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江戸のお菊
しおりを挟む_______江戸時代中期
幾時代もを重ねた現在でも、身分制度という忌々しきキマリは消えない。
「お菊!お前ホント斃牛の扱いが下手だね」
竹さんが鉈をカンカンと打ち付けて怒鳴る。
「ならアンタは牛の頭なんて持ってる子供を見たことあるの!?」
負けじと菊も、牛の頭を塵溜めに投げて怒鳴った。
江戸にある皮工房では、数人の穢多が働いていた。その内の一人が菊という少女である。
「お前は私等みたいな身分の人間が、普通の着物着て、家事して暮らせるとでも思ってるのかい」
竹さんが呆れたように呟いた。三十半ばの彼女は、その年齢よりずっと老けて見える
「だからって毎日牛やマタタビの血を浴びながら暮らすなんて…あんまりよ」
仏教や神道を崇拝する人々は、生物を殺めることや血に触れることが嫌いなのだ。だから代わりに、私達のような低級身分がこのような仕事を担っている。
しかし払われる賃金は少ない。江戸なら多少はマシな額を貰えるだろうと地方からやってきたが、コレに関しては大差無いようだった。
「仕方ない。アンタがこんな仕事をやる事になったのも、アンタの親父さんのせいさ。恨む標的なら親にしときな」
「………」
父親のことを思い出し、菊の身体はカッと熱くなった。病床についた母と私を思いやってなのか、それとも自分のためにだったのか分からないが、父は人を殺めて金を盗んだ。
母は病死し、父は穢多になった後に失踪した。
私達のための悪行だとしても、どうしても許すことはできない。フッと菊は息を吐くと、次の牛の死骸に手をつけた。
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