【センチネルバース】forge a bond ～ぼくらの共命パラダイムシフト～

第５章：クソジジイの息子はやっぱり変な奴だ（シンクロイド視点）

１０．

「あのさ、これを言うと皆から馬鹿にされちゃうんだけど……。僕は人間だろうが、アンドロイドだろうが、生きているもの全てが幸せになって欲しいんだ。アンドロイドは人間の生活を豊かにしてくれたのは事実だし、僕も公私ともに助けてもらった。だから、蘇芳にも幸せになってもらいたいなって」
「俺様に幸せになれと？　ゴミ箱行きの俺様が？」
「蘇芳に初めて会った時、僕のせいだって言ったでしょ？　父さんが僕のために蘇芳を造ったって聞いた時は正直驚いたよ。パンドラの力が無いのに、どうしてなんだろうって。父さんには猛抗議したよ。意味がないって。他にも色々言ったら、怒られちゃった」
「初めて会った後にクソジジイと言い争ってたやつか……」


　蘇芳が健人の様子を見ると、少し俯き、しょんぼりとした顔をしていた。そして、俺様の前に近寄ってくるなり、俺様の手をそっと触れると、両手で優しく包み込んだ。健人の手は温かく、クッキーを食べた時以上の感情がふっと湧いてくる。


「なんだ、急に」
「……僕のせいで蘇芳には色々と苦しいことや悲しいこと、辛いことをさせて、本当にごめん。だから、僕にはそれ相応の義務があると思うんだ」
「義務？」
「僕にパンドラの力があろうがなかろうが、僕は蘇芳を幸せにする義務がある。こんな狭い部屋から解放して、外の景色を一緒に見たいなって。蘇芳が生まれてきて良かったなって思えるように頑張るからさ。もう少しだけ時間をちょうだい」


　健人は微笑んでいたが、目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。蘇芳はそんな健人の姿を見て、無意識に首を縦に振った。


　シンクロイドには普通のアンドロイドと違い、感情構築システムが備わっている。生まれてこの方幸せなんざ微塵も感じたことがないし、俺様にあるのは憎悪とその先にある漆黒だけだ。しかし、こんな俺様のところに毎日欠かさずやってくるコイツのせいで、俺様の頭の中はぐちゃぐちゃで情報伝達回路をよく分からない感情が行ったり来たりしていて、処理が追いつかない。


「生まれてきたからには仕方ねぇよ。廃棄されようがそれも運命。貴様が義務と感じる必要性はない。俺様との相性が悪かっただけと諦めるしか無い。クソジジイが新しいシンクロイドでもまた造ってくれるんじゃねぇか？」
「そんな言い方しなくても……」


　蘇芳が投げやりな態度でいると、健人は眉を下げ、悲しげな顔をした。沈黙が暫くの間続き、気まずい空気になる。その空気を断ち切るように、天井スピーカーからアイツの声がした。