光の狭間と境界線

依空

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幸せを求めて

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 「なあ、愛晴」
 「何?お父さん」
 私は、愛晴に全てを打ち明けようと思った。
 これ以上、愛晴が悲しまないように。
 そして、石随君も、苦しまないように。
 自分勝手な事かもしれないが、私は腹を括った。

 「愛晴、あのな…」




side愛晴

 私はお父さんから石随君のお姉さんの話を聞いた。
 でも、石随君は覚えていない。
 石随君は全くお姉さんを不幸にしていない。誰も不幸にしていない。
 明日、石随君に、ちゃんと伝えないと。

 翌日。
 緊張する面持ちで、石随君の元へ言った。
 「あの、陽向くん、ちょっと、いいかな?」

 学校の屋上で待ち合わせをした。
 どうしよう。
 自分が呼んだはずなのに、とても緊張する。
 どんな声で話そうか。どんな顔をしたらいいのか。どんな表情を見せたらいいのか。
 「香藤、どうしたの?」
 「えっ、まあね」
 そうして、私は話し始めた。

 私のお父さんは陽向くんのお姉さんの副担任だったそうだ。
 そのお姉さんは、学校でのいじめを期に自殺したという。
 陽向くんにもお姉さんがいたんだね。
 誰もが羨むような、そんなお姉さん。だから、皆がそんな素晴らしいお姉さんを傷つけてしまったんだね。
 お姉さんがいなくなってしまったことは、もう変えることができない。
 でもね、一つだけ、変えられることがあるの。
 それはね、あなたの気持ち。
 陽向の気持ちなの。
 陽向は誰も不幸になんかさせていない。
 誰かを不幸にするどころか、あなたは、あなたの両親を幸せにしているんだよ。
 お父さんから聞いたことだけどね、お姉さんのお葬式の日、陽向はあなたの両親に向かって、お母さん、お父さん、ごめんね、お姉ちゃんを守れなくて、ごめんね。って言ってたんだって。
 あなたの気持ちは、陽向の両親を幸せにしたの。
 陽向はとても心優しい人なの。
 だから、お願い。
 陽向は誰も傷つけてないから、陽向は幸せになるべき人なんだよ。
 陽向は陽向自身の両親も、私も、私のお父さんも幸せになれるような言葉をかけてくれた。
 次は、陽向の番。
 陽向が幸せにならないと。
 お姉さんも、きっと陽向の幸せを望んでるよ。




side陽向

 僕は誰も不幸にしていない。
 そう聞いた時、安堵の涙が頬を伝った。

 お姉ちゃん、お姉ちゃんは僕が困った時、辛い時、僕を助けてくれた。
 もう、自分のような被害者が出ないようにするため。
 僕のお姉ちゃんはとても心優しい人だったんだなって改めて思う。
 もう、なぜか分からないが、お姉ちゃんが僕を包んでくれることはないと思ってしまった。
 お姉ちゃんは、今の僕に勇気をくれた。
 この勇気を未来へ繋げないと…。

 幸せにならないと。
 僕の周りの人、皆と一緒に…。
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