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第二章(order2):Uji Matcha Azuki
2-12:思いを叶えるために
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翔真は琴音と一緒に大鳥居の前まで引き返した。そして、出店を一つずつ見て回った。途中で琴音の手が離れたため、翔真が振り返ると、琴音は立ち止まり、俯いていた。
「あの……翔真さん、本当にごめんなさい」
「ちひ……じゃなくて、琴音ちゃんが謝る事じゃないよ。今は少しでも祭りを楽しもう」
「……はい!」
琴音の笑顔にドキッとした。二人は再び手を繋ぎ、人混みの中を進んだ。そして、翔真は琴音を岩灯籠の前で待たせ、出店で何やら買ってきた。
「これ食べろ。嫌いだったら、俺が食べる」
「ううん、ありがとう! わぁ、ピンク色でふわふわして……甘い!」
「そうか……良かった」
翔真が買ってきたのは琴音の顔以上に大きな薄ピンク色の綿あめだった。琴音は目をキラキラさせながら、大喜びし、食べた。そんな純粋無垢な笑顔に翔真は小さく笑い返した。二人が出店を見終わる頃、大きな音とともに、夜空に花火が上がった。
「花火か……」
「私ね、花火が一番近くで見れる場所知ってるの! 来て!」
「お、おい。走るなよ!」
琴音は笑顔で翔真の手を握り、人混みの中を走った。神社の階段を駆け上がり、その先にある小道を抜けると、少し開けた場所に出た。翔真は息を切らしながら、夜空を見上げた。
「……凄いな」
「でしょ! 誰も知らない場所」
夜空には無数の花火が咲き誇り、綺麗だった。辺りが静かで花火の打ち上がる音が響く。二人は草むらに腰を掛け、花火を見た。翔真が横を向くと、琴音は目を輝かせ、花火に見惚れていた。
「綺麗だな……」
「うん! とっても綺麗!」
二人は無言で花火を見た。華やかさがある中で消えていく花火に翔真は心を痛めた。
――次で最後か……。
辺りが静寂に包まれたと思ったら、今まで以上に大きな音が鳴り響き、花火の種が空高く上がっていった。そして、一番大きな花火が夜空に咲いた。祭りの会場からは歓声と拍手が聞こえた。
「花火……終わっちゃったね」
「あぁ……」
琴音は翔真の手を強く握った。翔真は白狐の面の紐を解き、琴音にキスをした。琴音は驚いたが、そっと目を閉じた。翔真が琴音から唇を離すと、琴音は瞳を潤わせ、涙が頬を伝って流れていた。
「向こうでも幸せでいるんだぞ」
「……うん、ありがとう。この人にもお礼言わなきゃね」
琴音は両手を胸に当て、目を瞑り、『ありがとう』と呟いた。
「じゃ、私は行くね。二人も末永く幸せにね。バイバイ」
「あぁ……じゃあな」
琴音は翔真に微笑み、千尋の体から抜け、白い光となり、夜空に消えていった。千尋は翔真の肩にもたれ掛かり、ぼんやりと目を開けた。
「翔真……」
「あの子は成仏しましたよ。最後まで笑顔でした。千尋さんにお礼言ってました」
「そっか……良かった。じゃ、神社まで帰ろう」
「そうですね」
二人は神社まで戻った。そこには晄士と東郷がいた。二人が戻ってくるのを見ると、晄士と東郷は立ち上がった。
「終わったみたいだな」
「ねぇ! たっくんがなんでここにいるの! なんで東郷先生と一緒にいるの?」
「それは今、答えられません」
「なんでだよ! 皆、たっくんの事を心配してたんだよ」
「…………」
「ねぇ! なんで答えてくれないんだよ!」
千尋は晄士を胸ぐらを掴み、涙ながらに問いただした。しかし、晄士は千尋の手を振り解き、東郷とともに立ち去ろうとする。
「東郷先生もなんでずっと黙ってたんですか! 知ってるんだったら、なんですぐ言ってくれなかったんですか!」
「……すまんの」
千尋は泣きながら、膝から崩れ落ち、地面を何度も殴った。見かねた晄士が千尋の前に戻ってくる。
「千尋、私達は運命なのです。またすぐ会えますから。泣かないで下さい」
「でもさ……あっくんが急に居なくなって、僕は生きていくのが辛かった。自分のせいだったんじゃないかって」
「すみません……」
晄士は千尋の頭を優しく撫でた。千尋が顔を上げると、晄士は微笑んでいた。翔真は二人を追いかけ、白狐の面を返した。
「先生、彼らに例のものを……」
「晄士、ええんか? あれは……」
「良いんです」
晄士は東郷にあるものを渡すように伝えた。東郷は渋々、信玄袋から栄養ドリンク剤のような茶色い瓶を取り出すと、翔真に手渡した。
「憑依浄化の薬だ。千尋に飲ませろ。……副作用が強いが、あんまり気にするな」
翔真は薬を受け取ると、千尋に駆け寄り、薬を飲ませた。翔真は千尋を立ち上がらせ、汚れを手で払った。そして、再び神社の階段の方を見たら、すでに晄士と東郷の姿は無かった。
「とりあえず旅館に戻りましょう。千尋さん、汗が凄いですよ」
「う……うん、ちょっと怠い位。肩貸して貰えると嬉しいかも」
「分かりました」
翔真は千尋に肩を貸し、千尋は翔真に寄り掛かるようにして、祭り会場を後にした。
旅館に着くと、千尋の顔色を見て、女将が飛び出てきた。翔真は女将に事情を説明し、着物から浴衣へ着替えさせてもらい、部屋へすぐ戻った。
部屋にはすでに布団が敷かれていた。翔真は千尋を布団に寝かし、女将から氷水を張った盥とタオルを受け取った。
「何かあれば、何なりとお呼び下さい」
「女将さん、ありがとうございます」
女将は頭を下げ、退室した。翔真は千尋の額に絞った濡れタオルを置いた。千尋の息は荒く、頬が真っ赤だった。
「あの……翔真さん、本当にごめんなさい」
「ちひ……じゃなくて、琴音ちゃんが謝る事じゃないよ。今は少しでも祭りを楽しもう」
「……はい!」
琴音の笑顔にドキッとした。二人は再び手を繋ぎ、人混みの中を進んだ。そして、翔真は琴音を岩灯籠の前で待たせ、出店で何やら買ってきた。
「これ食べろ。嫌いだったら、俺が食べる」
「ううん、ありがとう! わぁ、ピンク色でふわふわして……甘い!」
「そうか……良かった」
翔真が買ってきたのは琴音の顔以上に大きな薄ピンク色の綿あめだった。琴音は目をキラキラさせながら、大喜びし、食べた。そんな純粋無垢な笑顔に翔真は小さく笑い返した。二人が出店を見終わる頃、大きな音とともに、夜空に花火が上がった。
「花火か……」
「私ね、花火が一番近くで見れる場所知ってるの! 来て!」
「お、おい。走るなよ!」
琴音は笑顔で翔真の手を握り、人混みの中を走った。神社の階段を駆け上がり、その先にある小道を抜けると、少し開けた場所に出た。翔真は息を切らしながら、夜空を見上げた。
「……凄いな」
「でしょ! 誰も知らない場所」
夜空には無数の花火が咲き誇り、綺麗だった。辺りが静かで花火の打ち上がる音が響く。二人は草むらに腰を掛け、花火を見た。翔真が横を向くと、琴音は目を輝かせ、花火に見惚れていた。
「綺麗だな……」
「うん! とっても綺麗!」
二人は無言で花火を見た。華やかさがある中で消えていく花火に翔真は心を痛めた。
――次で最後か……。
辺りが静寂に包まれたと思ったら、今まで以上に大きな音が鳴り響き、花火の種が空高く上がっていった。そして、一番大きな花火が夜空に咲いた。祭りの会場からは歓声と拍手が聞こえた。
「花火……終わっちゃったね」
「あぁ……」
琴音は翔真の手を強く握った。翔真は白狐の面の紐を解き、琴音にキスをした。琴音は驚いたが、そっと目を閉じた。翔真が琴音から唇を離すと、琴音は瞳を潤わせ、涙が頬を伝って流れていた。
「向こうでも幸せでいるんだぞ」
「……うん、ありがとう。この人にもお礼言わなきゃね」
琴音は両手を胸に当て、目を瞑り、『ありがとう』と呟いた。
「じゃ、私は行くね。二人も末永く幸せにね。バイバイ」
「あぁ……じゃあな」
琴音は翔真に微笑み、千尋の体から抜け、白い光となり、夜空に消えていった。千尋は翔真の肩にもたれ掛かり、ぼんやりと目を開けた。
「翔真……」
「あの子は成仏しましたよ。最後まで笑顔でした。千尋さんにお礼言ってました」
「そっか……良かった。じゃ、神社まで帰ろう」
「そうですね」
二人は神社まで戻った。そこには晄士と東郷がいた。二人が戻ってくるのを見ると、晄士と東郷は立ち上がった。
「終わったみたいだな」
「ねぇ! たっくんがなんでここにいるの! なんで東郷先生と一緒にいるの?」
「それは今、答えられません」
「なんでだよ! 皆、たっくんの事を心配してたんだよ」
「…………」
「ねぇ! なんで答えてくれないんだよ!」
千尋は晄士を胸ぐらを掴み、涙ながらに問いただした。しかし、晄士は千尋の手を振り解き、東郷とともに立ち去ろうとする。
「東郷先生もなんでずっと黙ってたんですか! 知ってるんだったら、なんですぐ言ってくれなかったんですか!」
「……すまんの」
千尋は泣きながら、膝から崩れ落ち、地面を何度も殴った。見かねた晄士が千尋の前に戻ってくる。
「千尋、私達は運命なのです。またすぐ会えますから。泣かないで下さい」
「でもさ……あっくんが急に居なくなって、僕は生きていくのが辛かった。自分のせいだったんじゃないかって」
「すみません……」
晄士は千尋の頭を優しく撫でた。千尋が顔を上げると、晄士は微笑んでいた。翔真は二人を追いかけ、白狐の面を返した。
「先生、彼らに例のものを……」
「晄士、ええんか? あれは……」
「良いんです」
晄士は東郷にあるものを渡すように伝えた。東郷は渋々、信玄袋から栄養ドリンク剤のような茶色い瓶を取り出すと、翔真に手渡した。
「憑依浄化の薬だ。千尋に飲ませろ。……副作用が強いが、あんまり気にするな」
翔真は薬を受け取ると、千尋に駆け寄り、薬を飲ませた。翔真は千尋を立ち上がらせ、汚れを手で払った。そして、再び神社の階段の方を見たら、すでに晄士と東郷の姿は無かった。
「とりあえず旅館に戻りましょう。千尋さん、汗が凄いですよ」
「う……うん、ちょっと怠い位。肩貸して貰えると嬉しいかも」
「分かりました」
翔真は千尋に肩を貸し、千尋は翔真に寄り掛かるようにして、祭り会場を後にした。
旅館に着くと、千尋の顔色を見て、女将が飛び出てきた。翔真は女将に事情を説明し、着物から浴衣へ着替えさせてもらい、部屋へすぐ戻った。
部屋にはすでに布団が敷かれていた。翔真は千尋を布団に寝かし、女将から氷水を張った盥とタオルを受け取った。
「何かあれば、何なりとお呼び下さい」
「女将さん、ありがとうございます」
女将は頭を下げ、退室した。翔真は千尋の額に絞った濡れタオルを置いた。千尋の息は荒く、頬が真っ赤だった。
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