10 / 13
さくるんの覚醒
しおりを挟む
「いつかー、もういちどー、あなたにー、会いたい。」
出だしの歌詞を歌い始めた瞬間、部屋の空気が変わったのが分かった。
陣内先生の表情が、一見険しくなったように見えるけど、それは私の歌に、集中している証拠だと思う。
「だからー、今日も心のあの場所で、私はあなたを。
待って、いーまーす。」
歌いながら、ちょっと泣いてしまった。
笑えないなら、泣くしかないとは思ってたけど、本当に泣いちゃったらプロの歌い手とは言えないよね。
でも、陣内先生に、新生さくるんを印象付けるのには、成功したと思う。
「松笠さんは、歌い方も、歌う姿勢も、すごく変わりましたね。
何があなたをそんなに変えたと思いますか?」
「この前の先生の言葉を、深く考えてみたんです。
それで、自分が本当にしたいことは何か、やっと気付いたような気がします。
先生のお陰です。
まだ、気付いたばかりだけど、もう迷わないし、これからもっと変われるって、感じているんです。」
「そうですか。
お役に立てたようで、よかったです。
まだ、テクニック的なことは、これからもっと成長していってもらわないといけませんが、あなたの歌い手としての核は、出来たと思いますよ。」
さくるんの歌は、基本は出来てたし、声も可愛くって実力はかなりあった方だと思う。
だけど、圧倒的に、人に伝える気持ちがなかったよね。
私を見て、私の歌を聞いて!って気持ちがサラサラなかった。
プロの歌って、素質と表現力と、伝えたいっていう気持ちの、3つがなきゃダメだと思う。
今、歌った課題曲の、「もう一度」。
大好きだった、私の心の支えだった息子の大悟君を思って歌えば、伝えたい力なんて楽勝だっつーの。
人生経験を被せて歌うことだったら、他の49人の小娘研究生たちには、全く負ける気がしないわよ。
ちょっとカメラマンさん、あたしの最初のぶちかまし、ちゃんと撮影してくれたわよね?
「ちょっと、どうしちゃったの、松笠 桜。」
「これ放送したら、SMSでバズること、間違いなしだろ。」
「どのくらいの尺で放送します?
始めの目を開けたとこと、最後の涙目になったとこ、両方外せないですよね?」
「いっそのこと、全部流すか。
これ、かなりの番狂わせを起こしかねないな。」
それにしても、こんだけ歌えるって、どうやって今まで隠してたんだよ。」
「わざと、ですよね?
だとしたら、相当な演技力じゃないっすか。
だって、この桜ちゃん、放送前は期待値3位かなんかでしたよね?
一旦、自分をあえて思いっきり落として、そこから爆上げっていう作戦かな?」
「いやぁ、俺は前のこの子のボイスレッスンの時、ちょうどカメラを回してたんだけどさ、あれもあれで、素だったと思うぜ?
っていうか、そうとしか思えなかった。」
「益子さんもだませるほどの演技力って、化け物かよ。」
この時の放送が流れるのは、これから1か月後のこと。
その時の放送は、華乃アイドル学園の放送史上、もっともバズった神回と呼ばれ、さらに、アイドルの概念さえも変えた、伝説の回と語り継がれることとなった。
出だしの歌詞を歌い始めた瞬間、部屋の空気が変わったのが分かった。
陣内先生の表情が、一見険しくなったように見えるけど、それは私の歌に、集中している証拠だと思う。
「だからー、今日も心のあの場所で、私はあなたを。
待って、いーまーす。」
歌いながら、ちょっと泣いてしまった。
笑えないなら、泣くしかないとは思ってたけど、本当に泣いちゃったらプロの歌い手とは言えないよね。
でも、陣内先生に、新生さくるんを印象付けるのには、成功したと思う。
「松笠さんは、歌い方も、歌う姿勢も、すごく変わりましたね。
何があなたをそんなに変えたと思いますか?」
「この前の先生の言葉を、深く考えてみたんです。
それで、自分が本当にしたいことは何か、やっと気付いたような気がします。
先生のお陰です。
まだ、気付いたばかりだけど、もう迷わないし、これからもっと変われるって、感じているんです。」
「そうですか。
お役に立てたようで、よかったです。
まだ、テクニック的なことは、これからもっと成長していってもらわないといけませんが、あなたの歌い手としての核は、出来たと思いますよ。」
さくるんの歌は、基本は出来てたし、声も可愛くって実力はかなりあった方だと思う。
だけど、圧倒的に、人に伝える気持ちがなかったよね。
私を見て、私の歌を聞いて!って気持ちがサラサラなかった。
プロの歌って、素質と表現力と、伝えたいっていう気持ちの、3つがなきゃダメだと思う。
今、歌った課題曲の、「もう一度」。
大好きだった、私の心の支えだった息子の大悟君を思って歌えば、伝えたい力なんて楽勝だっつーの。
人生経験を被せて歌うことだったら、他の49人の小娘研究生たちには、全く負ける気がしないわよ。
ちょっとカメラマンさん、あたしの最初のぶちかまし、ちゃんと撮影してくれたわよね?
「ちょっと、どうしちゃったの、松笠 桜。」
「これ放送したら、SMSでバズること、間違いなしだろ。」
「どのくらいの尺で放送します?
始めの目を開けたとこと、最後の涙目になったとこ、両方外せないですよね?」
「いっそのこと、全部流すか。
これ、かなりの番狂わせを起こしかねないな。」
それにしても、こんだけ歌えるって、どうやって今まで隠してたんだよ。」
「わざと、ですよね?
だとしたら、相当な演技力じゃないっすか。
だって、この桜ちゃん、放送前は期待値3位かなんかでしたよね?
一旦、自分をあえて思いっきり落として、そこから爆上げっていう作戦かな?」
「いやぁ、俺は前のこの子のボイスレッスンの時、ちょうどカメラを回してたんだけどさ、あれもあれで、素だったと思うぜ?
っていうか、そうとしか思えなかった。」
「益子さんもだませるほどの演技力って、化け物かよ。」
この時の放送が流れるのは、これから1か月後のこと。
その時の放送は、華乃アイドル学園の放送史上、もっともバズった神回と呼ばれ、さらに、アイドルの概念さえも変えた、伝説の回と語り継がれることとなった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる