聖姫調教物語

美絢

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27.嘘

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「王との謁見が決まった」

 それは突然だった。
 たまごかけごはんを食べている途中にカショウが訪れた。少し行ってくると言い残してコウヤは部屋を出ていった。暫くすると黒い薔薇を持って帰って来た。

「お花?」
「贈りものだって。王からハクヒに」

 それは細い花瓶に活けられている一輪の黒い薔薇だった。

「飾っておけばいいの?」
「多分?花をもらったことがないから分からない」
「ええ…?王様はなにがしたいんだろ…」

 とりあえずテーブルの上に置くように指示をする。
 …コウヤは花をもらったことがないのか。あげたいけどこの部屋には植物がないから無理そうだ。

「気に入った?」
「…まぁ、何もないよりかは」

 花を見るなんて久しぶりだ。色が少し怖いけど少しだけ心が和んだ気がした。

「謁見後に聖妃が決まる。訓練もおしまい」
「……そうなんだ」

 コウヤとの別れも近い。ここに来たばかりの頃を思い出す。…辛いこともたくさんあった。でも本当に、コウヤは俺を教育しきった。当初と比べて聖妃になる方へ気持ちが傾いている。
 自分が聖妃になればスイヒも幸せになれる。エンキも救えるかもしれない。
 それに、聖妃になればコウヤの夢がーーーー叶う。

「お花ありがとう、聖妃になれるように頑張るね」
「ハクヒは聖妃になりたいの?」

「え…っと、スイヒよりはなりたいかも」

「ふぅん?」

 コウヤは不思議そうな顔をした。…そうだ、コウヤはスイヒがカショウを好きなことを知らない。いきなり意気込んだら不審に思う可能性を失念していた。なんとかして誤魔化す。

「でも、その前に聖宮に行っておきたいなぁ…みんなに会いたいし」
「無理だよ」

 時が、止まる。

「その夢は叶わない。諦めて」
「諦めるもなにも…わかってるよ、」

 聖妃になったら王宮から出られない。
 聖妃になれなかったら女御にーー王様の愛人になる。

 どちらにしろここで一生を過ごすことは確定している。コウヤは心の内を読み取ったように頷いた。

「そのとおり。そしてハクヒの言う『みんな』はもういない」
「…………は?」

「聖宮は解散した」

 コウヤが静かに視線を合わせた。やっぱり言われている意味が分からない。

「解散、って…なに?」
「王が聖姫は不要だと判断した。もうあそこには誰もいない」

「誰もいないって…、うそだよね?」

 無意識に目を見開く。

「なんで…みんなが何かしたの…?」
「違う。王が聖妃以外はいらないと言ったんだ。だから聖姫たちは役目を終えた」

「うそだ!!役目を終えたって…二十歳になってないのに…!」

 思わず駆け寄ろうとした。


「……………ハクヒ。最後まで私の話を聞け」


 初めて会った日と同じ口調。思わず足を止める。急に貞操帯の存在を感じて太ももを擦り合わせた。指先が、震える。

「ほんと。今回の聖妃を最後に聖姫制度は廃止される」

 コウヤの方から距離を縮めた。震えている指先を取ると自身の手を重ねる。その指先は俺よりもずっと冷たい。そのまま強く握られる。

「ど、して…だって、聖液を取る為に聖姫は必要だって……」

「嘘だよ」
「…え?」

「嘘だよ。聖液には傷を癒す力も、病を治す力もない」

 呼吸の仕方を忘れて頭が真っ白になる。何かが崩れ落ちていく気がした。

「…ならどうして…俺たちはオツトメなんてしてるの…?」
「好事家、モノ好きのためだよ」

「こうず、か?」

「君たちの精液を呑むと若返ったり病が治ると信じている者がいるんだ」


 理解、できない。
 頭を無意識に左右に振る。言葉が脳に染み込む前に滑り落ちていく。

「王は悪しき風習から聖姫たちを解放すると決めた」

 理解、したくない。
 コウヤの手から逃れようとするが、離さないとでもいうかのように更に力が強まった。

「今回の聖妃を最後にようやく終止符が打たれる、」

 これ以上言葉を聞きたくなくて顔を背ける。でも、耳元ではっきりと言われた。


「聖姫は役割を終える、ーーー聖妃だけを残して」


 興奮が冷めて、悲しみが襲う。気づいたらぼろぼろと涙が出ていた。拭いたいのに手首を掴まれているからそれは叶わない。

「彼、彼女らは自由だ。もう聖液を出す必要もない」

 そうだ。逃げ出したくなるようなオツトメをしなくてもいい。自由に旅行だっていける。もうあの広くて狭い場所にいる必要もない。

「これがハクヒの言ってた自由じゃないの?もっと喜んであげたら?」

 コウヤが不思議そうに顔を覗き込む。確かにその通りだ。俺以外はきっと、その方が幸せなんだろう。

「………でも、俺はずっと聖姫でいたい…っ」

 聖姫は俺の生きる意味だ。自由になりたいと思ったが実際誰よりもその役割に囚われている。国のためになると信じて一生懸命オツトメをしてきた。
 そのプライドだけが俺を支えている。

「王は聖妃以外の聖姫は不要だと判断した。この意味、分かる?」

 俺が聖姫を続けるためには聖妃になるしかない。それ以外、俺が聖姫を続ける方法はない。
 つまり俺は、王のーーーーーー

「聖妃に、なる…なり、たい……っ!」

 コウヤは笑みを深くした。手首に回した手のひらがそっと肩を掴む。

「謁見、頑張ろうね」

 抱き寄せられて、頬にキスをされた。
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