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10 探し物

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 夜になり、シューデンはいつもの酒場へと来ていた。
 今日はアカデミー時代の友人たちと約束をしている。


「シューデン!」


 そこにやってきたのは炎遣いのジェイド、回復魔法師のマリーナだ。
 二人とも平民のため苗字はない。だが、アカデミーに入れるほどの魔力を持ち、二人は現在同じ冒険者パーティーに所属している。


 アカデミー時代に親しかったわけではないのだが、この酒場で何度か会ううちに友人と呼べる仲となったのだ。


 「久しぶりだな。B級に昇格したんだって?おめでとう!」


 「まあな」
と、ジェイドは誇らしげに笑った。


 「私も結界が張れるようになったんだ~!まだちっちゃいやつだけど!」


 わいわいと嬉しそうな二人を見ていて、シューデンも嬉しくなった。
 二人は「魔法を使えない人だって沢山いる」と自分を受け入れてくれた人たちだ。
 
 





 ーーー暫く談笑をしていると、ジェイドが「そう言えば」と話を切り替えた。


「今朝未明、グレンゼス公子がまた迷宮踏破したらしい」


「ブフッ!!」


 シューデンは飲んでいた酒を吹き出し、ゲホゲホとむせた。


「大丈夫か?」


「い、いや、むせただけだ」


「今度はどこの迷宮?」
とアリーナが尋ねる。


「どこだったかなぁ。3か月前に急に湧いた迷宮らしい」


「3か月前?ならネイクロン領かな。ロワイス領の隣の」


 ロワイス領はシューデンの実家が治める土地だ。
 二人の会話を盗み聞きするような気分で、居心地悪そうな顔をしながら酒を飲む。


「それにしても、すごい。踏破のスピードが可笑しい。ここまで来たらただの迷宮好きだろ」
 ハハハと高らかにジェイドが笑う。


 (…もしかして二人ならグレンゼスがなぜ迷宮ばかりに行ってるか知っているかも…)
 ーーーちょっとした興味だった。


「…二人はグレンゼス公子がなぜ迷宮ばかりに行っているか知ってる?」


 二人は顔を見合わせた。


「…詳しくは知らないけれど、王様と約束してる期限があるというのは聞いたよ」


「…?期限?」
 それが、なぜ迷宮にひたすらに行く理由に?


「これは多分の話で、俺ら冒険者内での憶測なんだけど」


 ジェイドはヒソヒソと小声で話を続けた。


「何か探し物があるんじゃないかって噂」


 (ーーー迷宮で探し物。
 それはつまり、迷宮産アイテムの事か?)


 (なるほど。納得行く話だ。
 王家の依頼でレアアイテムを探しているのか)


 シューデンは空になったグラスに残った氷をカラカラと鳴らした。


「シューデン、ちょっと飲み過ぎじゃない?」


「まぁまぁ、今日は久しぶりだし、俺らの昇級祝いだ!!」


 なんて言ってる二人も酔いが回ってきたのか、目元は緩み顔が赤い。
 シューデンはクスッと笑うと空いたグラスにお代わりを頼んだ。


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