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第4章:父との再会、そして、特殊研究室に棲む暴君
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健人が狼狽えていると、蘇芳は重い腰を上げ、つなぎのポケットに両手を突っ込み、のそのそと自分の方へと近づいてきた。蘇芳の目は小動物を狩る肉食動物のようだった。健人は真っ青な顔をして、後退りする。蘇芳はその姿を見て、思わず噴き出し、悪そうにケラケラと嘲笑う。
「あの、本当にごめんなさい。貴方を怒らせたい訳じゃなくて。その、あの……ごめんなさい。い、痛いことだけはしないでください」
「おい、貴様。名前は? あのクソジジイの差し金か?」
「え? 僕は奥田健人です。あ、あの、クソジジイ……とは?」
「あそこでずっと突っ立ってんだろ、白髪のクソジジイがよ。アイツのことだよ。最高司令官だっけか? まっ、そんなんどうでもいいが」
蘇芳が覗き窓の向こう側にいる無表情な父を指差した。健人は指差した方を見て、再び蘇芳の顔を恐る恐る見上げた。ここで「はい、そうです」と言ったら、何をされるか分からない。健人は慎重に言葉を選び、答えようとしたが、つい数秒前にフルネームを言ったから、バレバレだと思った。
しかし、蘇芳がそういう風な質問をしているということはあれが自分の父であることを分かっていないと思った。健人は目を泳がせながら、答えを渋っていると、蘇芳はふんと鼻を鳴らし、頭を掻きながら、玉座へ戻り、ドカッと座った。
「はっきりしねぇな。奥田ってことは、貴様はクソジジイの息子か」
「やっぱり、バレてたか」
「もしかして、俺様が聞いていないだと思ったか? 俺様は記憶力がいいんだよ。まっ、シンクロイドだからってのもあるが。その様子じゃまともな説明もなかったんだろ? あのクソジジイがまともに説明する奴には思えないけどな。親の言いなりか。――くくっ、哀れだな」
「そ、そんな言い方をしなくても良いじゃないですか! ぼ、僕が望んで、ここに来たんです。確かにまともな説明はなかったかもしれないけど」
「ほら、みろ。俺様も貴様もあのクソジジイの操り人形なんだよ」
「操り人形……。それより、貴方の名前は?」
「俺様か? 俺様は蘇芳。貴様のクソジジイが造ったシンクロイドだ。俺様は何度も体をいじくり回され、今じゃこのクソみてぇな部屋にいんだよ。貴様のせいでな!」
「ぼ、僕の……せい? 父が僕のために貴方を造ったから?」
「最初は生まれてきたからには仕方なく人間の指示に従ってたが、治療と言っては、頭の中をいじくり回され、クソいてぇのに、容赦なく頭の中にあるプログラムを破壊しては修復させられる無限ループだぜ?」
「聞いただけで狂いそう……。い、今は痛くないんですか?」
「今はどうってことない。それに対する逃避行動を学習したぜ。拒否は出来ねぇから、鎮静鎮痛剤を限界量まで投与してもらったりな」
「そんな……。それは正しい逃避行動なの?」
「あ? 声を荒げたり、抵抗したりすると、容赦なく電撃を浴びせられ、麻酔薬を投与され、泥のような世界に意識を飛ばされるんだぜ? 貴様も同じような考えに至るだろ」
「……確かにそうかもしれない」
「挙句の果てには、手に負えねぇってクソみてぇな理由で産業廃棄処理室行きの順番待ちって訳だ」
「それはあまりにも勝手過ぎる。シンクロイドはとても貴重な存在なのに、どうしてそんな……」
「んなこと知るか。貴様のクソジジイにでも聞いてみろ」
健人は蘇芳からの衝撃の事実に対して、言葉をうまく返すことが出来ず、困惑する。自分からも色々と質問をしてみたい気持ちがあるものの、蘇芳の癪に障るといけないと思い、言葉選びにより一層集中しなければならなかった。
「それでよ、俺様は良い方法を思いついたんだぜ。知りたいとは思わないか? 俺様にとっても貴様にとっても最善な方法」
健人が疑問に思っていると、蘇芳が再びのそのそと近寄ってきて、冷ややかな能面のような、ぞっとする冷笑的な薄笑いをし、自分の顔を覗き込んできた。
「くくっ、今ここで貴様を殺せばいいんだよ」
「あの、本当にごめんなさい。貴方を怒らせたい訳じゃなくて。その、あの……ごめんなさい。い、痛いことだけはしないでください」
「おい、貴様。名前は? あのクソジジイの差し金か?」
「え? 僕は奥田健人です。あ、あの、クソジジイ……とは?」
「あそこでずっと突っ立ってんだろ、白髪のクソジジイがよ。アイツのことだよ。最高司令官だっけか? まっ、そんなんどうでもいいが」
蘇芳が覗き窓の向こう側にいる無表情な父を指差した。健人は指差した方を見て、再び蘇芳の顔を恐る恐る見上げた。ここで「はい、そうです」と言ったら、何をされるか分からない。健人は慎重に言葉を選び、答えようとしたが、つい数秒前にフルネームを言ったから、バレバレだと思った。
しかし、蘇芳がそういう風な質問をしているということはあれが自分の父であることを分かっていないと思った。健人は目を泳がせながら、答えを渋っていると、蘇芳はふんと鼻を鳴らし、頭を掻きながら、玉座へ戻り、ドカッと座った。
「はっきりしねぇな。奥田ってことは、貴様はクソジジイの息子か」
「やっぱり、バレてたか」
「もしかして、俺様が聞いていないだと思ったか? 俺様は記憶力がいいんだよ。まっ、シンクロイドだからってのもあるが。その様子じゃまともな説明もなかったんだろ? あのクソジジイがまともに説明する奴には思えないけどな。親の言いなりか。――くくっ、哀れだな」
「そ、そんな言い方をしなくても良いじゃないですか! ぼ、僕が望んで、ここに来たんです。確かにまともな説明はなかったかもしれないけど」
「ほら、みろ。俺様も貴様もあのクソジジイの操り人形なんだよ」
「操り人形……。それより、貴方の名前は?」
「俺様か? 俺様は蘇芳。貴様のクソジジイが造ったシンクロイドだ。俺様は何度も体をいじくり回され、今じゃこのクソみてぇな部屋にいんだよ。貴様のせいでな!」
「ぼ、僕の……せい? 父が僕のために貴方を造ったから?」
「最初は生まれてきたからには仕方なく人間の指示に従ってたが、治療と言っては、頭の中をいじくり回され、クソいてぇのに、容赦なく頭の中にあるプログラムを破壊しては修復させられる無限ループだぜ?」
「聞いただけで狂いそう……。い、今は痛くないんですか?」
「今はどうってことない。それに対する逃避行動を学習したぜ。拒否は出来ねぇから、鎮静鎮痛剤を限界量まで投与してもらったりな」
「そんな……。それは正しい逃避行動なの?」
「あ? 声を荒げたり、抵抗したりすると、容赦なく電撃を浴びせられ、麻酔薬を投与され、泥のような世界に意識を飛ばされるんだぜ? 貴様も同じような考えに至るだろ」
「……確かにそうかもしれない」
「挙句の果てには、手に負えねぇってクソみてぇな理由で産業廃棄処理室行きの順番待ちって訳だ」
「それはあまりにも勝手過ぎる。シンクロイドはとても貴重な存在なのに、どうしてそんな……」
「んなこと知るか。貴様のクソジジイにでも聞いてみろ」
健人は蘇芳からの衝撃の事実に対して、言葉をうまく返すことが出来ず、困惑する。自分からも色々と質問をしてみたい気持ちがあるものの、蘇芳の癪に障るといけないと思い、言葉選びにより一層集中しなければならなかった。
「それでよ、俺様は良い方法を思いついたんだぜ。知りたいとは思わないか? 俺様にとっても貴様にとっても最善な方法」
健人が疑問に思っていると、蘇芳が再びのそのそと近寄ってきて、冷ややかな能面のような、ぞっとする冷笑的な薄笑いをし、自分の顔を覗き込んできた。
「くくっ、今ここで貴様を殺せばいいんだよ」
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