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#6 父の手紙
しおりを挟むオリヴィエがクロフォード家に来てから3年が経ち、4回目の夏が来た。
二人は17歳になった。
もう1年もせずに成人を迎える。
隣国アルファト王国も少しずつ落ち着き、父たちも日常を取り戻した。
エレンは春に剣術大会に出て、名前を馳せた。
容姿は美しく、鍛え抜かれた体に、背もかなり伸びた。彼は女性も男性も、憧れる存在だった。
そしてオリヴィエも、とても美しい女性になった。
腰あたりまで伸びた銀髪はさらさらと風に揺られ、キラキラと輝く瞳に白い陶器のような肌。
(きっと社交界に出れば、女性は皆憧れ、求婚者で列が出きるだろう。彼女は完璧な淑女だ。)
エレンはずっと、兄が侯爵家を継ぎ、自分は騎士団に入って兄を支えて行こうと考えてきた。
昔から兄は頭がよく、自分は体を動かす方が得意だったし、爵位にもあまり興味がなかった。
だが、この夏の休暇は少し違った。
父は軍部の中枢で仕事をし、兄が時に手伝っていたのだが、ついに引き抜かれてしまい、父の補佐官になってしまった。
つまり、夏季休暇中は、(回らなくなった)領地の仕事をやれと言われたのだ。
(完全に押し付けられた。)
と溜め息を着いた。
エレンはこの3年間の休暇は、オリヴィエあまり会わないようにしなければと思った。
時に級友の家に泊まったり、別邸へ泊まったりしたが、ふと、オリヴィエの事を考えてしまい、結局領地へ帰った。
ーーー戻ったら彼女がいなくなってる気がして。
父も兄もよく帰ってはいるようだが、相変わらず彼女は庭園のベンチに座っていることが多かった。
恐らく彼女の傷は癒えていないのだ。
せめて彼女とあまり話さないようにした。
きっと話せば、どんどん欲が出る。
だが、彼女への気持ちは膨らむばかりだった。
時々、父と兄が揃ったら4人で食事もした。
他愛のない話をして、彼女は父を「侯爵様」と呼び、アイゼンとエレンを「お兄様」と呼んだ。
その度に、胸がチクチクした。
時々、森小屋にも足を運んだ。
森小屋のベッドで寝転がり、彼女にここを教えてあげればよかったと思った。
ここは静かで、きっと彼女は気に入っただろう。
ーーー兄でも彼女のそばにはいられる。
いつか、「誰か」が彼女の傷を癒して、本当に幸せな笑顔になれるとき、それが見れれば十分だ。
ーーーそう自分に言い聞かせた。
その日は執務室で書類の整理をしていた。
オスティアン帝国の夏はさほど暑くないが、この日はいつもより暑く感じた。
(暑いな…。)
と長袖の白いシャツの袖をまくった。
書類を書いていると万年筆のインクがなくなった。
机の引き出しを漁ったが、インクがない。
(父の書斎にあるかもしれない。)
エレンは立ち上がると、書斎へ向かった。
書斎へ入り、机の一番上の引き出しを開けたが、ない。
(ここか?)
下の引き出しを開けると、インクの瓶と父の書きかけの手紙が目に入った。
『ーーーオリヴィエへ』
(え?)
その書き出しに、つい読んでしまった。
そして、息が止まった。
『ーーーオリヴィエへ
君が家を出る話は、君が成人してからゆっくり話そう。
私は、まだ君に何も償いが出来ていない。』
そこで手紙は終わっていた。
嫌な汗が出た。
ドクンドクンと心臓が大きく脈打つ。
…胸が張り裂けそうだ。
(3年も過ごしたのに、なぜオリヴィエは俺に何も話してくれなかったんだ…。)
(いや、違う。自分だって聞こうとしなかった。)
ーーーーーオリヴィエがいなくなる。
エレンは引き出しを勢いよく閉めると、書斎から飛び出した。
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