結 ~むすび~

依空

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序章2

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 「テスト、あったんだよな」
 「この前結果見せたじゃん」
 「そうだったな。悪い悪い」
 「行ってきます」
 「もう行くのか。行ってらっしゃい」
 お父さん。
 僕はお父さんと二人暮しだ。
 僕が幼い頃、両親は離婚した。
 原因は妹だ。
 妹はお母さんのお腹の中で死んだ。
 なぜ死んだのか、分からなかった。それなのに、お母さんはお母さん自信を責めた。自分が悪かった、と。
 お父さんは、毎日毎日謝るお母さんに疲れきっていた。
 お父さんは僕を連れて、お母さんの家とは遠いマンションに引っ越した。
 本当は、お母さんと一緒が良かった。
 というより、お姉ちゃんと離れたくなかった。
 お母さんは看護師として、桜庭病院で働いている。
 その病院には、お姉ちゃんがいる。
 お姉ちゃんは僕は悪くないと、いつも言ってくれた。
 僕がいじめられていることも知っていた。
 お父さんやお母さんに言えない事も、お姉ちゃんになら、隠さずに伝えることができた。
 そして、お姉ちゃんの入院している病院には、僕が小さい頃から仲良くしている友達がいる。
 青井乃々くん。
 乃々は体を自分で動かすことはできない。そのせいか、乃々のお父さんとお母さんは全く見舞いに来ない。
 乃々は、僕の話を聞いてくれる。そして、ちゃんと反応してくれる。
 お姉ちゃんも、乃々も、お母さんもいる。だから、僕は桜庭病院が好きだ。

 そんな事を考えながら歩いていると、学校に着いてしまった。
 また、今日が始まるのか…。
 僕の足取りは重くなる。
 一年三組。
 扉を開けた。
 おはよう、の言葉はない。
 その代わりの言葉ならある。
 「おい、星有が来たぞ」
 こそこそ話ではあるが、しっかりと僕の耳に届く。
 僕は何もしていないはずだ。
 でも、ある日を境に、僕は他人としゃべるのを拒み始めた。
 なんでその日から人を拒んでいるのかが分からない。
 でも、その日から思い続けていることならある。
 死にたい。
 住み心地の悪い小さな世界に居続けるのは辛く、それなら空へ飛び立ちたい。
 死ぬなら、何がいいかな。
 飛び降り?首吊り?それとも薬の多量摂取?
 そんな事しか考えられない僕は、生きる価値を見いだせない。
 周りの人の話題が全て、僕の死について語っているような気がする。

 あいつなんか、死ねばいいのにね。
 早く消えないかな。

 他の話題をしゃべっている。
 それは分かっている。
 それなのに、クラスの皆が、僕を指さして、笑いものにしている気さえする。
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