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7.荷造り
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起きたら着物を掛けられていて、その上にはエンキと同じ手紙があった。
一体誰が…?
部屋を見渡した。鍵はかかっている。窓は開けっぱなしだがすぐ下を水路が流れているから侵入者の可能性は低い。そもそも聖宮に入れる人間は限られている。
エンキがスペアキーで勝手に入った…のか?
「………高そう」
俺は着物を手繰り寄せる。聖姫に与えられる着物はどれも上質だけれど、これは手触りが違う。
薔薇の花も緻密で本物のように綺麗だ。綺麗すぎて少し恐怖を覚える。そして白地の大半を占める大きな金の薔薇。まるで白を侵食しているようだった。
「一応掛けとくか…後でにょかちゃんに返そう…」
いそいそと着物を衣桁にかける。シンプルな部屋が一気に豪華になる。まるで一枚の絵のようだ。
「お腹すいた…食堂行こ」
おやつには少し遅い時間だ。女官に言えば早めの夕食を出してくれるだろう。寝間着から簡素な着物に着替えて部屋を後にした。
***
「うん。僕のところにもきたよ」
食堂にはあの日と同じくスイヒとツヤキがいた。贈り物のことを聞くとスイヒにも届いたようだ。
「やっぱり?全員に届くのかな?」
「オレは届いてないよ~?選抜落ちちゃったかぁざんねん」
スイヒには例の入れ物が届いたらしい。
銀色地にうすい翠色のカーネーションが描かれている着物が届いたそうだ。そして差出人は同じく『皇帝』だった。やはり俺の予想は当たっていた。
でも、俺だけ着物の法則から外れている。…どうしてだろう?
「言ってることと表情が矛盾してるし」
「だってオレは聖妃になりたくないもん。王宮に行けないのは残念だけどラッキー!」
ツヤキは嬉しそうにピースサインをしている。そこにはこの間の不安げな表情はなかった。安堵の息をつく。
「他の聖姫にも届いてないみたい。僕たち三人だけだね」
スイヒのところには聖姫が集まる。自然と情報が入ってくるのだろう。
つまり三人とはエンキとスイヒ、俺だ。
「ふーん?選抜基準どうなってんだろ」
少し早い夕食を食べながら考える。エンキとスイヒはわかる。二人ともすごく美人だし頭もいい。王様の好みはわからないが恐らくどちらかはストライクゾーンに入るだろう。
でも、俺は他の聖姫と違って平凡だ。頭は良くない、胸だってほぼ膨らんでないし色気も全くない。一番の褒め言葉は親しみやすいね、である。
「綺麗か親しみやすいかじゃない?」
「俺のこと馬鹿にしてる?」
「ハクヒは可愛いよ。自信を持って?」
ツヤキが楽しそうに言うので睨んだ。スイヒがフォローしてくれる。俺はやっぱりスイヒが好きだ。
「でも急だよね。明日王宮に来いなんて」
「は…?」
「荷物をまとめて明日王宮に来いって書いてあったよね?」
ハンバーグに箸を伸ばそうとして、時が止まる。スイヒはあれ?と首を傾げた。
俺は頭にはてなを浮かべた。エンキの紙の上半分しか見てなかったから詳細を見ていない。スイヒは巾着から例の紙を取り出した。綺麗に四つ折りにされているそれを目の前に広げてくれる。
「は!?聞いてない聞いてない!!」
「書いてあるからね。僕はツヤキに手伝ってもらって終わったよ」
そこには本当に、荷物をまとめて明日王宮に来いと書いてあった。見出しは仰々しかったのに急に馴れ馴れしくなっている。
俺は声を上げた。
「スイヒの裏切り者~!!ツヤキ、俺のも手伝って?」
「イヤに決まってんじゃん。エンキに手伝ってもらえば?」
「あいつが手伝うわけないだろ…むしろ俺が手伝う方じゃん…!」
思わず頭を抱える。エンキに生活能力はない。なのに化粧品や美容関係の物が鬼のようにある。女官も部屋には入れないから手伝うことはできない。
つまり、俺が全てやらなければならない。俺自身はあまり荷物はないけど、今日は変な夢を見て疲れている。ナゾの手さんにイかされまくったような疲労感に襲われる。
「………あ、ナゾの手さん…!」
俺はふと彼のことを思い出した。明日王宮へ向かうことを伝えられていない。彼がここに来るのは不定期だし、今日のオツトメはもう終わっている。
明日の朝イチで会える可能性は低い。もしかしたらお別れを言えないかもしれない。
「ナゾの手さん懐かし~まだお世話になってるの?」
「なってる。この間会ったんだけど王宮に行くこと伝えられないや…」
「女官に手紙を渡してもらうのはどう?」
「それだ!!」
ちなみにツヤキもスイヒもナゾの手さんの存在をあまり信じていない。一方で俺は、彼らがこなす下賜の儀の存在を信じられていない。そもそも下賜の儀がどんな儀式かも、知らない。
ハンバーグと残りのご飯を急いでかきこむ。お膳を厨房に戻して二人に手を振った。
***
「ハクヒ!こっちの棚もまとめて!」
ナゾの手さんに手紙を書くべく部屋に戻ると、すぐにエンキに捕まった。大きなケースを何個も床に置きながら荷物を入れている。全部持っていく気らしく物凄い量だ。
俺は早く用事を済ませるため、どんどんケースに化粧品やら何やらを放り込んでいく。投げるたびにエンキが悲鳴を上げる。
イヤなら自分でやれ。
「そういえば…ハクヒも聖妃候補に選ばれたんだって?」
「ん?あぁ、そうみたい」
「ボクの引き立て役ご苦労サマ。絶対選ばれないのに本当に王宮まで行くの?」
エンキが意地の悪い笑みを浮かべている。
こいつは俺にマウントを取らないと情緒が不安定になる病気を持っている。いつものことなので適当に流した。
「さすがに行かないとまずいだろ。俺はエンキを応援してるよ」
「…本当にハクヒはイジメ甲斐がない。前はムキになってたのに」
「いちいちムキになってたらやってられないから」
エンキは人遣いが荒いしワガママもすごい。みんなの前では高飛車だし態度もデカい。
でも、二人きりになるとそれは鳴りを顰める。俺が流しすぎて嫌味を言っても張り合いがないのだろう。生活能力は低いけど意外とお礼はちゃんと言えたりする。
「…よし。こんなんでいい?水路に流すよ?」
「うん…ありがとう」
俺はケースを水路に流していく。予想の倍以上のケースの量にげっそりしながらもどうにか片付けることができた。ナゾの手さんへの手紙と荷物をまとめるため部屋に向かう。
「ハクヒ!」
「ん?」
「もしボクが聖妃になったら…ボク専用の聖姫にしてあげる」
「え。絶対イヤだけど」
背中から声をかけられ、振り返る。ずっとベッドに座っているだけだったのに長い髪を引き摺りながらこちらに歩いてきた。俺の言葉にムキになる。
「どうして!?ボクの聖姫になれるなんて光栄でしょ!?」
「いやいや…単なる都合のいい奴隷が欲しいだけじゃん……」
小さくため息をつく。話を切り上げるように扉に手をかけた。
「……ま。エンキがいいならいいけど」
「本当!?」
エンキはパッと笑顔になる。本当に分かりやすい。彼は俺以外に心を許せる聖姫がいない。だからワガママを言うし離れることに不安を覚えているのだろう。
ひらひらと手を振ると扉を開けた。眠気を抱えながらなんとか手紙を書いて荷物をまとめる。
次の日の朝、俺は女官に手紙を渡して聖宮をでた。
一体誰が…?
部屋を見渡した。鍵はかかっている。窓は開けっぱなしだがすぐ下を水路が流れているから侵入者の可能性は低い。そもそも聖宮に入れる人間は限られている。
エンキがスペアキーで勝手に入った…のか?
「………高そう」
俺は着物を手繰り寄せる。聖姫に与えられる着物はどれも上質だけれど、これは手触りが違う。
薔薇の花も緻密で本物のように綺麗だ。綺麗すぎて少し恐怖を覚える。そして白地の大半を占める大きな金の薔薇。まるで白を侵食しているようだった。
「一応掛けとくか…後でにょかちゃんに返そう…」
いそいそと着物を衣桁にかける。シンプルな部屋が一気に豪華になる。まるで一枚の絵のようだ。
「お腹すいた…食堂行こ」
おやつには少し遅い時間だ。女官に言えば早めの夕食を出してくれるだろう。寝間着から簡素な着物に着替えて部屋を後にした。
***
「うん。僕のところにもきたよ」
食堂にはあの日と同じくスイヒとツヤキがいた。贈り物のことを聞くとスイヒにも届いたようだ。
「やっぱり?全員に届くのかな?」
「オレは届いてないよ~?選抜落ちちゃったかぁざんねん」
スイヒには例の入れ物が届いたらしい。
銀色地にうすい翠色のカーネーションが描かれている着物が届いたそうだ。そして差出人は同じく『皇帝』だった。やはり俺の予想は当たっていた。
でも、俺だけ着物の法則から外れている。…どうしてだろう?
「言ってることと表情が矛盾してるし」
「だってオレは聖妃になりたくないもん。王宮に行けないのは残念だけどラッキー!」
ツヤキは嬉しそうにピースサインをしている。そこにはこの間の不安げな表情はなかった。安堵の息をつく。
「他の聖姫にも届いてないみたい。僕たち三人だけだね」
スイヒのところには聖姫が集まる。自然と情報が入ってくるのだろう。
つまり三人とはエンキとスイヒ、俺だ。
「ふーん?選抜基準どうなってんだろ」
少し早い夕食を食べながら考える。エンキとスイヒはわかる。二人ともすごく美人だし頭もいい。王様の好みはわからないが恐らくどちらかはストライクゾーンに入るだろう。
でも、俺は他の聖姫と違って平凡だ。頭は良くない、胸だってほぼ膨らんでないし色気も全くない。一番の褒め言葉は親しみやすいね、である。
「綺麗か親しみやすいかじゃない?」
「俺のこと馬鹿にしてる?」
「ハクヒは可愛いよ。自信を持って?」
ツヤキが楽しそうに言うので睨んだ。スイヒがフォローしてくれる。俺はやっぱりスイヒが好きだ。
「でも急だよね。明日王宮に来いなんて」
「は…?」
「荷物をまとめて明日王宮に来いって書いてあったよね?」
ハンバーグに箸を伸ばそうとして、時が止まる。スイヒはあれ?と首を傾げた。
俺は頭にはてなを浮かべた。エンキの紙の上半分しか見てなかったから詳細を見ていない。スイヒは巾着から例の紙を取り出した。綺麗に四つ折りにされているそれを目の前に広げてくれる。
「は!?聞いてない聞いてない!!」
「書いてあるからね。僕はツヤキに手伝ってもらって終わったよ」
そこには本当に、荷物をまとめて明日王宮に来いと書いてあった。見出しは仰々しかったのに急に馴れ馴れしくなっている。
俺は声を上げた。
「スイヒの裏切り者~!!ツヤキ、俺のも手伝って?」
「イヤに決まってんじゃん。エンキに手伝ってもらえば?」
「あいつが手伝うわけないだろ…むしろ俺が手伝う方じゃん…!」
思わず頭を抱える。エンキに生活能力はない。なのに化粧品や美容関係の物が鬼のようにある。女官も部屋には入れないから手伝うことはできない。
つまり、俺が全てやらなければならない。俺自身はあまり荷物はないけど、今日は変な夢を見て疲れている。ナゾの手さんにイかされまくったような疲労感に襲われる。
「………あ、ナゾの手さん…!」
俺はふと彼のことを思い出した。明日王宮へ向かうことを伝えられていない。彼がここに来るのは不定期だし、今日のオツトメはもう終わっている。
明日の朝イチで会える可能性は低い。もしかしたらお別れを言えないかもしれない。
「ナゾの手さん懐かし~まだお世話になってるの?」
「なってる。この間会ったんだけど王宮に行くこと伝えられないや…」
「女官に手紙を渡してもらうのはどう?」
「それだ!!」
ちなみにツヤキもスイヒもナゾの手さんの存在をあまり信じていない。一方で俺は、彼らがこなす下賜の儀の存在を信じられていない。そもそも下賜の儀がどんな儀式かも、知らない。
ハンバーグと残りのご飯を急いでかきこむ。お膳を厨房に戻して二人に手を振った。
***
「ハクヒ!こっちの棚もまとめて!」
ナゾの手さんに手紙を書くべく部屋に戻ると、すぐにエンキに捕まった。大きなケースを何個も床に置きながら荷物を入れている。全部持っていく気らしく物凄い量だ。
俺は早く用事を済ませるため、どんどんケースに化粧品やら何やらを放り込んでいく。投げるたびにエンキが悲鳴を上げる。
イヤなら自分でやれ。
「そういえば…ハクヒも聖妃候補に選ばれたんだって?」
「ん?あぁ、そうみたい」
「ボクの引き立て役ご苦労サマ。絶対選ばれないのに本当に王宮まで行くの?」
エンキが意地の悪い笑みを浮かべている。
こいつは俺にマウントを取らないと情緒が不安定になる病気を持っている。いつものことなので適当に流した。
「さすがに行かないとまずいだろ。俺はエンキを応援してるよ」
「…本当にハクヒはイジメ甲斐がない。前はムキになってたのに」
「いちいちムキになってたらやってられないから」
エンキは人遣いが荒いしワガママもすごい。みんなの前では高飛車だし態度もデカい。
でも、二人きりになるとそれは鳴りを顰める。俺が流しすぎて嫌味を言っても張り合いがないのだろう。生活能力は低いけど意外とお礼はちゃんと言えたりする。
「…よし。こんなんでいい?水路に流すよ?」
「うん…ありがとう」
俺はケースを水路に流していく。予想の倍以上のケースの量にげっそりしながらもどうにか片付けることができた。ナゾの手さんへの手紙と荷物をまとめるため部屋に向かう。
「ハクヒ!」
「ん?」
「もしボクが聖妃になったら…ボク専用の聖姫にしてあげる」
「え。絶対イヤだけど」
背中から声をかけられ、振り返る。ずっとベッドに座っているだけだったのに長い髪を引き摺りながらこちらに歩いてきた。俺の言葉にムキになる。
「どうして!?ボクの聖姫になれるなんて光栄でしょ!?」
「いやいや…単なる都合のいい奴隷が欲しいだけじゃん……」
小さくため息をつく。話を切り上げるように扉に手をかけた。
「……ま。エンキがいいならいいけど」
「本当!?」
エンキはパッと笑顔になる。本当に分かりやすい。彼は俺以外に心を許せる聖姫がいない。だからワガママを言うし離れることに不安を覚えているのだろう。
ひらひらと手を振ると扉を開けた。眠気を抱えながらなんとか手紙を書いて荷物をまとめる。
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