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#15 銀髪

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 建国祭、2日目ーーー。


 この日も天候に恵まれ、王都は人々の熱気に満ちていた。
 パレードでは大歓声に包まれ、花びらが舞った。




 ふと、父の凱旋式の記憶が蘇った。
 なぜか心がざわざわと落ち着かない。
 



 出店を巡り、オリヴィエに小さなアメジストの髪飾りを買った。
 彼女の髪に挿してあげると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 エレンは落ち着かない心を、作った笑顔でどうにか誤魔化した。


 (ただ他国の者と言うだけなら、何もこんなに不安になる必要はない…)


 だが、頭の片隅で警戒音がする。


 水面に落ちた水滴が波紋を広がるように。
 地面に落ちた水滴が地中深くに吸い込まれるように。
 心に落ちた不安が波紋を広げ、体の奥まで吸い込まれていく。


 ーーーオリヴィエを連れて、どこか遠くへ逃げなければならない予感がした。






 「…オリヴィエ、そろそろ戻ろう」


 エレンがそう言った時だった。





 人混みの中から叫ぶ声がした。


 「オリヴィエ!!」


 振り返ると、少し離れた場所に黒いマントを着てフードを深く被った男がいた。
 二人より少し年上の、旅人のような出で立ちだった。
 男は驚いた顔をしている。


 ドクン…と心臓が鳴った。
 

 エレンの横でトサッと何かが落ちる音がした。
 オリヴィエが手に持っていた土産を落とした音だった。
 オリヴィエは真っ青な顔をしてカタカタと小さく振るえていた。


 「オリヴィエ!!オリヴィエだろう!?」


 男はかなり必死な様子で駆け寄ってきた。


 その男の必死な様子にエレンは危機感を感じた。
 エレンはオリヴィエの手を強く握ると、走り出した。
 人混みの向こうから、彼の必死にオリヴィエを呼ぶ声が聞こえた。
 その声は悲痛ささえ感じる声だった。


 「オリヴィエ!お願いだ!戻ってきてくれ!!」


 その言葉にエレンが走りながら振り返ると、男のフードが人混みの中で脱げた瞬間が目に入った。




 ーーー男は短い銀髪をしていた。






 人混みの中に自分達をかき消すように逃げ、そして馬車に乗り、二人は屋敷へ戻った。


 その間、二人は一言も言葉を交わさなかった。
 そして、オリヴィエは夕食の席にも姿を現さなかった。
 

 




 ーーーあの銀髪の青年はオリヴィエとどういう関係なのか、オリヴィエは一体どこの誰なのか。


 考えても答えの出ないことをひたすらと考えた。






 その日の夜中にエレンが眠れずにいると、コンコンとドアをノックする音がした。


 エレンはドアを開けることに躊躇した。
 オリヴィエだと分かっているからだ。


 だが、ようやくオリヴィエが話してくれる日が来たのだ。


 彼は躊躇いなからも、そっとドアを開けた。


 俯いた彼女が立っていた。
 座って、とエレンが勧めたが、彼女は首を横に振り座ろうとしなかった。
 エレンは目が熱くなるのを感じた。


 ーーー嫌な予感がした。


 「…お兄様、お話を聞いて下さいますか?」
 オリヴィエの声が震えていた。


 エレンは小さく頷いた。





 「先程の方は母方の従兄弟様です。
  

  ーーー私の銀髪は母譲りなのです…」

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