してきた。蘇芳のズキズキは健人の無邪気な笑顔でより一層強くなった。
「――あんなこと、二度とすんな!」
「えっ?」
蘇芳の怒声が部屋中に響く。健人に目をやると、きょとんとしていた。
「あんな……ことって?」
「『治療』だよ! あんなのずっとやり続けたら、貴様は精神崩壊して、自我喪失(ロスト)するぞ! 貴様を俺様のせいでこれ以上傷付けたくない! 絶対にこれ以上するな。分かったな!」
蘇芳は勢い余って出た言葉に、思わず口を手で塞ぎ、黙り込んだ。健人は何かを察したのか、バツの悪い顔をし、頬をかき、苦笑いした。
「父さんから聞かされたけど、やっぱり、蘇芳に『治療』の様子を見せたんだね。あんな見苦しい姿を見せてごめんね。嫌だったよね」
「そんなことはない! 貴様が俺様のことを思っているのはよく分かった。でも、あんな危険なことはしないでくれ」
蘇芳は走馬灯のようにあの時の記憶が頭の中をグルグルと回り、思考回路がショート寸前で、無意識に健人を優しく抱き締めていた。蘇芳は自分でもなんでこんなことをしているのだと内心驚いたが、健人の方が一番驚いており、困惑していた。
「えっ、えっ? ど、どうしたの?」
「貴様を思う度に、胸が締め付けられるんだ。貴様は俺様のそばでずっと笑っていればいい。……健人は俺様が一生守る。だから、一人で抱え込むな。いいな?」
健人は鼻をすすりながら、小さく頷いた。蘇芳は体を離すと、健人の両肩に手を添えた。蘇芳は目を潤ませる健人を見て、胸の感情が脈打つように早くなった。そして、蘇芳は健人の唇に吸い込まれるように唇を重ねた。
健人の震える柔らかな唇に、優しく生温かい感触。これが人間の……いや、健人の唇。蘇芳は健人と唇を重ねると、胸にへばりついたぐちゃぐちゃな感情がじんわりと甘く溶けていく。
蘇芳がゆっくりと唇を離すと、健人は顔を真っ赤にし、涙を溢れさせ、ぽたぽたと涙を床に落としていた。蘇芳はまずいことをしたと思い、咄嗟に顔を背け、自分の口を手で押さえながら、謝った。
「……悪い。嫌だったよな。今のは……忘れてくれ」
「ううん、謝らないで。蘇芳にそこまで思ってもらってたなんて。すごく嬉しいよ」
お互いに照れくさそうにしていると、二人のスマートウォッチが突然作動し、健人のスマートウォッチから自動音声が流れる。
『奥田健人とシンクロイド・蘇芳との接触を感知。奥田健人のパンドラを再判定中。……パンドラタイプ・ガーディアンと判定。蘇芳のパンドラタイプ・バスター。シンクロ率解析、……解析完了。シンクロ率良好。データベース再構築、最高司令官・奥田真伍の承認あり。二人を正式にバディとして登録します。以上』
二人はきょとんとし、お互いに顔を見合わせた。暫くすると、クソジジイが部屋を訪れ、俺様たちに向けて気持ちのこもっていない、乾いた拍手をした。
「まぁ、せいぜい頑張ってくれ。後のことは健人に任せる」
「はい、分かりました。ありがとうございました。これでこの部屋からやっと出られるね、蘇芳!」
「あぁ、出られるが、その前にあのクソジジイを一発、いや二発殴ってもいいか? いつ見ても腹が立つ」
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「――ちょっ! 止めなよ! 折角、出られるのに」
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「そんなことより、ここから早く出よう」
「あぁ、そうだな」
俺様は健人に手を引かれ、地獄だったクソみてぇな部屋から出た。蘇芳は後ろを振り返らず、目の前にいる健人の優しい笑顔を見つめ、特殊研究室から新たな一歩を踏み出した。
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