【センチネルバース】forge a bond ~ぼくらの共命パラダイムシフト~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
6 / 47
第4章:父との再会、そして、特殊研究室に棲む暴君

6.

しおりを挟む



「さて……どうしようか」

結局、琥珀色の小狼はエルピスの街に架かる橋まで着いて来てしまった。

「クゥン」

琥珀色の小狼は俺の足元に擦り寄る。

このままエルピスの街に入っては悪目立ちし過ぎる。

「なんだ、そうか」

変に考え過ぎることはなかった。
もし、このもふもふ小狼が魔物なら、魔防壁のあるエルピスの街に入ることは不可能。

「この辺だな」

橋を歩いて行き、ちょうど半分くらいの位置。エルピスの街の魔防壁は橋のちょうど半分の位置から長方形型の街をぐるりと囲んでいる。

「クウン?」

俺が足を進めないから気になったのか、首を傾げている。

「じゃあな」

俺は魔防壁がある範囲へと足を進めた。これでもう着いて来られないだろう。
魔物には珍しく可愛らしかったが、悪く思わないでくれよ。

……だが、魔防壁がある場所からは何も聞こえて来ない。魔防壁に魔物が接触すれば邪のエネルギーを感知し、たちまちその魔物は消滅してしまう。

まさか、と、俺の後ろから橋を歩いて来る音が聞こえるのは気のせい……

「クゥン」

じゃなかった。
そこには、何の傷痕もないもふもふの小狼がいた。

「……お前、魔物じゃないのか?」

屈んでもう一度、よおく見てみた。
狼……ではあるのだが、動物の方じゃない。そもそも、動物の狼が魔物だらけの草原で一匹だけで生き残れる方が奇跡に近い。
毛は琥珀色。こんな生物、聞いたことも見たこともない。
新種の何か、そう考えるのが妥当。

「俺は知らないからな」

着いて来るのだから、俺にはどうしようもない。
俺はお構いなしにエルピスの街の巨大門へ向かう。

「おい! あれ見ろ!」

そう言って騒ぎ始める男に気づき、周りにいた人々も何事かと視線を向ける。

ああ……もう、俺は何も知らないからな。

外見は魔物の様な奴が、いきなりエルピスの街に入って来たんだ。注目の的になること請け合いだ。

俺は速技を解放して即座にその場から離脱した。





「此処まで来れば……」

俺は今、民家の路地裏にいる。周りを見ても、もふもふ小狼の姿は見当たらない。

撒いた。
まったく、なんだったんだ? あのもふもふ小狼は。

「……」

何か、強烈に視線を感じる。

「お前……」

民家の屋根の上からひょっこりと顔を覗かせて俺を見るのは、琥珀色の巨大な狼。もふもふ感は収まっているが、それでも前の状態の面影が残っている。
跳んでスタッと地面に着地するなり、俺の前に座る。

「クゥン」

巨大になった影響からか、その鳴き声は少しばかり低くなったようだ。

「騒がしいな。……お前」

エルピスの街の騒ぎの原因は十中八九、今、俺の前に座るこいつだ。
俺がそう断定したのは、街の方から魔物が忍び込んだだとか、巨大化したなどと、もう分かりやすいほどの人々の声が聞こえてくるからだ。

「クウン?」

首を傾げる琥珀色の巨大狼。自分が原因だと分かっていないのだろう。

「……仕方ない」

俺は民家の壁にもたれ、騒ぎが収まるのを待つことにした。
目の前には俺に何をどうして欲しいのか、訴えかけるような瞳をした琥珀色の狼。

シュルルル、と可愛らしい方のもふもふ小狼に戻った。
そっちの方が巨大化前より目立ちにくいからまだいい。と言っても琥珀色なんていくら路地裏が暗いと言っても目立ってしまう。まだ午前中の明るい時間帯。

見つかるのも時間の問題だな。
それによくよく考えれば、この小狼をエルピスの街に入れたのは俺だった。

……ふぅ。

いや、もう入れてしまったのだ。そこは認めざるを得ない。
さて、どうこの場を切り抜けようか。
もう暫く、騒ぎの様子が収まるのを待つのもいいが……

「居たぞお!!」

「ちっ!」

見つかってしまった。

ぞろぞろと7人ばかりの街の者たちが走って来る。

「また巨大化を!? お前! その化け物の仲間か!?」

「違う! 俺はコイツとは何の関係も」

いつの間にか巨大化していた小狼は俺の股下に入って背中に乗せた。

「逃げる気か!? ーー消えた」

消えたーー男の言葉の意味が分からなかった。

現に民家も、街の者たちも見える。

俺はというと、巨大化した琥珀色の狼に跨らされている。

「クウン」

「……まさか、お前何かしたのか?」

よく分からない状況。それは街の者たちも同じようで、頭をかきながら何処かへ行ってしまった。

助かった、と、そう言いたいところだが、さっき来た街の者たちには俺の顔はもうばれているし、そもそも街に戻って来た時点で何人かにも俺の顔は見られてしまっている。
ひとまずメアたちがいる場所に戻りたいところだが……このまま、行っていいものか。

ばっと琥珀色の狼から地面に降りた。

「クゥン」

そう鳴き声は聞こえるのだがおかしい。琥珀色の狼の姿が見えなくなった。
俺の目がおかしくなったか?

「やっぱり、お前の力だったのか」

琥珀色の狼の姿が見えなくなる現象。琥珀色の狼の力と考えるのが妥当。

琥珀色の狼の姿が、何もなかったはずの場所にパッと現れた。
こんな能力があるのなら、無理してエルピスの街に入る必要もなかった。だがまあ、それはもう終わった話。

「……これは使えるな」

ならば、姿を消す力を使わない手はない。
問題は俺の言うことを聞いてくれるかどうか。

「なあ? また、姿を消せるか?」

俺も、魔物でもない謎の生物に何を話しかけているのか。俺の言葉を理解出来るなら、苦労はしない。

……消えた。

だが、俺の予想を上回り、琥珀色の狼の姿は俺の言葉を理解したのか、ものの見事にパッと消えた。

なるほど、街の者たちが驚いたのがよく分かる。
消えた、その表現がしっくり当てはまる。

俺は、琥珀色の狼がいるであろう場所に手をかざしてみる。が、触れることは出来ない。
これは、ますます凄い力だ。

「もういいぞ」

と俺が言うと、再びパッと姿を現した。
なんて便利な力だ。

となると疑問も湧いて来た。
街の者たちの反応からするに、俺の姿も見えなかったようだが。

柔らかい琥珀色の毛並み。

「……姿を消してくれ」

どうだろう。俺は俺自身の姿は見えるし、琥珀色の狼の姿も見える。

俺は琥珀色の狼に触れたまま、路地裏から出た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

きっと世界は美しい

木原あざみ
BL
人気者美形×根暗。自分に自信のないトラウマ持ちが初めての恋に四苦八苦する話です。 ** 本当に幼いころ、世界は優しく正しいのだと信じていた。けれど、それはただの幻想だ。世界は不平等で、こんなにも息苦しい。 それなのに、世界の中心で笑っているような男に恋をしてしまった……というような話です。 大学生同士。リア充美形と根暗くんがアパートのお隣さんになったことで始まる恋の話。 「好きになれない」のスピンオフですが、話自体は繋がっていないので、この話単独でも問題なく読めると思います。 少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

ポケットのなかの空

三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】 大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。 取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。 十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。 目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……? 重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。 *-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-* ・性描写のある回には「※」マークが付きます。 ・水元視点の番外編もあり。 *-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-* ※番外編はこちら 『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...