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第10話:エルフィンの覚醒

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 悠人達はヘレボルスの森の入り口に辿り着いた。周りは瘴気に満ちており、草木は枯れ、動物の声すら聞こえない位に静かであった。
 エルフィンは宮廷魔導師セレストと先陣交代し、セレストが光属性魔法で瘴気を浄化させながら、前へと進んでいった。シュライツが率いていた赤の騎士団の亡骸があるかを確かめながら進むが、エルフィンが見渡す限り、亡骸どころか、血の一滴も見当たらなかった。


 「……亡骸も血すらないとはだいぶ貪欲な魔物か、魔物の数が多いのか? 皆、気を付けろよ!」


 用心しながら、森の奥地にある湖に辿り着いた。湖は毒々しい紫色に染まっており、先程よりも瘴気がかなり強く濃くなっており、皆、腕で口を覆った。
 セレストはグラントと顔を見合わせ、意見が一致したのか頷き、後ろにいるエルフィンに声をかけた。


 「皆さん、止まってください! これ以上進むのは危険です」
 「……そうだね。これは結構酷いかも。でも、大丈夫。セレスト様は小結界を張って、兵士達を守って。グラントは火以外のものを召喚して、敵が襲ってきたら、対応して。そして、そこから決して前に出ないでね」
 「お二人で行くおつもりですか! 無茶ですよ!」
 「セレスト、悠人の言葉を信じてやってくれ。悠人、馬から降りるぞ」


 エルフィンと悠人は馬から降りて、湖の畔近くまで進んだ。そして、悠人は咳払いをし、皆に聞こえる様に話した。


 「今から起こる事はとても悍ましいと感じる者もいるかもしれない。でも、僕もエルも自分の国のため、民のために闘う。皆に危害を加えるつもりは一切ない。だから、今から行なう儀式を見ても怖がらないで下さい。……さ、エル、こっちに来て」


 悠人はエルフィンの手を取り、湖畔の前で向かい合わせになった。


 「今、エルに眠っている悪魔の力が必要なの。悍ましいかもしれないけど、エルならきっと優しい悪魔になれると信じている。もう一度聞くよ、皆のために悪魔になってくれる?」
 「……少し不安だが、皆のため、未来のためになるのなら」


 悠人はエルフィンの両手を強く握り、微笑みかけた。そして、悠人は取り出したナイフで自身の人差し指を傷付け、血を流した。


 「悪魔になるなら、僕の血を飲み込んで。ちょっと辛いかもしれないけど、エルならきっと大丈夫。僕を信じて」
 「……っ! 悠人様、その儀式はいけません!」


 グラントが大声を出して、駆け寄ろうとするが、悠人も小結界を皆にばれない様に張っており、グラントは体ごと弾かれ、入る事が出来なかった。


 「グラント、大丈夫。エルを信じてあげて」


 悠人はニッコリと微笑み、エルフィンに血が流れている人差し指を差し出す。エルフィンは少し戸惑うが、悠人が言った通りに指を舐め、悠人の血を飲み込んだ。それを見た悠人は地面に紫色の魔法陣が出現させ、詠唱を始めた。


 「我が名は悠人。汝、ネメシスに命ず。この者エルフィンに漆黒の地への許しを請う。インディグネーション!」


 紫色の魔法陣は一層に光り輝き、天から禍々しく赤黒いオーラを放つ剣が轟音を立てて、落ちてきて、地面に突き刺さった。悠人はその剣を持ち、躊躇なくエルフィンの心臓を貫いた。


 「――っ! うがぁーーーーーーーっ! うぐぐぐっ、あぁーーっ!」


 エルフィンは叫び、自身の血で濡れた地面をのたうち回る。そして、悠人はエルフィンから剣を抜き去る。悠人がエルフィンを刺した事や今まで聞いた事がないエルフィンの雄叫びに皆が驚き、少し後ずさりした。セレストとグラントは絶望的な顔をして、膝から崩れ落ちた。
 やがて、のたうち回っていたエルフィンの動きがピタリと止まり、肩で息をするように、ゆっくりと立ち上がり、自身の体をあちこち見ていた。そして、漆黒の翼を大きく広げ、高笑いをした。


 「はぁはぁ…… これが本当の俺か! はははははっ!」
 「……この剣は憤怒の悪魔サタンの剣。これはエルの剣だよ」


 悠人はサタンの剣を鞘に納め、エルフィンに手渡した。


 「じゃ、準備が出来た事だし、僕も剣を取り出そうかな。――うぐっ!」


 悠人は胸元に手を突っ込み、体内から白銀と漆黒が纏った剣を体から抜き出した。


 「っ! エルフィン様がお持ちなのはサタンの剣、そして、あれは審判の剣……存在するとは!」


 セレストとグラントは驚き、開いた口が塞がらず、手で口を覆っていた。
 悠人は純白の翼と漆黒の翼を広げ、エルフィンと手を繋いで、皆が待機している場所へ近付いた。


 「ひぃぃぃ……」


 兵士達は瞳孔が血の色で漆黒の瞳となったエルフィンの何とも言えない威圧的な風貌に腰を抜かし、血の気が引いた表情をして、足に力が入らず、その場に留まる事しか出来なかった。一方、セレストとグラントは動揺しながらも、地面に膝をつけ、礼をした。


 「……皆、驚かせてごめんなさい。僕もエルフィンも悪魔だけど、皆を守りたい気は誰よりもある。皆が笑顔で楽しく暮らせるような土地にしたい。今度は一緒にお酒を呑んだり、美味しい料理を食べたりしたい。そんな明るい国にしたい」
 「悠人が言った通り、お前達は私達を悍ましいと思うかもしれない。私自身も最初そう思った。しかし、本当の自分に向き合って生きたいと……悠人が教えてくれた。私は皆が安息出来る国を作りたい。お前達が私の騎士団に入ってくれた事は本当に感謝の言葉しかない。こんな姿になっても、私に着いてきてくれるか?」


 兵士達は顔を見合わせたが、立ち上がり、一斉に敬礼した。


 「この命尽きる限り、エルフィン様にお仕えいたします!」
 「私達もお仕えいたしますよ」


 セレストとグラントは立ち上がり、悠人達に微笑みかけた。


 「って、悠長に話している場合じゃないね。エル、来るよ!」
 「……では、このサタンの力を試させていただこうかな」


 森の奥から息を潜めていた魔物が茂みから現れ、一斉に攻め込んできた。魔物達を見て、エルフィンは剣を構え、漆黒の瞳をカッと見開た。


 「我が名はエルフィン、悪魔の血を引く者。汝、サタンに告ぐ。我に今、怒りの鉄鎚を下す力を与えよ! インディグノル!」


 エルフィンは唱えると、剣を横に大きくひと振りした。ブォンと鈍い音がしたかと思えば、時が止まったように静寂となり、次の瞬間、疾風のごとく、木々は切り倒され、魔物達も吹き飛ぶように倒れていった。エルフィンは翼を羽ばたかせ、魔物を追い回す。森にはエルフィンの高笑いが響き渡る。


 「ここまで一掃してしまうとは……言葉が出ません」
 「グラント様、これからです」


 地響きとともに、湖底から3つの首を持つ水魔龍が唸りを上げながら現れた。


 「グラント様、申し訳ないのですが、スカジを召喚させて、凍らせてもらえますか?」
 「ああ、いいとも。……我が名はグラント! 汝、氷の女王スカジに命ず。今、凍てつく矢で奴を射貫きたまえ!」


 グラントは召喚陣を発動させ、青白い光とともに雪の結晶を舞い降らせながら、氷の衣を身に纏った巨人の美女スカジが現れた。スカジは水魔龍に向かって、弓を引いた。氷で出来た弓矢は飛んでいる最中に無数の矢に分裂し、氷矢の雨を降らせた。


 「エル、私に力を貸して!」
 「ああ、分かった。……インディグノル・ブースト!」


 悠人はエルフィンから能力を継承し、赤黒いオーラを放ちながら、凍った水魔龍に近付いた。そして、悠人は手を挙げて、詠唱をし始めると、審判の剣は空高く上がり、無数の剣に分裂した。空は剣で埋め尽くされた。


 「……我が名は悠人。我、ここに来たれし者達に善悪の秤を持ちて根絶す! ユーディキウム!」


 詠唱後、挙げてた手を勢いよく下げると、剣が一斉に目標へ向かって、風を裂く音を響かせながら、目にも止まらぬ速さで残りの魔物達や水魔龍もろとも串刺しにした。悠人は指を鳴らすと、水魔龍は粉々に砕け散って、消えていった。
 そして、瘴気は消え、森は澄みきった風と小鳥がさえずる声が聞こえ始めた。湖も太陽の光で水面がキラキラと光り、穏やかで透き通っていた。
 エルフィンは剣から滴る血を振り落とし、鞘に納めた。悠人は力が抜け、よろけそうになり、それを見たエルフィンは悠人を抱きかかえて、皆の元へ戻った。


 「エル、ごめんね。ちょっと頑張り過ぎちゃった……えへへっ」
 「見事な剣術魔法だったぞ。グラントとも連携が取れていて、とても良かった。セレストも皆を守ってくれて、ありがとう」
 「とりあえずエルは翼を仕舞って、いつもの体にならないと。ほら、僕とキスして」


 エルフィンは皆がいる前で、悠人と舌を絡ませながらキスをした。そうすると、エルフィンは青の騎士団長エルフィンの姿に戻った。


 「……悠人様、キ、キス以外で元に戻る方法はないのですか? 毎回、それを見せつけられる私達の身にもなってくださいよ」


 兵士達はエルフィンと悠人の淫猥なキスに見惚れており、それを見たグラントは呆れ顔で悠人に言う。


 「うーん、……ないね! だって、またあの儀式するの嫌なんだもん」
 「……まぁ、確かにそうですけど……はぁ」


 グラントは頭を抱え、深くため息をつく。そんなグラントを見て、悠人は近寄り、耳元で囁く。


 「もしかしたら、グラント様ともキス……以上の事があるかもですよ」


 グラントは顔を真っ赤にし、悠人に大慌てで離れ、目を背け、腕で顔を覆った。


 「とりあえず、今日はここで野宿だ。翌日、結界を張る事にしよう」
 「はっ!」


 エルフィンの命で兵士達はテントの設営などの作業に追われた。悠人は先に出来たエルフィンと悠人のテントで少し休み、着替えて、料理を手伝いに合流した。


 「悠人様! その恰好、どうされたんですか!」
 「え、メイドの人達が必要だからって渡されてさ。メイド服は着た事無いし、折角だしと思ったんだけど、やっぱ、似合わないかな……」
 「いえ! お似合いなんですけど……そのメイド服……」
 ――悠人様、屈んだら襟の隙間から乳首が……見えてます! ああ、後ろも屈んだら、ひ、ひ、ひ、紐パンが見えてます! ああ、もう飯作ってる場合じゃねぇ―!


 料理を作っている兵士達は目のやり処がなく、頬を赤くし、困惑した。


 「飯盒炊飯とか懐かしい。どれどれ、ご飯の火加減はどうかなぁ」
 「あぁ! 悠人様、そこで屈んだらぁ!」
 「ん? 火加減大丈夫そうだよ? 何、どうしたの?」


 さっきまで騒がしく作業を行っていた音や話し声が一気に静まり返った。忠告した兵士達は頭を抱えていた。振り向くと、皆が口をポカンと開けて、メイド服姿の悠人を見ていた。エルフィンは深いため息をつき、悠人に言った。


 「……悠人、その、なんだ。見えているぞ」
 「えっ?」


 エルフィンがお尻を見る様に指を指し、悠人はその屈んだ体勢のまま触ると、布の感触ではなく、下着とお尻の感触しか無かった。


 ――うわっ、これ、もろ丸出しだし、しかも、よりによって、パンツ食い込んでるし! めっちゃ恥ずかしい!
 「き、き、着替えてきます!」

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