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「————もう、我慢ならないわ」
明確な怒りの感情を含ませ、私——セフィリア・アインベルクは想いを言葉に変えて乱暴に唾棄する。
それ程までに、看過出来ない事実が幾重にも積み重なっていたのだ。
「……多少の横暴には目を瞑ってきた。いつか、改心してくれる日が来ると思っていたから。だけど、」
言葉を止めて、視線を落とす。
椅子に腰掛ける私の視線の先には一通の手紙を封の開いた状態で放置していた。
「流石に、やり過ぎよ」
手紙の内容は、私の妹であるミハエラ・アインベルクに対する事実無根の誹謗中傷。
ミハエラの婚約者である王太子からわざわざ私に寄せられた謝罪を求める手紙であった。
……どうにも、王太子はミハエラとの婚約が気に入らないようで、度々嫌がらせのような陰湿な行為を繰り返していた。
あまりにミハエラが可哀想だからと、アインベルク公爵家現当主である父にあの婚約は今すぐにでも解消すべきだ。あれではミハエラが傷付くだけだ。
そう言って直談判をした事もあった。
だけど、私の言は認められなかった。
あの縁談は国王陛下直々に取り決めなされた縁談。王家の顔に泥を塗るわけにはいかないと。
きっと王太子様もいつか改心して下さる。
父はそう述べるだけだった。
……だけど、父の立場もわかる。
たかだか縁談ひとつの話ではないから。
これを幸いにと良からぬ輩が叛意だなんだと囃し立てる可能性もある。
だから、行動を起こせない父を責める気はなかった。
「王都にいるミハエラを私が連れて帰るわ」
『————オイオイ、そんな事して良いのかよ?』
今の今まで無言を貫いていたとある存在が、私のそんな言葉に反応して口を挟む。
「良いも何も、これ以上ミハエラに苦しい想いをさせるわけにはいかないでしょう」
『気持ちは分かるが……、一度連れ帰ってどうなる?』
「国を出るわ」
『オイオイ、マジかよ……』
半開きとなった窓から吹かれる微風。
傍から見れば一人でぶつくさと独り言を話しているようにしか見えないだろうが、私はある存在と会話をしていた。
ぶっきらぼうな口調の精霊——風の精霊王シルヴィス。それが今、私が会話をしている存在の正体である。
「連れ帰って、アインベルクに留まっていたらどうにかして何事もなく事を収めようと奔走してくれていた父に迷惑がかかる。……何より、ミハエラは多分、もうこの国にはいたくないでしょうし」
『……まぁ、気持ちは分かる』
「だから、ミハエラを連れて国を出る事にするわ」
『……それがあんたの出した答えってんなら、オレぁ尊重するぜ。だがその場合、〝結界〟はどうする気だ? あんたがいねえと機能しねえぞあれは』
「そんなの知らないわよ」
私はシルヴィスの懸念を一刀両断。
「なんであんなクソ王子のいる国を守り続けなきゃいけないのよ」
『……あんたの故郷もそのクソ王子のいる国なんだが?』
「アインベルク領については、他に怪しまれない程度に守って欲しいって信頼出来る他の精霊にお願いするつもり」
『成る程なぁ。それが無難だわな』
————『精霊姫』。
セフィリア・アインベルクとして生を受ける前の生にて、そんな呼ばれ方をしていた己の事を懐古しながら、私はシルヴィスとの会話をそこで打ち切った。
明確な怒りの感情を含ませ、私——セフィリア・アインベルクは想いを言葉に変えて乱暴に唾棄する。
それ程までに、看過出来ない事実が幾重にも積み重なっていたのだ。
「……多少の横暴には目を瞑ってきた。いつか、改心してくれる日が来ると思っていたから。だけど、」
言葉を止めて、視線を落とす。
椅子に腰掛ける私の視線の先には一通の手紙を封の開いた状態で放置していた。
「流石に、やり過ぎよ」
手紙の内容は、私の妹であるミハエラ・アインベルクに対する事実無根の誹謗中傷。
ミハエラの婚約者である王太子からわざわざ私に寄せられた謝罪を求める手紙であった。
……どうにも、王太子はミハエラとの婚約が気に入らないようで、度々嫌がらせのような陰湿な行為を繰り返していた。
あまりにミハエラが可哀想だからと、アインベルク公爵家現当主である父にあの婚約は今すぐにでも解消すべきだ。あれではミハエラが傷付くだけだ。
そう言って直談判をした事もあった。
だけど、私の言は認められなかった。
あの縁談は国王陛下直々に取り決めなされた縁談。王家の顔に泥を塗るわけにはいかないと。
きっと王太子様もいつか改心して下さる。
父はそう述べるだけだった。
……だけど、父の立場もわかる。
たかだか縁談ひとつの話ではないから。
これを幸いにと良からぬ輩が叛意だなんだと囃し立てる可能性もある。
だから、行動を起こせない父を責める気はなかった。
「王都にいるミハエラを私が連れて帰るわ」
『————オイオイ、そんな事して良いのかよ?』
今の今まで無言を貫いていたとある存在が、私のそんな言葉に反応して口を挟む。
「良いも何も、これ以上ミハエラに苦しい想いをさせるわけにはいかないでしょう」
『気持ちは分かるが……、一度連れ帰ってどうなる?』
「国を出るわ」
『オイオイ、マジかよ……』
半開きとなった窓から吹かれる微風。
傍から見れば一人でぶつくさと独り言を話しているようにしか見えないだろうが、私はある存在と会話をしていた。
ぶっきらぼうな口調の精霊——風の精霊王シルヴィス。それが今、私が会話をしている存在の正体である。
「連れ帰って、アインベルクに留まっていたらどうにかして何事もなく事を収めようと奔走してくれていた父に迷惑がかかる。……何より、ミハエラは多分、もうこの国にはいたくないでしょうし」
『……まぁ、気持ちは分かる』
「だから、ミハエラを連れて国を出る事にするわ」
『……それがあんたの出した答えってんなら、オレぁ尊重するぜ。だがその場合、〝結界〟はどうする気だ? あんたがいねえと機能しねえぞあれは』
「そんなの知らないわよ」
私はシルヴィスの懸念を一刀両断。
「なんであんなクソ王子のいる国を守り続けなきゃいけないのよ」
『……あんたの故郷もそのクソ王子のいる国なんだが?』
「アインベルク領については、他に怪しまれない程度に守って欲しいって信頼出来る他の精霊にお願いするつもり」
『成る程なぁ。それが無難だわな』
————『精霊姫』。
セフィリア・アインベルクとして生を受ける前の生にて、そんな呼ばれ方をしていた己の事を懐古しながら、私はシルヴィスとの会話をそこで打ち切った。
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