1 / 4
一話
しおりを挟む
「————もう、我慢ならないわ」
明確な怒りの感情を含ませ、私——セフィリア・アインベルクは想いを言葉に変えて乱暴に唾棄する。
それ程までに、看過出来ない事実が幾重にも積み重なっていたのだ。
「……多少の横暴には目を瞑ってきた。いつか、改心してくれる日が来ると思っていたから。だけど、」
言葉を止めて、視線を落とす。
椅子に腰掛ける私の視線の先には一通の手紙を封の開いた状態で放置していた。
「流石に、やり過ぎよ」
手紙の内容は、私の妹であるミハエラ・アインベルクに対する事実無根の誹謗中傷。
ミハエラの婚約者である王太子からわざわざ私に寄せられた謝罪を求める手紙であった。
……どうにも、王太子はミハエラとの婚約が気に入らないようで、度々嫌がらせのような陰湿な行為を繰り返していた。
あまりにミハエラが可哀想だからと、アインベルク公爵家現当主である父にあの婚約は今すぐにでも解消すべきだ。あれではミハエラが傷付くだけだ。
そう言って直談判をした事もあった。
だけど、私の言は認められなかった。
あの縁談は国王陛下直々に取り決めなされた縁談。王家の顔に泥を塗るわけにはいかないと。
きっと王太子様もいつか改心して下さる。
父はそう述べるだけだった。
……だけど、父の立場もわかる。
たかだか縁談ひとつの話ではないから。
これを幸いにと良からぬ輩が叛意だなんだと囃し立てる可能性もある。
だから、行動を起こせない父を責める気はなかった。
「王都にいるミハエラを私が連れて帰るわ」
『————オイオイ、そんな事して良いのかよ?』
今の今まで無言を貫いていたとある存在が、私のそんな言葉に反応して口を挟む。
「良いも何も、これ以上ミハエラに苦しい想いをさせるわけにはいかないでしょう」
『気持ちは分かるが……、一度連れ帰ってどうなる?』
「国を出るわ」
『オイオイ、マジかよ……』
半開きとなった窓から吹かれる微風。
傍から見れば一人でぶつくさと独り言を話しているようにしか見えないだろうが、私はある存在と会話をしていた。
ぶっきらぼうな口調の精霊——風の精霊王シルヴィス。それが今、私が会話をしている存在の正体である。
「連れ帰って、アインベルクに留まっていたらどうにかして何事もなく事を収めようと奔走してくれていた父に迷惑がかかる。……何より、ミハエラは多分、もうこの国にはいたくないでしょうし」
『……まぁ、気持ちは分かる』
「だから、ミハエラを連れて国を出る事にするわ」
『……それがあんたの出した答えってんなら、オレぁ尊重するぜ。だがその場合、〝結界〟はどうする気だ? あんたがいねえと機能しねえぞあれは』
「そんなの知らないわよ」
私はシルヴィスの懸念を一刀両断。
「なんであんなクソ王子のいる国を守り続けなきゃいけないのよ」
『……あんたの故郷もそのクソ王子のいる国なんだが?』
「アインベルク領については、他に怪しまれない程度に守って欲しいって信頼出来る他の精霊にお願いするつもり」
『成る程なぁ。それが無難だわな』
————『精霊姫』。
セフィリア・アインベルクとして生を受ける前の生にて、そんな呼ばれ方をしていた己の事を懐古しながら、私はシルヴィスとの会話をそこで打ち切った。
明確な怒りの感情を含ませ、私——セフィリア・アインベルクは想いを言葉に変えて乱暴に唾棄する。
それ程までに、看過出来ない事実が幾重にも積み重なっていたのだ。
「……多少の横暴には目を瞑ってきた。いつか、改心してくれる日が来ると思っていたから。だけど、」
言葉を止めて、視線を落とす。
椅子に腰掛ける私の視線の先には一通の手紙を封の開いた状態で放置していた。
「流石に、やり過ぎよ」
手紙の内容は、私の妹であるミハエラ・アインベルクに対する事実無根の誹謗中傷。
ミハエラの婚約者である王太子からわざわざ私に寄せられた謝罪を求める手紙であった。
……どうにも、王太子はミハエラとの婚約が気に入らないようで、度々嫌がらせのような陰湿な行為を繰り返していた。
あまりにミハエラが可哀想だからと、アインベルク公爵家現当主である父にあの婚約は今すぐにでも解消すべきだ。あれではミハエラが傷付くだけだ。
そう言って直談判をした事もあった。
だけど、私の言は認められなかった。
あの縁談は国王陛下直々に取り決めなされた縁談。王家の顔に泥を塗るわけにはいかないと。
きっと王太子様もいつか改心して下さる。
父はそう述べるだけだった。
……だけど、父の立場もわかる。
たかだか縁談ひとつの話ではないから。
これを幸いにと良からぬ輩が叛意だなんだと囃し立てる可能性もある。
だから、行動を起こせない父を責める気はなかった。
「王都にいるミハエラを私が連れて帰るわ」
『————オイオイ、そんな事して良いのかよ?』
今の今まで無言を貫いていたとある存在が、私のそんな言葉に反応して口を挟む。
「良いも何も、これ以上ミハエラに苦しい想いをさせるわけにはいかないでしょう」
『気持ちは分かるが……、一度連れ帰ってどうなる?』
「国を出るわ」
『オイオイ、マジかよ……』
半開きとなった窓から吹かれる微風。
傍から見れば一人でぶつくさと独り言を話しているようにしか見えないだろうが、私はある存在と会話をしていた。
ぶっきらぼうな口調の精霊——風の精霊王シルヴィス。それが今、私が会話をしている存在の正体である。
「連れ帰って、アインベルクに留まっていたらどうにかして何事もなく事を収めようと奔走してくれていた父に迷惑がかかる。……何より、ミハエラは多分、もうこの国にはいたくないでしょうし」
『……まぁ、気持ちは分かる』
「だから、ミハエラを連れて国を出る事にするわ」
『……それがあんたの出した答えってんなら、オレぁ尊重するぜ。だがその場合、〝結界〟はどうする気だ? あんたがいねえと機能しねえぞあれは』
「そんなの知らないわよ」
私はシルヴィスの懸念を一刀両断。
「なんであんなクソ王子のいる国を守り続けなきゃいけないのよ」
『……あんたの故郷もそのクソ王子のいる国なんだが?』
「アインベルク領については、他に怪しまれない程度に守って欲しいって信頼出来る他の精霊にお願いするつもり」
『成る程なぁ。それが無難だわな』
————『精霊姫』。
セフィリア・アインベルクとして生を受ける前の生にて、そんな呼ばれ方をしていた己の事を懐古しながら、私はシルヴィスとの会話をそこで打ち切った。
47
お気に入りに追加
3,916
あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

殿下に裏切られたことを感謝しています。だから妹と一緒に幸せになってください。なれるのであれば。
田太 優
恋愛
王子の誕生日パーティーは私を婚約者として正式に発表する場のはずだった。
しかし、事もあろうか王子は妹の嘘を信じて冤罪で私を断罪したのだ。
追い出された私は王家との関係を優先した親からも追い出される。
でも…面倒なことから解放され、私はやっと自分らしく生きられるようになった。

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。
彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。
混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。
そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。
当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。
そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。
彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。
※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる