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13 疫魔
しおりを挟む(ーーー還俗しよう。
神殿に手紙を書こう。そうすれば次の司祭が来るだろう。そうしたら、ここを離れよう。)
ミハイルはそう決めるとペンを取ると神殿へ還俗を決意した内容の手紙を書いたのだった。
(私の神聖力はあまり強いものでもない。司祭に拘らなくても大丈夫だ…)
幼少時より、ずっと身を捧げてきた道だ。
名残惜しさも辛い気持ちもある。
(でも私は禁を犯した。続けられる資格がない)
ミハイルはペンを置くと暫く書いた手紙を眺めていた。これが神殿に届けば、そして受理されればもう司祭ではなくなる。
心に穴が開いたようだった。
しかし、数日後事件が起きた。
ーーー疫病だ。
お年寄りも子供も、若い働き盛りの者も皆高熱にうなされ、そして嘔吐するので何も口にできないのだ。
そして次々に患者は増え、診療所や教会は患者で溢れた。
ミハイルは多忙を極めた。
ミハイルの神聖力では症状を軽くすることで精一杯で、全員に神聖力を使えるほどの力はない。
また、この小さな街の診療所には医者もおらず、このような症状に効く薬草も備蓄がなかった。
「どうすれば…患者が多すぎる…」
ミハイルは頭を抱えた。
そして倒れたものは翌日になると血の混じった下痢をした。
水を取らせたいが吐いてしまう。
どんどん子供やお年寄りから弱っていくのが、手に取るように分かった。
「司祭様…私は大丈夫ですから、若いものに神聖力を使ってくだされ」
あるお年寄りは病床でそう言った。
今にも息絶えそうな顔をして。
これ程に自分の無力さを感じたことはなかった。
しかし、その日、神殿に新たに運び込まれたのは幼いミランダだった。
ミランダは既に意識もなくぐったりとしていて、一刻の猶予もない様子だ。
脱水から手の皮や唇はしわしわになり、目も窪んでいる。
「ミランダ…!ああ…!」
ミハイルは駆け寄ると、そのしわしわの手を握り、神聖力を込めると治癒を始めた。
ーーーしかし既に遅かったのか、ミランダは僅かに唇を動かせただけで意識も戻らない。
「出血の量がすごく多かったんです」
ミランダの母は泣きながらに訴えた。
その母も顔色が悪く、今にも倒れそうな程に弱って見えた。
「…お母さん、ミランダは私に任せて、貴女も治療が必要です」
ミハイルはミランダを抱えると、部屋へ案内した。
ミランダは幼い頃に父を事故で亡くした。
その為に母が一人で育てている。
その事情あってか、ミランダは人一倍思い遣りに溢れた子供だった。
(神聖力を何度もかけ続けるしかない…!)
ミハイルはその晩、夜通しでミランダを含めて、症状の重い者から神聖力をかけ続けたのだった。
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